◇第百三十五話◇呆気なく想像を超えていく地獄の中で君は
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
必死の逃走を図る鎧の巨人を取り囲む調査兵のほとんどすべてが、精鋭兵だった。
けれど、鎧の巨人の硬い皮膚を前に誰ひとりとして決定的な一撃を与えられずにいる。
精鋭兵の中でもトップクラスの実力を誇るリヴァイ班でも、それは同じだ。
———なんとしてでも鎧の巨人を捕らえる!
調査兵達は皆、強くそう決意している。
そしてまた、鎧の巨人も何としてでも逃げきろうとしている。
どちらも一歩も引かないまま、戦場はウォール・マリアから壁の向こうへと変わってしまった。
一晩の休憩で体力回復に努めたエレンは、エルヴィンから許可を得て巨人化して応戦している。
精鋭兵達が必死に食らいついているが、きっと、エレンの巨人化がなければ鎧の巨人をここまで引き留めることは出来なかっただろう。
ついに、精鋭兵の1人が鎧の巨人の肩に飛び乗ることに成功した。
コニーだ。
「全部嘘だったのかよ…!」
コニーが叫ぶ。
両腕を胸の前で組んでベルトルトを守る鎧の巨人からの反応はない。
辺りを飛び回り、自身の首を刎ねる隙を狙う精鋭兵に意識を飛ばしながら逃げる。それだけだ。
「どうすりゃ皆で生き残れるか話し合ったのも
おっさんになるまで生きていつか酒飲もうって話したのも…全部…嘘だったのか…?」
コニーもまた必死だった。必死に、冷静に努めようとしていた。
念願だった憲兵団を捨てて調査兵団を志願したのは、トロスト区への巨人強襲を経験したからだ。
巨人を討伐する術を得た自分達が今、何をするべきなのかを知ってしまったらもう逃げられなかった。
あの日から4年以上の月日が流れ、経験と共に周りも一目置くほどの技術も身についた。
それはすべて、仲間がすぐそばにいたからだ。
守りたい仲間がいた。共に成長してくれる友人がいた。
それなのに———。
「なぁ!?お前ら…、お前らは今まで何考えてたんだ…!?」
コニーが声を荒げる。
ライナーとベルトルトと彼が同期であることは、周りにいる精鋭兵の皆が知っている。
彼の胸の苦しみが、自分のそれとは比べものにはならないだろうことも理解している。
無邪気なコニーを知っているからこそ、余計にツラくなる。
この世界は地獄であることを十分に知っていると信じていた自分達の考えの甘さを思い知らされる。
残酷な現実は、自分達の想像を呆気なく超えていく。
いつだって、そうだ。
「リヴァイ、作戦Dだ。なまえが来た。」
このままどうやって鎧の巨人に近づこうか———と考えていたリヴァイのもとに、ミケが飛んでくる。
「了解だ。」
壁の外へ出た場合、エルヴィンは壁上から全体を見渡しながらの総司令を担うことになっている。
その為、現場での指揮官はリヴァイに一任されていた。
リヴァイは後ろに視線を向けると、悔し気に唇を噛んだ。
こうなる前にどうにかしたかった———それが正直な気持ちだ。
「総員、散開!!鎧の巨人から離れろ!!」
リヴァイが叫ぶ。
作戦を把握していた精鋭兵達は一瞬で理解して、鎧の巨人から距離をとった。
何も知らされていない若い精鋭兵達も、リヴァイの方を向いてすぐに事態を理解する。
「なんだ…あれ…ッ。」
若い精鋭兵達は一様に顔面を真っ青にして、鎧の巨人から離れる。
彼らの視線の先では、こちらに馬を駆けさせるなまえの姿があった。
彼女が引き連れているのは、見覚えのある数名の精鋭兵だけではなかった。
巨人の大群だ。
なまえと精鋭兵達が猛スピードで馬を駆けさせる、その後ろから巨人の大群が彼女達を喰らおうと追いかけている。
嫌、違う。なまえと精鋭兵達は、わざと巨人の好きにさせている。そうして、巨人の大群を連れて来たのだ。
なまえの瞳がキラリと光って、待ち構える精鋭兵達の背筋をゾクリと凍らせる。
捕らえることが叶わないのならば、天敵である巨人を利用してでも人類の仇を討つ—————遠くからでも分かるほどの強い殺気を彼女は放っていた。
あの大量の巨人達もろとも、鎧の巨人に飛び込んでくるつもりだということは明らかだった。
けれど、ただ1人だけ、鎧の巨人から離れられない精鋭兵がいた。
コニーだ。
「待っ…、待って…っ。待ってください!!こいつら、きっと何か理由があったはずなんです!!
