◇第百二十九話◇目的地で圧倒されたもの
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「ここが…。」
辿り着いた目的地、ウォール・マリア最大の図書施設。
馬から降りて木に繋ぐと、それぞれが古く朽ちた建造物を見上げて、その大きさに圧倒されていた。
ライナーの呟きは、そのときのものだ。
これだけの大きな建造物を街中に建てることは出来なかったようで、辺りは野原地帯だ。
これだけの巨大建築物があり、観光地でもあったこの辺りは、元々は自然豊かな美しいどころだったのだろう。
それが今では、幾つかの瓦礫や折れた丸太が転がり、手入れなどされるわけもない雑草や木々が鬱蒼と生い茂っている。
昼間ならまだマシだけれど、それでも少し薄暗い気味の悪い場所だ。
夜になると、不気味な風の音が聞こえてきそうだ。
その真ん中にあるのが、ウォール・マリア最大の図書施設。
ウォール・マリアでは珍しい真四角の高層建築物で、展望台も兼ねた屋上がある。
壁外調査直前、ジャンがリヴァイから見せてもらった資料通りだった。
けれど、前途した通り、イメージしていたよりもだいぶ大きい。この中から秘匿文書を探すのは、なかなか骨の折れる作業になるだろうことは、容易に想像できた。
さらに、建物は雨風に晒され古く朽ち、巨人にも壊されたのか、ひび割れどころか、一部内部が丸見えになっているところもある。
覗く内部をチラリと見るだけでも、瓦礫やほこりで人が歩けるような状態ではなかった。
「今日はここで夜を明かすんですか?」
ジャンは、隣に立つリヴァイに訊ねた。
リヴァイを含め、なまえやハンジ班の面々は、何度も何度も、これでもかという程に綿密に作戦を練って来たのだろう。
けれど、数日前に、唐突にリヴァイから補佐官に任命されたジャンは違う。
作戦の概要はリヴァイから聞かされてはいるし、ライナーとベルトルトから聞いたこともあるが、細かいところは確認が必要だった。
「嫌、作戦の実行は夜だ。」
「夜ですか?書籍探しするんですよね?
真っ暗で何も見えないんじゃ。」
「見えねぇのは敵も一緒だ。夜は巨人も静かにおねんねしてくれるしな。
俺達、リヴァイ班の見張りもだいぶ楽になる。」
楽になる———なんて、どれほど思っているのかは分からない。
リヴァイは、いつも冷静で無口、何を考えているか分からない男だという印象だったが、ジャンの中ではそれがここ数日で少しずつ変わりつつある。
何を考えているか分からないというのはそのままだけれど、リヴァイは意外と冗談を言う。けれどそれが、超難問の数学よりもずっと分かりづらい。
笑えばいいのか、流せばいいのか、ひどく悩むのだ。
時々、オルオが判断を間違えて、笑ってしまってからリヴァイに悪魔のように怖い顔で睨まれているのを見てから、安易に笑ってやり過ごすことも出来なくなっている。
そもそも、ジャンはまだ、唐突にリヴァイから補佐官を任命されてから数日なのだ。
驚きはしたけれど、そうすることで壁外調査に出られるのならと受け入れた。
目的は、なまえの心を取り戻すことなのだとしても、仕事は仕事だと割り切り、リヴァイの望む以上の成果を残せるよう、細かい配慮と共に補佐として務めているつもりだ。
そもそも、元ゴロツキと言われる人類最強の兵士だけれど、根は真面目な男だ。なまえと違って、いかにサボるかを考えているわけでもない。
かといって、抜くところはうまくガス抜きをして、何人もの部下をうまく回している。
危険な任務と隣合わせという意味では、精鋭ばかりが集められたリヴァイ班はとても大変な配置ではあるだろう。
けれど、抱えきられる以上の仕事を押し付けられながら、サボり癖のある怠け上司に少しでも仕事をさせるようにあれこれ気を遣うよりもずっと〝楽〟でやりやすい。
