◇第十三話◇静かな早朝の叫び【後編】
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
冷たい早朝の風が、身体を撫でて過ぎていき、馬小屋に愛馬を繋いでいたハンジとモブリットは小さく身震いをした。
彼らは、調査兵団兵舎から馬で少し行ったところにある巨人研究所からの帰りだった。
ハンジ班と数名の精鋭兵が勝手に行った巨人捕獲作戦によって、捕獲に成功した巨人のソニーとビーンの朝の様子を見に行っていたのだ。
今日は、静かな早朝だった。
兵舎には、立体起動装置を腰に装着して訓練場の方へと歩いていく早起きの調査兵の姿が幾つかあった。
分隊での訓練の前に自主練を行うつもりなのだろう。
「ハンジ分隊長、モブリットさん、おはようございます!」
「あぁ、おはよう。」
「お疲れ様です!」
「朝から感心だね。訓練、頑張ってくれよ。」
すれ違っていく頑張り屋の調査兵達と挨拶を交わしながら、宿舎へと向かっていたハンジとモブリットは、見慣れた2人が並んで話しながら歩いている姿を見つけた。
副兵士長のなまえとその補佐をしているジャンだ。
彼らが歩くスピードに合わせて、なまえの膝丈の白いワンピースが、早朝の冷たい風に吹かれてはらはらと揺れていた。
なまえよりも幾つか先に調査兵団に入団しただけのハンジ達は、彼女の人懐っこく明るい性格もあって、今では、先輩兵士というよりも、友人として仲良くしている。
それに、巨人の研究等で書類仕事が多いハンジとモブリットは、仕事面でも彼女達と関わることが多い。
昨日は、団長のエルヴィンから、明日は彼女達が揃って休みになっているから、急な用は今日のうちに済ませておくようにと言われていた。
どうせなまえは兵舎の自分の部屋で一日中寝て過ごすのだから、何かあれば声をかければいいだけだと思っていたハンジだったのだけれど、どうやらそうもいかないようだと、2人分の旅行バッグを握った片手を肩にかけているジャンを見て、考えを改める。
どうやら、2人で泊りでとこかへ出かけるようだ。
しかもすごくお洒落をして——。
自主練の為に訓練場へ向かおうとしている数名の調査兵も彼らのことが気になっているのか、数名がチラリと視線を向けては不思議そうにしている。
それも仕方がない。
だって、〝眠り姫〟という異名がついてしまったなまえは、本当にお姫様のような可愛らしい膝丈の白いワンピースを着ていたし、ジャンもいつも休日に着ているようなカジュアルな恰好から、ガラリと雰囲気を変え、ブラウンのスーツでビシッとキメていた。
調査兵達の視線を集めているのは、彼らが珍しいお洒落をしていたからだろう。
可愛らしいワンピース姿のなまえも確かに目立ってはいたかもしれないが、どちらかと言えば、若い兵士達の視線は、スーツ姿のジャンに向いているようだった。
時々、なまえは団長のエルヴィンに、有権者の集まるパーティーに強制参加させられている。
容姿の際立って綺麗な彼女にドレスを着せて連れて行けば、それだけで華になるからだ。
そういうときも、ジャンは付き添いとして常に隣にピタリとくっついている。
だから、一緒にパーティーに参加することの多いハンジとモブリットにとっては、パーティー用のスーツ姿のジャンは見慣れていた。
だが、そういう華やかな場に参加することのない若い調査兵達は、スーツ姿のジャンを見たことがない。
ほど良く筋肉で引き締まりスラリとした身体と長い手足は、スーツがよく似合う。
普段の兵団服よりも長身が際立って、確かに、ジャンのスーツ姿は、圧巻だった。
「なまえ~!!ジャン!!お洒落してどこ行くの~!?」
ハンジは、片手を大きく振りながら、なまえとジャンに駆け寄った。
その隣をモブリットも走ってついてくる。
「本当だ。ハンジさんと俺が贈ったネックレスをなまえがしてくれてる。
もしかして、2人でデートかい?」
呼び留められた声に気づいて立ち止まって待ってくれたなまえとジャンに、モブリットがからかうような口調で言った。
だから、ハンジも可笑しそうに笑いながら続けた。
「まっさか~ッ。なまえとジャンが恋人なんかになってしまったら、
人類最強の兵士が暴れまくって、一瞬で巨人を全部討伐してくれちゃうよ~ッ。」