こいつらが、本当に人を殺したなんて…っ、俺達を…っ、仲間を…見殺しにしようとしてたなんて
そんなわけ…っ、ねぇから…!!」
コニーは、鎧の巨人の肩の上で叫んだ。
彼はよく、友人達に『バカ』だとからかわれている。
けれど、そんな彼ですら、今自分が言ったその言葉が願望でしかないことを嫌という程に理解しているはずだ。
だから彼は、零れ落ちそうなほどに大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべているのだろう。
なんとか必死に冷静に努めようとしてきた。精鋭兵として、調査兵として、彼は今の今まで自分がやるべきことをしてきた。
けれど最後の最後に、彼は、ライナーとベルトルトを見放せなかった。
そして、調査兵ではなくただの友人でいることを選んでしまった。
「お前ら104期からは後から嫌という程に話を聞かせてもらう!
今は撤退だ!!そこから離れろ!!」
リヴァイが怒鳴る。
最後の最後に情けを見せてしまったコニーを責める精鋭兵はひとりもいない。
けれど、壁の外まで鎧の巨人を追いかけてきた精鋭兵達は、コニーに時間をやることは出来なかった。
さすが、馬の扱いの上手い精鋭兵を幹部で悩みに悩んで選別しただけある。
巨人の大群を連れたなまえと精鋭兵は、あっという間にすぐそこまでに迫っていた。
もう、時間がない。
『エルヴィン団長、ひとつお願いがあります。』
『何かな。』
『鎧の巨人を夜のうちに捕らえられなかった場合、104期は私に任せてもらえませんか。』
リヴァイの脳裏に、作戦会議時のなまえの声が蘇る。
あのとき、ライナーとベルトルトを殺すかもしれない作戦を立てながら、なまえはそれでもなお104期の調査兵達の身と心を案じていた。
『104期は私と共に護衛部隊にまわってもらいます。
私が絶対に、104期を死なせない。』
『それは、ライナーとベルトルトが敵かもしれないと気づいてしまった償いか?』
『そうかも…、しれません。これ以上、104期の仲間を傷つけたくない。
けれど、それだけじゃないです。私は———。』
なまえが続けた言葉に驚いたのは、リヴァイだけではない。
エルヴィンも驚いたから、息を呑んで判断に一瞬迷ったのだ。
けれど、ありえないと突き放せるようなものでもなかった。
呆れるほどに優しいなまえらしいと思った。
今でもまだ、リヴァイにはなまえの判断に無条件に頷けずにいる。
けれど、彼女の覚悟と優しさ、強さは信じている。
なまえが、104期の仲間を1人も死なせたくないと願っていることも———。
「リヴァイ、もう時間が———。」
「俺が行く。」
「…!」
「お前は他の精鋭兵を連れてここを離れろ。
コニーは俺が連れて帰る。」
「———なまえの為か。」
「・・・そうだな。死んでも、あそこにいるバカとデカブツの為ではねぇのは確かだ。」
「フッ。」
鼻で笑った後、ミケは了承の意を伝え精鋭兵達に撤退を命じる。
それと同時に、リヴァイが鎧の巨人へ向かって飛んだ。
けれど、鎧の巨人の硬い皮膚を前に誰ひとりとして決定的な一撃を与えられずにいる。
精鋭兵の中でもトップクラスの実力を誇るリヴァイ班でも、それは同じだ。
———なんとしてでも鎧の巨人を捕らえる!
