「エレンは！エレンが巨人化して助けに行けねぇのかよ！」

壁上では、ゲルガーが声を荒げていた。
あと少し———あと少しで、3人とも無事に壁上に来れるのだ。
たったひとりの命も、諦めたくない。
けれど、モブリットが悔し気に首を横に振る。

「無理だ。エレンは巨人化のし過ぎで疲弊して動ける状態じゃない。
　鎧の巨人との格闘で身体もボロボロだ。起きても、巨人化がうまくいくとは思えない。」
「クソ！」

ゲルガーが悔し気に地面を蹴った。
眠っているエレンに非はない。
彼の力を最大限に借りなければ、精鋭兵は鎧の巨人をここまで引き留めることが出来なかったのだ。
もう少し———。
せめて、ガスが残る程度の戦闘で自分達が鎧の巨人を捕らえることが出来たのならこんなことにならなかった————悔しくて仕方がないのは、皆同じだ。
項垂れるナナバをハンジがそっと抱きしめる。
このまま補充用ガスを待ってはいられない。そんなことをしていたら、なまえもろともジャンは力尽きて落ちてしまうだろう。
せめて、なまえの転落事故が立体起動装置のガス補充が終えた後だったのなら助けに行けた。
どうして、準備も全く終わっていない今だったのか。
一体、どうしたら————調査兵達の間に絶望的な空気が漂い始めた。

「なんでだよ！！このままじゃジャンが死んじまう！！こんなのあんまりだろ！
　俺達は、ジャンまで失うのかよ…！！」

コニーが悲鳴のように叫んで頭を抱えてうずくまる。
優しい彼の心は、とっくに限界なんて越えていたのだ。
そこへきての転落事故だ。
ジャンまで————コニーが叫んだその言葉が、調査兵達の胸にグサリと刺さる。
104期の調査兵達は特にそうだったはずだ。
いつもは飄々としていることの多いユミルでさえ、両手で顔を覆ってしまったヒストリアをそっと守るように抱きしめて、悔し気に眉を顰めていた。