暴れまくっているリヴァイを想像したら面白くなって、ハンジは腹を抱えて笑った。
それはさすがに失礼です——、そう窘めるモブリットの声も聞こえなかった。
「それはよかったですね。
なら、人類が壁外奪還する日もすぐそこですよ。」
「ん~?何か言ったかい?」
ハンジは、笑いすぎて溢れて来てしまった涙を拭いながら、ジャンに訊ねた。
すると、ジャンが、なまえの腰を抱き寄せた。
「俺達のおかげで、人類は壁外を奪還できるって言ったんですよ。」
「ん?どういうこと?」
「俺達、今からなまえさんのご両親のところに
結婚の挨拶をしに行くところなんですよ。」
ジャンは、サラリと今日の予定を喋った。
その発言に驚いたのは、ハンジとモブリットではなくて、なまえだったようだった。
彼女は、ビックリした顔をして、隣に立つジャンを見上げていた。
だが、ハンジとモブリットは、驚く以前に、ジャンの言っている意味を理解出来なかった。
「ん?君は何を言ってるんだい?」
「冗談だよな?」
「まぁ、今すぐってわけではなくて、
俺が20になるまで待ってもらえるようにお願いするんすけどね。」
ジャンの説明を聞いて、ハンジとモブリットは、呆けてしまう。
それから、お互いに顔を見合わせてから数秒、タイミングでも合わせたように、少し早口で喋り始めた。
「いやいや、まっさか~。君達が、結婚なんて。ねぇ?」
「そうだよ。さすがにその冗談は信じられないよ。」
ハンジとモブリットが揃って、ジャンの発言を否定した。
全く信じていなかった。
だって、確かに、2年前に17歳で補佐官に就任したばかりの頃に比べれば、ジャンも確かに、見た目も兵士としても成長して、大人っぽくなった。
あの頃はちぐはぐにしか見えなかったなまえとジャンも、今では並んで歩いている姿はとてもお似合いだ。
でもそれは、〝仕事のパートナーとして〟の話だ。
ジャンが上官のなまえに対して生意気に軽口を叩いている姿はよく見るが、お互いの仕事ぶりについては、尊敬しあっているのだろうということが、いたるところで感じられた。
でも、いつも夢ばかり見ているなまえが、現実に本物の恋人がいるどころか、それが6つも歳下のジャンだなんて、どうやって信じればいいか分からないくらいに、あり得ない話だったのだ。
だが、ジャンが、本当のことだと繰り返すせいで、徐々に自信がなくなっていってしまった。
「本当なの、なまえ?」
とうとう、ハンジは、淡々としているジャンの隣で困惑しているという様子だったなまえに訊ねた。
モブリットも、なまえを凝視して、その答えを息を呑んで待っている。
なまえが不安そうにジャンを見上げた。
どうしたらいいの——、彼女の大きな瞳はそう訴えているように見えた。
「自覚を持った答えが言えたら、昨日の言葉を信じてあげますよ。」
ジャンは、なまえを試すようなことを言った。
その言葉の意味は、ハンジとモブリットには分からなかったが、なまえは理解したようだった。
少しだけ苦し気に眉を歪めた後、覚悟を決めたのか、彼女はハンジとモブリットと向き合った。
「実は、誰にも言ってなかったんだけど、私達1年前から付き合ってたの。」
「え?付き合うって?それは男女のそういう…え?」
「もしかして、なまえ、今、1年前からって言ったかい?」
「それで今日は、私の両親に交際と結婚の報告をしに行くの。」
なまえは、息継ぎもせずに言いきった。
よく頑張りました——。
まるでそう言うみたいに、ジャンがなまえの頭をポンポンと撫でた。
それに対して、なまえがジャンを見上げて、ニィッと口の端を上げた。
その様子が、ハンジとモブリットには、じゃれ合う恋人同士に見えてしまった。
だから、驚き過ぎたハンジとモブリットは、目が点になったまま動かなくなってしまった。
「それじゃ、俺達、始発の駅馬車に乗らないと遅れちまうんで。
失礼します。」
ジャンは、驚き呆けているハンジとモブリットに軽く会釈をしてそう言うと、なまえの手を引いて行ってしまった。
そういう風に見れば、恋人同士に見えなくもないお洒落をした男女の背中を見送りながら、ハンジはゆっくりと口を開いた。
「モブリット…、ソニーとビーンをリヴァイに殺されてしまわないように
私達が守り抜こう。」
「えぇ、そうですね…。私も今、そう言おうとしていたところです。」