調査兵達は皆、強くそう決意している。
そしてまた、鎧の巨人も何としてでも逃げきろうとしている。
どちらも一歩も引かないまま、戦場はウォール・マリアから壁の向こうへと変わってしまった。
一晩の休憩で体力回復に努めたエレンは、エルヴィンから許可を得て巨人化して応戦している。
精鋭兵達が必死に食らいついているが、きっと、エレンの巨人化がなければ鎧の巨人をここまで引き留めることは出来なかっただろう。
ついに、精鋭兵の1人が鎧の巨人の肩に飛び乗ることに成功した。
コニーだ。
「全部嘘だったのかよ…!」
コニーが叫ぶ。
両腕を胸の前で組んでベルトルトを守る鎧の巨人からの反応はない。
辺りを飛び回り、自身の首を刎ねる隙を狙う精鋭兵に意識を飛ばしながら逃げる。それだけだ。
「どうすりゃ皆で生き残れるか話し合ったのも
おっさんになるまで生きていつか酒飲もうって話したのも…全部…嘘だったのか…?」
コニーもまた必死だった。必死に、冷静に努めようとしていた。
念願だった憲兵団を捨てて調査兵団を志願したのは、トロスト区への巨人強襲を経験したからだ。
巨人を討伐する術を得た自分達が今、何をするべきなのかを知ってしまったらもう逃げられなかった。
あの日から4年以上の月日が流れ、経験と共に周りも一目置くほどの技術も身についた。
それはすべて、仲間がすぐそばにいたからだ。
守りたい仲間がいた。共に成長してくれる友人がいた。
それなのに———。
「なぁ!?お前ら…、お前らは今まで何考えてたんだ…!?」
コニーが声を荒げる。
ライナーとベルトルトと彼が同期であることは、周りにいる精鋭兵の皆が知っている。
彼の胸の苦しみが、自分のそれとは比べものにはならないだろうことも理解している。
無邪気なコニーを知っているからこそ、余計にツラくなる。
この世界は地獄であることを十分に知っていると信じていた自分達の考えの甘さを思い知らされる。
残酷な現実は、自分達の想像を呆気なく超えていく。
いつだって、そうだ。
「リヴァイ、作戦Dだ。なまえが来た。」
このままどうやって鎧の巨人に近づこうか———と考えていたリヴァイのもとに、ミケが飛んでくる。
「了解だ。」
壁の外へ出た場合、エルヴィンは壁上から全体を見渡しながらの総司令を担うことになっている。
その為、現場での指揮官はリヴァイに一任されていた。
リヴァイは後ろに視線を向けると、悔し気に唇を噛んだ。
こうなる前にどうにかしたかった———それが正直な気持ちだ。
「総員、散開!!鎧の巨人から離れろ!!」
リヴァイが叫ぶ。
作戦を把握していた精鋭兵達は一瞬で理解して、鎧の巨人から距離をとった。
何も知らされていない若い精鋭兵達も、リヴァイの方を向いてすぐに事態を理解する。
「なんだ…あれ…ッ。」
若い精鋭兵達は一様に顔面を真っ青にして、鎧の巨人から離れる。
彼らの視線の先では、こちらに馬を駆けさせるなまえの姿があった。
彼女が引き連れているのは、見覚えのある数名の精鋭兵だけではなかった。
巨人の大群だ。
なまえと精鋭兵達が猛スピードで馬を駆けさせる、その後ろから巨人の大群が彼女達を喰らおうと追いかけている。
嫌、違う。なまえと精鋭兵達は、わざと巨人の好きにさせている。そうして、巨人の大群を連れて来たのだ。
なまえの瞳がキラリと光って、待ち構える精鋭兵達の背筋をゾクリと凍らせる。
捕らえることが叶わないのならば、天敵である巨人を利用してでも人類の仇を討つ—————遠くからでも分かるほどの強い殺気を彼女は放っていた。
あの大量の巨人達もろとも、鎧の巨人に飛び込んでくるつもりだということは明らかだった。
けれど、ただ1人だけ、鎧の巨人から離れられない精鋭兵がいた。
コニーだ。
「待っ…、待って…っ。待ってください!!こいつら、きっと何か理由があったはずなんです!!
