◇第百三十九話◇守りたい人と守るべき想い(4)
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「時間がねぇ。早く放しやがれ。」
リヴァイが何を言っても、ジャンは歯を噛むように力強く口を結び、首を横に振った。
頭上からは、フレイヤが叫ぶ声が聞こえてくる。
そして、リヴァイとジャンが押し問答をしている間にも、なまえの身体は下から巨人に引っ張られていた。
その度に少しずつ、ジャンの手は掴まえたなまえの腕を滑らせているのだ。
今はなんとかギリギリ巨人の指が届く距離でなんとか堪えているからこの程度で済んでいるが、これ以上、なまえの身体を下に引っ張られたらお終いだ。
なまえもろとも芋ずる式に引きずり降ろされる。
眼下の巨人もどんどん増えてきている。
本当に鎧の巨人が助けに来てくれたらよかったのに————馬鹿だと分かっていても、リヴァイまでそう願ってしまいそうになる。
けれど、彼らが調査兵団の元に戻ることはもう二度とないのだろう。
戻ってしまえば、尋問と罰が待っていることを彼らも分かっているはずだ。
(なまえ…。)
ジャンに腕を掴まれて、ただぶら下がっているだけのなまえを見つめる。
瞼を閉じたその表情はいつもの寝顔と変わらないのに、額の傷がひどく痛々しくて現実を思い知らされる。
何とか助けることが出来れば、またいつもみたいに綺麗に笑ってくれるのだろうか。
壁外調査が終わったら籍を入れようと交わした約束を、叶えてくれたのだろうか。
こんなときだというのに。いや、こんなときだからこそ、なのかもしれない。
出逢った頃の彼女が思い出される。
王都の地下街から出てきた正体不明のゴロツキに対して拒絶を示す調査兵達が多い中、なまえだけは違っていた。
他の調査兵達と雰囲気がまるで違うなまえは、あの頃から眠り姫だと揶揄されていたけれど、その本当の意味を知らなかったリヴァイ達でさえも、違和感は覚えなかった。
綺麗で、穢れを知らない彼女は、本物のお姫様みたいだったからだ。
そして自分達は、泥水をすすって生きてきた。言わば、住む世界の違う人間だ。
それなのに、なまえは、見た目や生まれで人を判断することはなかった。偏見のない真っ直ぐな瞳でリヴァイ達を見つめて、いつも笑顔で声をかけてきた。
きっと、調査兵団に馴染めないリヴァイ達を気遣って、仲間の中へと入れてやろうと考えたのだろう。
もともと社交的なファーランとイザベルは、すごく嬉しそうだったし、なまえとも割と早い段階で仲良くしていたように思う。
けれど、調査兵と慣れ合うつもりのなかったリヴァイは、なまえに冷たくあたっていたのだ。
それになまえは、だらしなくて、何ごとも適当で、部屋はいつも散らかっていて汚くて、第一印象なんて最悪だった。
けれど、なまえを知れば知るほど、惹かれていく。そんな不思議なオーラも持っていた。
なまえはいつも微笑んでいて、どんな地獄を見せつけられても絶対に絶望したりしない。欺瞞だらけの汚い世界を嘆いたりしない。
だらしなくて、適当で、放っておけなくて、守ってやりたいと思えば思うほど、本当は自分なんかよりもずっと強いのだということを思い知らされる。
今となっては、なまえを愛するのは、必然だったように思う。
愛されたいと願ったことはある。けれど、愛されたいから愛したわけでもない。
愛してはくれなくても構わない。他の男と結ばれたいのなら、そうすればいい。
本当はただ、なまえに生きていてほしかった。
彼女が笑っている世界にずっといたかった。
彼女の生きている世界だから、守りたかった。
それだけで、よかったのに————。
「なまえ、俺を恨め。」
リヴァイは、なまえの肩の辺りにめがけてブーツを蹴り落した。
リヴァイが何を言っても、ジャンは歯を噛むように力強く口を結び、首を横に振った。
頭上からは、フレイヤが叫ぶ声が聞こえてくる。
そして、リヴァイとジャンが押し問答をしている間にも、なまえの身体は下から巨人に引っ張られていた。
その度に少しずつ、ジャンの手は掴まえたなまえの腕を滑らせているのだ。
今はなんとかギリギリ巨人の指が届く距離でなんとか堪えているからこの程度で済んでいるが、これ以上、なまえの身体を下に引っ張られたらお終いだ。
なまえもろとも芋ずる式に引きずり降ろされる。
眼下の巨人もどんどん増えてきている。
本当に鎧の巨人が助けに来てくれたらよかったのに————馬鹿だと分かっていても、リヴァイまでそう願ってしまいそうになる。
けれど、彼らが調査兵団の元に戻ることはもう二度とないのだろう。
戻ってしまえば、尋問と罰が待っていることを彼らも分かっているはずだ。
(なまえ…。)
ジャンに腕を掴まれて、ただぶら下がっているだけのなまえを見つめる。
瞼を閉じたその表情はいつもの寝顔と変わらないのに、額の傷がひどく痛々しくて現実を思い知らされる。
何とか助けることが出来れば、またいつもみたいに綺麗に笑ってくれるのだろうか。
壁外調査が終わったら籍を入れようと交わした約束を、叶えてくれたのだろうか。
こんなときだというのに。いや、こんなときだからこそ、なのかもしれない。
出逢った頃の彼女が思い出される。
王都の地下街から出てきた正体不明のゴロツキに対して拒絶を示す調査兵達が多い中、なまえだけは違っていた。
他の調査兵達と雰囲気がまるで違うなまえは、あの頃から眠り姫だと揶揄されていたけれど、その本当の意味を知らなかったリヴァイ達でさえも、違和感は覚えなかった。
綺麗で、穢れを知らない彼女は、本物のお姫様みたいだったからだ。
そして自分達は、泥水をすすって生きてきた。言わば、住む世界の違う人間だ。
それなのに、なまえは、見た目や生まれで人を判断することはなかった。偏見のない真っ直ぐな瞳でリヴァイ達を見つめて、いつも笑顔で声をかけてきた。
きっと、調査兵団に馴染めないリヴァイ達を気遣って、仲間の中へと入れてやろうと考えたのだろう。
もともと社交的なファーランとイザベルは、すごく嬉しそうだったし、なまえとも割と早い段階で仲良くしていたように思う。
けれど、調査兵と慣れ合うつもりのなかったリヴァイは、なまえに冷たくあたっていたのだ。
それになまえは、だらしなくて、何ごとも適当で、部屋はいつも散らかっていて汚くて、第一印象なんて最悪だった。
けれど、なまえを知れば知るほど、惹かれていく。そんな不思議なオーラも持っていた。
なまえはいつも微笑んでいて、どんな地獄を見せつけられても絶対に絶望したりしない。欺瞞だらけの汚い世界を嘆いたりしない。
だらしなくて、適当で、放っておけなくて、守ってやりたいと思えば思うほど、本当は自分なんかよりもずっと強いのだということを思い知らされる。
今となっては、なまえを愛するのは、必然だったように思う。
愛されたいと願ったことはある。けれど、愛されたいから愛したわけでもない。
愛してはくれなくても構わない。他の男と結ばれたいのなら、そうすればいい。
本当はただ、なまえに生きていてほしかった。
彼女が笑っている世界にずっといたかった。
彼女の生きている世界だから、守りたかった。
それだけで、よかったのに————。
「なまえ、俺を恨め。」
リヴァイは、なまえの肩の辺りにめがけてブーツを蹴り落した。