ハンジとモブリットがそんな会話を交わした直後だ。
静かだった早朝の調査兵団兵舎の隅々にまで、轟き渡るような叫び声が響いたのは———。
彼らは、調査兵団兵舎から馬で少し行ったところにある巨人研究所からの帰りだった。
ハンジ班と数名の精鋭兵が勝手に行った巨人捕獲作戦によって、捕獲に成功した巨人のソニーとビーンの朝の様子を見に行っていたのだ。
今日は、静かな早朝だった。
兵舎には、立体起動装置を腰に装着して訓練場の方へと歩いていく早起きの調査兵の姿が幾つかあった。
分隊での訓練の前に自主練を行うつもりなのだろう。
「ハンジ分隊長、モブリットさん、おはようございます!」
「あぁ、おはよう。」
「お疲れ様です!」
「朝から感心だね。訓練、頑張ってくれよ。」
すれ違っていく頑張り屋の調査兵達と挨拶を交わしながら、宿舎へと向かっていたハンジとモブリットは、見慣れた2人が並んで話しながら歩いている姿を見つけた。
副兵士長のなまえとその補佐をしているジャンだ。
彼らが歩くスピードに合わせて、なまえの膝丈の白いワンピースが、早朝の冷たい風に吹かれてはらはらと揺れていた。
なまえよりも幾つか先に調査兵団に入団しただけのハンジ達は、彼女の人懐っこく明るい性格もあって、今では、先輩兵士というよりも、友人として仲良くしている。
それに、巨人の研究等で書類仕事が多いハンジとモブリットは、仕事面でも彼女達と関わることが多い。
昨日は、団長のエルヴィンから、明日は彼女達が揃って休みになっているから、急な用は今日のうちに済ませておくようにと言われていた。
どうせなまえは兵舎の自分の部屋で一日中寝て過ごすのだから、何かあれば声をかければいいだけだと思っていたハンジだったのだけれど、どうやらそうもいかないようだと、2人分の旅行バッグを握った片手を肩にかけているジャンを見て、考えを改める。
どうやら、2人で泊りでとこかへ出かけるようだ。
しかもすごくお洒落をして——。
自主練の為に訓練場へ向かおうとしている数名の調査兵も彼らのことが気になっているのか、数名がチラリと視線を向けては不思議そうにしている。
それも仕方がない。
だって、〝眠り姫〟という異名がついてしまったなまえは、本当にお姫様のような可愛らしい膝丈の白いワンピースを着ていたし、ジャンもいつも休日に着ているようなカジュアルな恰好から、ガラリと雰囲気を変え、ブラウンのスーツでビシッとキメていた。
調査兵達の視線を集めているのは、彼らが珍しいお洒落をしていたからだろう。
可愛らしいワンピース姿のなまえも確かに目立ってはいたかもしれないが、どちらかと言えば、若い兵士達の視線は、スーツ姿のジャンに向いているようだった。
時々、なまえは団長のエルヴィンに、有権者の集まるパーティーに強制参加させられている。
容姿の際立って綺麗な彼女にドレスを着せて連れて行けば、それだけで華になるからだ。
そういうときも、ジャンは付き添いとして常に隣にピタリとくっついている。
だから、一緒にパーティーに参加することの多いハンジとモブリットにとっては、パーティー用のスーツ姿のジャンは見慣れていた。
だが、そういう華やかな場に参加することのない若い調査兵達は、スーツ姿のジャンを見たことがない。
ほど良く筋肉で引き締まりスラリとした身体と長い手足は、スーツがよく似合う。
普段の兵団服よりも長身が際立って、確かに、ジャンのスーツ姿は、圧巻だった。
「なまえ~!!ジャン!!お洒落してどこ行くの~!?」
ハンジは、片手を大きく振りながら、なまえとジャンに駆け寄った。
その隣をモブリットも走ってついてくる。
「本当だ。ハンジさんと俺が贈ったネックレスをなまえがしてくれてる。
もしかして、2人でデートかい?」
呼び留められた声に気づいて立ち止まって待ってくれたなまえとジャンに、モブリットがからかうような口調で言った。
だから、ハンジも可笑しそうに笑いながら続けた。
「まっさか~ッ。なまえとジャンが恋人なんかになってしまったら、
人類最強の兵士が暴れまくって、一瞬で巨人を全部討伐してくれちゃうよ~ッ。」
暴れまくっているリヴァイを想像したら面白くなって、ハンジは腹を抱えて笑った。
それはさすがに失礼です——、そう窘めるモブリットの声も聞こえなかった。
