◇第百三十九話◇想いの行方を決意する
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調査兵達が帰還したのは、真夜中だった。
極秘作戦の大成功を祝っているのだろうか。
頭上には目を見張るほどに美しい満月が浮かんでいた。
そして、満月の祝福から逃げるようにして兵舎の門をくぐっていく調査兵達を執拗に追いかけている。
月明かりは、彼らの疲弊しきった顔を照らし出して逃がさない。
精神的にも身体的にもダメージの大きな壁外調査だった。
104期のメンバーと共に荷馬車から降りたジャンは、負傷者を乗せた荷馬車が慌ただしく医療棟へと走る背中をただじっと見送っていた。
今すぐに休みたいところだが、そうはいかない。
これだけ大きな作戦だったのだ。
捕えたライナーとベルトルトを予め用意しておいた地下牢に投獄する仕事と早速の会議・報告が残っているだろう。
調査兵達は兵舎門内の広場に整列して、幹部陣からの指示を待つ。
「———今後の詳細はそれぞれの隊長から班長に連絡が行きます。
明後日からの任務に備えて、明日はしっかりと休息をとるように。」
指示を出したのは、第四分隊の副隊長であるモブリットだ。
調査兵達の疲労も考慮して、明日は臨時的に休みとしてくれるようだ。
でもそれは、幹部陣以外の調査兵達だけである。
幹部陣は、これからが忙しさの本番と言ってもいい。
本来であれば、精鋭兵も会議に参加して壁外調査の報告を行うことになっているが、今回は免除となるらしい。
幹部陣から自室に戻り休むように指示を受け、ホッとしたような表情を浮かべた者も数名いたが、ほとんどの調査兵は虚ろな瞳でふらふらと自室へと戻っていくので精一杯のようだった。
ジャンもまた憂鬱な気分を隠す気力もないまま、虚ろな瞳でふらふらと歩くコニーの隣に並んだ。
「ジャン、どこへ行く気だ。」
歩き出してすぐに、呼び止められた。
振り返れば、リヴァイが険しい表情でジャンを見据えている。
「どこって…、部屋に戻るんすけど。」
ジャンは訝しげに首を傾げながら、調査兵達の背中を指さした。
さっきまで隣にいたコニーの後姿は、ふらふらと揺れながらゆっくりと遠ざかっていく。きっと、ジャンが今隣にいないこともわかっていない。いや、さっきまで隣にいたのだということも分かっていないのだろう。
今このとき、自分の置かれている状況を理解している調査兵が一体何人いるだろう。
少なくとも、ジャンはもう何も考えられないくらいに疲れていたし、混乱している。
「クソが。」
「は?」
リヴァイから唐突に吐き捨てられた悪態に、ジャンは思わず眉を顰めた。
元々口の悪い彼が悪態を吐くのは珍しいことではない。
けれど今は疲れすぎていて、いつもよりも余計に腹が立つ。
彼が上司だということも忘れて、言い返してしまいそうだ。
それでも、僅かに残っていた理性をフル稼働させてなんとかグッと抑え込む。
「すみません、気づけなくて。
何か指示がありますか。」
出来るだけ丁寧に対応したはずだ。
けれど、リヴァイは苛立った様子でため息を吐いた。
「お前は、医療棟に行ってなまえの様子を見てこい。」
「え?でも……リヴァイ兵長は……?」
意外な指示だった。
想定外だったそれのせいで、思わず素直に疑問を口にしてしまってすぐに気がついた。
今からが忙しさの本番である調査兵団の幹部陣の中に、リヴァイもいる。
彼は今、なまえのそばにはいてやれない。
「俺は今から会議だ。お前と違って暇じゃねぇ。」
「そう……っすよね。」
リヴァイのセリフは嫌味混じりだったのかもしれない。
なまえへのリヴァイの想いは本物なのだろう、とここ最近の態度で嫌という程に思い知らされている。
そんな彼が、恋敵とも呼べるジャンをなまえのそばに行かせるだろうか。
きっと、今このとき、誰よりも彼女に近寄らせたくないのがジャンのはずだ。
それとも、本物の結婚を約束した彼は、偽物の婚約者にしかなれなかったジャンのことを恋敵だとさえ認めてくれていないのかもしれない。
「分かったら早く行け!」
「は、はい…!」
よく分からなかったけれど、このままボーッとしていたらリヴァイに殴られてしまいそうだった。
ジャンはすぐに踵を返して、医療棟の方へと走り出す。