どちらにやりがいを感じますかと聞かれれば、大抵の人間が『リヴァイ班に決まっている』と答えるだろう。
「じゃあ、まずは拠点の設営ってことですね。」
確かに、今回、この作戦班に限っては、巨人を討伐しに来たわけではない。
巨人の正体は人間だったという、出来れば避けたい事実を突き止めに来たのだ。
わざわざ、巨人の活動が活発化する昼間に作戦を実行する必要はないというのは理にかなっているような気もする。
「でも、その前に、ここを宿代わりにしてるコがいないのか
確認が必要だけどね。」
「残念ながら、それは、リヴァイ班のお仕事です。」
丸見えになっている内部を指さしたハンジの説明に、モブリットが補足をする。
大きな建造物は、崩れている部分も広く、3メートル級どころか15メートル級の巨人でも簡単に侵入できるだろう。
巨人の正体調査班は、この図書館の屋上に拠点を立てる予定になっている。30メートルは高さがありそうだから、夜中に巨人に襲撃される可能性は低く、壁外では安全と呼んでもよさそうな場所だ。
けれど、内部に侵入している巨人が屋上へ上ってこないとも言い切れない。
夜になる前に、侵入している巨人の捜索と討伐をしつつ、秘匿書籍が隠されているはずの地下への入口を探す必要がある。
「まずは、リヴァイ班が内部の巨人捜索と討伐。
私達は屋上で拠点の設営をしつつ、見張りだ。
ジャンには、私達に付き合って貰うよ。君の立体起動技術は、中よりも外で役に立つはずだ。
———君の補佐官借りるけど、いいね、リヴァイ。」
「あぁ、構わねぇ。
————行くぞ。」
そう言われることを分かっていたのか、リヴァイはジャンをチラリと見ることもせず、立体起動装置のワイヤーを飛ばして飛び上がった。
壊れてヒビが入っているとはいえ、すぐそこにエントランスの大きな扉があるというのに、壊れて崩れ内部が見えている部分から中に入るらしい。
リヴァイに続き、リヴァイ班の精鋭達が一斉に飛び上がる。
瞬間移動でもしたかのような動きで空に舞い上がった彼らを眼前にして、ジャンはミカサだけではなくエレンまでも、もう立派にリヴァイ班の一員なのだと改めて思い知った。
(負けてられねぇな。)
兵士長の補佐官という誰もが憧れそうな役職を受け入れたのは、誰もが尻尾を巻いて逃げる眠り姫の補佐官に戻る為だった。
けれど、壁外調査に出たのは、なまえの作戦を必ず成功させてあげたかったからだ。
そして、調査兵として、巨人の正体が何だとしても、残酷な現実を受け入れて未来の希望に繋げる覚悟もある。
「じゃあ、私達はさっさと拠点を設営して、夜までゆっくり休憩しよう!」
「お昼寝はありですか!?」
ハンジのそれは、もしかしたら気が張っている部下達の緊張を和らげようとしたのかもしれないと考えることが出来た。
だが、それに続いたなまえの驚きのセリフは、完全に彼女の〝眠り姫〟故のそれだ。
ハンジから許可を得て「イエーイ!」と喜んでいる彼女に、ジャンはため息を吐いた。
「おい!なまえ!!何やってんだ、早く来い!!」
3階部分だろうか、壊れた壁の上からリヴァイが叫んだ。
ジャンから少し離れたところから「げ!?」と言う声がした気がするが、聞き間違いではないはずだ。
「お前の作戦だろうが!
俺の部下だけに面倒なこと押し付けてんじゃねぇぞ、クソが!!」
リヴァイが、なまえを怒鳴りつける。
3階からの距離でも、彼の顔面が悪魔のように歪んでいるのが分かる。
婚約者になったことで、彼らの関係も少しは変化したのかと思っていた。
けれど実際は、少なくとも任務中は、怠け者のなまえを上司のリヴァイが厳しく指導するという関係性のままのようだ。
「で…っ、でも!!お昼寝が…っ、じゃなくて!
夜までに拠点設営を完成させないといけないので、
時間がないし、私もこっちでお手伝いを———。」
「そっちには、ジャンを置いていった!
昼寝のことばかり考えてるなまえより役に立つ!!