「それはよかったですね。
なら、人類が壁外奪還する日もすぐそこですよ。」
「ん~?何か言ったかい?」
ハンジは、笑いすぎて溢れて来てしまった涙を拭いながら、ジャンに訊ねた。
すると、ジャンが、なまえの腰を抱き寄せた。
「俺達のおかげで、人類は壁外を奪還できるって言ったんですよ。」
「ん?どういうこと?」
「俺達、今からなまえさんのご両親のところに
結婚の挨拶をしに行くところなんですよ。」
ジャンは、サラリと今日の予定を喋った。
その発言に驚いたのは、ハンジとモブリットではなくて、なまえだったようだった。
彼女は、ビックリした顔をして、隣に立つジャンを見上げていた。
だが、ハンジとモブリットは、驚く以前に、ジャンの言っている意味を理解出来なかった。
「ん?君は何を言ってるんだい?」
「冗談だよな?」
「まぁ、今すぐってわけではなくて、
俺が20になるまで待ってもらえるようにお願いするんすけどね。」
ジャンの説明を聞いて、ハンジとモブリットは、呆けてしまう。
それから、お互いに顔を見合わせてから数秒、タイミングでも合わせたように、少し早口で喋り始めた。
「いやいや、まっさか~。君達が、結婚なんて。ねぇ?」
「そうだよ。さすがにその冗談は信じられないよ。」
ハンジとモブリットが揃って、ジャンの発言を否定した。
全く信じていなかった。
だって、確かに、2年前に17歳で補佐官に就任したばかりの頃に比べれば、ジャンも確かに、見た目も兵士としても成長して、大人っぽくなった。
あの頃はちぐはぐにしか見えなかったなまえとジャンも、今では並んで歩いている姿はとてもお似合いだ。
でもそれは、〝仕事のパートナーとして〟の話だ。
ジャンが上官のなまえに対して生意気に軽口を叩いている姿はよく見るが、お互いの仕事ぶりについては、尊敬しあっているのだろうということが、いたるところで感じられた。
でも、いつも夢ばかり見ているなまえが、現実に本物の恋人がいるどころか、それが6つも歳下のジャンだなんて、どうやって信じればいいか分からないくらいに、あり得ない話だったのだ。
だが、ジャンが、本当のことだと繰り返すせいで、徐々に自信がなくなっていってしまった。
「本当なの、なまえ?」
とうとう、ハンジは、淡々としているジャンの隣で困惑しているという様子だったなまえに訊ねた。
モブリットも、なまえを凝視して、その答えを息を呑んで待っている。
なまえが不安そうにジャンを見上げた。
どうしたらいいの——、彼女の大きな瞳はそう訴えているように見えた。
「自覚を持った答えが言えたら、昨日の言葉を信じてあげますよ。」
ジャンは、なまえを試すようなことを言った。
その言葉の意味は、ハンジとモブリットには分からなかったが、なまえは理解したようだった。
少しだけ苦し気に眉を歪めた後、覚悟を決めたのか、彼女はハンジとモブリットと向き合った。
「実は、誰にも言ってなかったんだけど、私達1年前から付き合ってたの。」
「え?付き合うって?それは男女のそういう…え?」
「もしかして、なまえ、今、1年前からって言ったかい?」
「それで今日は、私の両親に交際と結婚の報告をしに行くの。」
なまえは、息継ぎもせずに言いきった。
よく頑張りました——。
まるでそう言うみたいに、ジャンがなまえの頭をポンポンと撫でた。
それに対して、なまえがジャンを見上げて、ニィッと口の端を上げた。
その様子が、ハンジとモブリットには、じゃれ合う恋人同士に見えてしまった。
だから、驚き過ぎたハンジとモブリットは、目が点になったまま動かなくなってしまった。
「それじゃ、俺達、始発の駅馬車に乗らないと遅れちまうんで。
失礼します。」
ジャンは、驚き呆けているハンジとモブリットに軽く会釈をしてそう言うと、なまえの手を引いて行ってしまった。
そういう風に見れば、恋人同士に見えなくもないお洒落をした男女の背中を見送りながら、ハンジはゆっくりと口を開いた。
「モブリット…、ソニーとビーンをリヴァイに殺されてしまわないように
私達が守り抜こう。」
「えぇ、そうですね…。私も今、そう言おうとしていたところです。」
ハンジとモブリットがそんな会話を交わした直後だ。
静かだった早朝の調査兵団兵舎の隅々にまで、轟き渡るような叫び声が響いたのは———。