こいつらが、本当に人を殺したなんて…っ、俺達を…っ、仲間を…見殺しにしようとしてたなんて
そんなわけ…っ、ねぇから…!!」
コニーは、鎧の巨人の肩の上で叫んだ。
彼はよく、友人達に『バカ』だとからかわれている。
けれど、そんな彼ですら、今自分が言ったその言葉が願望でしかないことを嫌という程に理解しているはずだ。
だから彼は、零れ落ちそうなほどに大きな瞳に涙をいっぱいに浮かべているのだろう。
なんとか必死に冷静に努めようとしてきた。精鋭兵として、調査兵として、彼は今の今まで自分がやるべきことをしてきた。
けれど最後の最後に、彼は、ライナーとベルトルトを見放せなかった。
そして、調査兵ではなくただの友人でいることを選んでしまった。
「お前ら104期からは後から嫌という程に話を聞かせてもらう!
今は撤退だ!!そこから離れろ!!」
リヴァイが怒鳴る。
最後の最後に情けを見せてしまったコニーを責める精鋭兵はひとりもいない。
けれど、壁の外まで鎧の巨人を追いかけてきた精鋭兵達は、コニーに時間をやることは出来なかった。
さすが、馬の扱いの上手い精鋭兵を幹部で悩みに悩んで選別しただけある。
巨人の大群を連れたなまえと精鋭兵は、あっという間にすぐそこまでに迫っていた。
もう、時間がない。
『エルヴィン団長、ひとつお願いがあります。』
『何かな。』
『鎧の巨人を夜のうちに捕らえられなかった場合、104期は私に任せてもらえませんか。』
リヴァイの脳裏に、作戦会議時のなまえの声が蘇る。
あのとき、ライナーとベルトルトを殺すかもしれない作戦を立てながら、なまえはそれでもなお104期の調査兵達の身と心を案じていた。
『104期は私と共に護衛部隊にまわってもらいます。
私が絶対に、104期を死なせない。』
『それは、ライナーとベルトルトが敵かもしれないと気づいてしまった償いか?』
『そうかも…、しれません。これ以上、104期の仲間を傷つけたくない。
けれど、それだけじゃないです。私は———。』
なまえが続けた言葉に驚いたのは、リヴァイだけではない。
エルヴィンも驚いたから、息を呑んで判断に一瞬迷ったのだ。
けれど、ありえないと突き放せるようなものでもなかった。
呆れるほどに優しいなまえらしいと思った。
今でもまだ、リヴァイにはなまえの判断に無条件に頷けずにいる。
けれど、彼女の覚悟と優しさ、強さは信じている。
なまえが、104期の仲間を1人も死なせたくないと願っていることも———。
「リヴァイ、もう時間が———。」
「俺が行く。」
「…!」
「お前は他の精鋭兵を連れてここを離れろ。
コニーは俺が連れて帰る。」
「———なまえの為か。」
「・・・そうだな。死んでも、あそこにいるバカとデカブツの為ではねぇのは確かだ。」
「フッ。」
鼻で笑った後、ミケは了承の意を伝え精鋭兵達に撤退を命じる。
それと同時に、リヴァイが鎧の巨人へ向かって飛んだ。