お前はこっちに来て、地下への入口探しに専念しろ!!」
「・・・・・。」
壁外調査に出て初めて、なまえがジャンの方をしっかりと見た。
恨めし気なその目は、『お前のせいで面倒なことになった。』と訴えている。
「…はぁい。」
渋々と言った様子で、なまえがガスを吹かす。
そして、彼女が軽く舞い上がるように地面を蹴ったその次の瞬間、その姿はもうリヴァイの隣にあった。
「ったく、お前は。どうしていつも———。」
「だって、寝ないと作戦中に寝ちゃうかもって———。」
「緊張感を持て———。」
懐かしいやり取りが、内部へと消えていく2つの背中と共に小さくなっていく。
彼らを見上げながら、ジャンは今度こそ思い知る。
なまえは、調査兵4年目の男に守られるようなレベルではなかったのだ。
ジャンだけではない。
誰もが忘れがちだけれど、なまえは、補佐官を迎えるまでは常にリヴァイと行動を共にしてきた、調査兵団の中でもトップレベルの精鋭だった。
辿り着いた目的地、ウォール・マリア最大の図書施設。
馬から降りて木に繋ぐと、それぞれが古く朽ちた建造物を見上げて、その大きさに圧倒されていた。
ライナーの呟きは、そのときのものだ。
これだけの大きな建造物を街中に建てることは出来なかったようで、辺りは野原地帯だ。
これだけの巨大建築物があり、観光地でもあったこの辺りは、元々は自然豊かな美しいどころだったのだろう。
それが今では、幾つかの瓦礫や折れた丸太が転がり、手入れなどされるわけもない雑草や木々が鬱蒼と生い茂っている。
昼間ならまだマシだけれど、それでも少し薄暗い気味の悪い場所だ。
夜になると、不気味な風の音が聞こえてきそうだ。
その真ん中にあるのが、ウォール・マリア最大の図書施設。
ウォール・マリアでは珍しい真四角の高層建築物で、展望台も兼ねた屋上がある。
壁外調査直前、ジャンがリヴァイから見せてもらった資料通りだった。
けれど、前途した通り、イメージしていたよりもだいぶ大きい。この中から秘匿文書を探すのは、なかなか骨の折れる作業になるだろうことは、容易に想像できた。
さらに、建物は雨風に晒され古く朽ち、巨人にも壊されたのか、ひび割れどころか、一部内部が丸見えになっているところもある。
覗く内部をチラリと見るだけでも、瓦礫やほこりで人が歩けるような状態ではなかった。
「今日はここで夜を明かすんですか?」
ジャンは、隣に立つリヴァイに訊ねた。
リヴァイを含め、なまえやハンジ班の面々は、何度も何度も、これでもかという程に綿密に作戦を練って来たのだろう。
けれど、数日前に、唐突にリヴァイから補佐官に任命されたジャンは違う。
作戦の概要はリヴァイから聞かされてはいるし、ライナーとベルトルトから聞いたこともあるが、細かいところは確認が必要だった。
「嫌、作戦の実行は夜だ。」
「夜ですか?書籍探しするんですよね?
真っ暗で何も見えないんじゃ。」
「見えねぇのは敵も一緒だ。夜は巨人も静かにおねんねしてくれるしな。
俺達、リヴァイ班の見張りもだいぶ楽になる。」
楽になる———なんて、どれほど思っているのかは分からない。
リヴァイは、いつも冷静で無口、何を考えているか分からない男だという印象だったが、ジャンの中ではそれがここ数日で少しずつ変わりつつある。
何を考えているか分からないというのはそのままだけれど、リヴァイは意外と冗談を言う。けれどそれが、超難問の数学よりもずっと分かりづらい。
笑えばいいのか、流せばいいのか、ひどく悩むのだ。
時々、オルオが判断を間違えて、笑ってしまってからリヴァイに悪魔のように怖い顔で睨まれているのを見てから、安易に笑ってやり過ごすことも出来なくなっている。
そもそも、ジャンはまだ、唐突にリヴァイから補佐官を任命されてから数日なのだ。
驚きはしたけれど、そうすることで壁外調査に出られるのならと受け入れた。
目的は、なまえの心を取り戻すことなのだとしても、仕事は仕事だと割り切り、リヴァイの望む以上の成果を残せるよう、細かい配慮と共に補佐として務めているつもりだ。
そもそも、元ゴロツキと言われる人類最強の兵士だけれど、根は真面目な男だ。なまえと違って、いかにサボるかを考えているわけでもない。
かといって、抜くところはうまくガス抜きをして、何人もの部下をうまく回している。
危険な任務と隣合わせという意味では、精鋭ばかりが集められたリヴァイ班はとても大変な配置ではあるだろう。
けれど、抱えきられる以上の仕事を押し付けられながら、サボり癖のある怠け上司に少しでも仕事をさせるようにあれこれ気を遣うよりもずっと〝楽〟でやりやすい。
どちらにやりがいを感じますかと聞かれれば、大抵の人間が『リヴァイ班に決まっている』と答えるだろう。
「じゃあ、まずは拠点の設営ってことですね。」