「チッ、言わねぇと分からねぇのか。」
「リヴァイ、行くよ~!」
ハンジがリヴァイの首根っこを捕まえた。
極秘作戦の大成功を祝っているのだろうか。
頭上には目を見張るほどに美しい満月が浮かんでいた。
そして、満月の祝福から逃げるようにして兵舎の門をくぐっていく調査兵達を執拗に追いかけている。
月明かりは、彼らの疲弊しきった顔を照らし出して逃がさない。
精神的にも身体的にもダメージの大きな壁外調査だった。
104期のメンバーと共に荷馬車から降りたジャンは、負傷者を乗せた荷馬車が慌ただしく医療棟へと走る背中をただじっと見送っていた。
今すぐに休みたいところだが、そうはいかない。
これだけ大きな作戦だったのだ。
捕えたライナーとベルトルトを予め用意しておいた地下牢に投獄する仕事と早速の会議・報告が残っているだろう。
調査兵達は兵舎門内の広場に整列して、幹部陣からの指示を待つ。
「———今後の詳細はそれぞれの隊長から班長に連絡が行きます。
明後日からの任務に備えて、明日はしっかりと休息をとるように。」
指示を出したのは、第四分隊の副隊長であるモブリットだ。
調査兵達の疲労も考慮して、明日は臨時的に休みとしてくれるようだ。
でもそれは、幹部陣以外の調査兵達だけである。
幹部陣は、これからが忙しさの本番と言ってもいい。
本来であれば、精鋭兵も会議に参加して壁外調査の報告を行うことになっているが、今回は免除となるらしい。
幹部陣から自室に戻り休むように指示を受け、ホッとしたような表情を浮かべた者も数名いたが、ほとんどの調査兵は虚ろな瞳でふらふらと自室へと戻っていくので精一杯のようだった。
ジャンもまた憂鬱な気分を隠す気力もないまま、虚ろな瞳でふらふらと歩くコニーの隣に並んだ。
「ジャン、どこへ行く気だ。」
歩き出してすぐに、呼び止められた。
振り返れば、リヴァイが険しい表情でジャンを見据えている。
「どこって…、部屋に戻るんすけど。」
ジャンは訝しげに首を傾げながら、調査兵達の背中を指さした。
さっきまで隣にいたコニーの後姿は、ふらふらと揺れながらゆっくりと遠ざかっていく。きっと、ジャンが今隣にいないこともわかっていない。いや、さっきまで隣にいたのだということも分かっていないのだろう。
今このとき、自分の置かれている状況を理解している調査兵が一体何人いるだろう。
少なくとも、ジャンはもう何も考えられないくらいに疲れていたし、混乱している。
「クソが。」
「は?」
リヴァイから唐突に吐き捨てられた悪態に、ジャンは思わず眉を顰めた。
元々口の悪い彼が悪態を吐くのは珍しいことではない。
けれど今は疲れすぎていて、いつもよりも余計に腹が立つ。
彼が上司だということも忘れて、言い返してしまいそうだ。
それでも、僅かに残っていた理性をフル稼働させてなんとかグッと抑え込む。
「すみません、気づけなくて。
何か指示がありますか。」
出来るだけ丁寧に対応したはずだ。
けれど、リヴァイは苛立った様子でため息を吐いた。
「お前は、医療棟に行ってなまえの様子を見てこい。」
「え?でも……リヴァイ兵長は……?」
意外な指示だった。
想定外だったそれのせいで、思わず素直に疑問を口にしてしまってすぐに気がついた。
今からが忙しさの本番である調査兵団の幹部陣の中に、リヴァイもいる。
彼は今、なまえのそばにはいてやれない。
「俺は今から会議だ。お前と違って暇じゃねぇ。」
「そう……っすよね。」
リヴァイのセリフは嫌味混じりだったのかもしれない。
なまえへのリヴァイの想いは本物なのだろう、とここ最近の態度で嫌という程に思い知らされている。
そんな彼が、恋敵とも呼べるジャンをなまえのそばに行かせるだろうか。
きっと、今このとき、誰よりも彼女に近寄らせたくないのがジャンのはずだ。
それとも、本物の結婚を約束した彼は、偽物の婚約者にしかなれなかったジャンのことを恋敵だとさえ認めてくれていないのかもしれない。
「分かったら早く行け!」
「は、はい…!」
よく分からなかったけれど、このままボーッとしていたらリヴァイに殴られてしまいそうだった。
ジャンはすぐに踵を返して、医療棟の方へと走り出す。
「チッ、言わねぇと分からねぇのか。」
「リヴァイ、行くよ~!」
ハンジがリヴァイの首根っこを捕まえた。