確かに、今回、この作戦班に限っては、巨人を討伐しに来たわけではない。
巨人の正体は人間だったという、出来れば避けたい事実を突き止めに来たのだ。
わざわざ、巨人の活動が活発化する昼間に作戦を実行する必要はないというのは理にかなっているような気もする。
「でも、その前に、ここを宿代わりにしてるコがいないのか
確認が必要だけどね。」
「残念ながら、それは、リヴァイ班のお仕事です。」
丸見えになっている内部を指さしたハンジの説明に、モブリットが補足をする。
大きな建造物は、崩れている部分も広く、3メートル級どころか15メートル級の巨人でも簡単に侵入できるだろう。
巨人の正体調査班は、この図書館の屋上に拠点を立てる予定になっている。30メートルは高さがありそうだから、夜中に巨人に襲撃される可能性は低く、壁外では安全と呼んでもよさそうな場所だ。
けれど、内部に侵入している巨人が屋上へ上ってこないとも言い切れない。
夜になる前に、侵入している巨人の捜索と討伐をしつつ、秘匿書籍が隠されているはずの地下への入口を探す必要がある。
「まずは、リヴァイ班が内部の巨人捜索と討伐。
私達は屋上で拠点の設営をしつつ、見張りだ。
ジャンには、私達に付き合って貰うよ。君の立体起動技術は、中よりも外で役に立つはずだ。
———君の補佐官借りるけど、いいね、リヴァイ。」
「あぁ、構わねぇ。
————行くぞ。」
そう言われることを分かっていたのか、リヴァイはジャンをチラリと見ることもせず、立体起動装置のワイヤーを飛ばして飛び上がった。
壊れてヒビが入っているとはいえ、すぐそこにエントランスの大きな扉があるというのに、壊れて崩れ内部が見えている部分から中に入るらしい。
リヴァイに続き、リヴァイ班の精鋭達が一斉に飛び上がる。
瞬間移動でもしたかのような動きで空に舞い上がった彼らを眼前にして、ジャンはミカサだけではなくエレンまでも、もう立派にリヴァイ班の一員なのだと改めて思い知った。
(負けてられねぇな。)
兵士長の補佐官という誰もが憧れそうな役職を受け入れたのは、誰もが尻尾を巻いて逃げる眠り姫の補佐官に戻る為だった。
けれど、壁外調査に出たのは、なまえの作戦を必ず成功させてあげたかったからだ。
そして、調査兵として、巨人の正体が何だとしても、残酷な現実を受け入れて未来の希望に繋げる覚悟もある。
「じゃあ、私達はさっさと拠点を設営して、夜までゆっくり休憩しよう!」
「お昼寝はありですか!?」
ハンジのそれは、もしかしたら気が張っている部下達の緊張を和らげようとしたのかもしれないと考えることが出来た。
だが、それに続いたなまえの驚きのセリフは、完全に彼女の〝眠り姫〟故のそれだ。
ハンジから許可を得て「イエーイ!」と喜んでいる彼女に、ジャンはため息を吐いた。
「おい!なまえ!!何やってんだ、早く来い!!」
3階部分だろうか、壊れた壁の上からリヴァイが叫んだ。
ジャンから少し離れたところから「げ!?」と言う声がした気がするが、聞き間違いではないはずだ。
「お前の作戦だろうが!
俺の部下だけに面倒なこと押し付けてんじゃねぇぞ、クソが!!」
リヴァイが、なまえを怒鳴りつける。
3階からの距離でも、彼の顔面が悪魔のように歪んでいるのが分かる。
婚約者になったことで、彼らの関係も少しは変化したのかと思っていた。
けれど実際は、少なくとも任務中は、怠け者のなまえを上司のリヴァイが厳しく指導するという関係性のままのようだ。
「で…っ、でも!!お昼寝が…っ、じゃなくて!
夜までに拠点設営を完成させないといけないので、
時間がないし、私もこっちでお手伝いを———。」
「そっちには、ジャンを置いていった!
昼寝のことばかり考えてるなまえより役に立つ!!
お前はこっちに来て、地下への入口探しに専念しろ!!」
「・・・・・。」
壁外調査に出て初めて、なまえがジャンの方をしっかりと見た。
恨めし気なその目は、『お前のせいで面倒なことになった。』と訴えている。
「…はぁい。」
渋々と言った様子で、なまえがガスを吹かす。
そして、彼女が軽く舞い上がるように地面を蹴ったその次の瞬間、その姿はもうリヴァイの隣にあった。
「ったく、お前は。どうしていつも———。」
「だって、寝ないと作戦中に寝ちゃうかもって———。」
「緊張感を持て———。」
懐かしいやり取りが、内部へと消えていく2つの背中と共に小さくなっていく。
彼らを見上げながら、ジャンは今度こそ思い知る。
なまえは、調査兵4年目の男に守られるようなレベルではなかったのだ。
ジャンだけではない。
誰もが忘れがちだけれど、なまえは、補佐官を迎えるまでは常にリヴァイと行動を共にしてきた、調査兵団の中でもトップレベルの精鋭だった。