◇第百二十四話◇いつも選択は大切な人を想ってする
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想い出の沢山残っている自室に戻る勇気もなく、だからと言ってリヴァイさんが忙しそうに仕事をしている執務室のテーブルを貸してもらうだけの図太い神経も持ち合わせていない私は、昼間、書庫で執務仕事をこなしている。
ここなら、時々、資料探しの調査兵がやってくるくらいで、静かに時間が過ごせる。
静かすぎて眠たくなってしまうことだけが、問題だけれど、私の場合、それはどこで仕事をしていても同じだ。
今日もまた眠気と必死に戦っていると、書庫の扉が開いた。
建付けの悪い扉が引きずられるような音にハッとして、顔を上げる。
「やっぱりここだった。」
「あぁ、よかった。」
寝惚け眼をこする私を見つけたのは、ライナーとベルトルトだった。
私を探していたらしい彼らは、窓際のデスクまでやってくると早速本題に入った。
「お願いがあって探していたんです。」
「お願い?」
「実は…少し前から、ジャンがリヴァイ兵長に決闘を挑んでるんだ。
そのことでお願いが———。」
「決闘!?」
神妙な表情でやって来たライナーとベルトルトに、思わず身構えてしまった私は、信じられない言葉に悲鳴のような声を上げてしまった。
そんな私に驚いて、一瞬言葉を切ってしまったライナーだったけれど、ひとつ息を吐くと「そうなんだ。」と疲れたように零して、頷いた。
「実は————。」
ベルトルトとアイコンタクトを取り合った後、ライナーが教えてくれた最近のジャンの様子に、私は言葉を失った。
ジャンがリヴァイ兵長に決闘を申し込んだ朝は、私が彼に想いと別れを告げた夜の翌日だ。お互いに、きちんと終わりにするためにも必要だと思って伝えたことが、逆にジャンの気持ちを動かしてしまったのかもしれない。
そう思うと、罪悪感が溢れる。
それと同時に、まるでお暇様を奪い合う決闘みたいだ———と嬉しく感じてしまったことに、リヴァイさんと向き合うと決めたはずの心の弱さも自覚する。
「それで、なまえから、医務室へ行くようにジャンに言ってほしいんだ。」
「一応、僕達に傷の手当はさせてくれるんだけど、医務室には頑なに行こうとしないんです…。
たぶん…、医療兵に壁外調査への参加を止められるのが嫌なんだと…。」
「なまえを守る為に壁外調査に出ようと無理して、
そのせいで大怪我して禁止令なんて出ちまったら、本末転倒だからだろうな。
アイツは今も、身体中に傷とあざを増えた状態で、訓練してるんだ。」
「このままじゃ、壁外調査に行く前に本当に死んでしまいます。」
「いや、そもそもアイツは壁外調査に行くべきじゃない。」
「どうして?」
眉を顰めて、心から〝反対〟をしている様子のライナーに、気づけば私はそう訊ねていた。
「最初に、大怪我をしたばかりのジャンを壁外調査に参加させるべきじゃねぇと決めたのは
なまえ達だろう。俺達も同じように考えてるだけだ。」
今さら何を言っているんだ————少し驚いたようなライナーの表情からは、そんな彼の心の声が漏れて聞こえているようだった。
「それはそうなんだけど…。
ジャンを止めることもなく、訓練にも付き合ってるって言ってたから
応援してるのかなと思って。」
「あぁ…そういうことか。」
納得したようにライナーが頷く。
「俺達は、友人として、男として、ジャンのの覚悟を応援しているだけで、
壁外調査への参加に賛成してるわけじゃない。」
「…そういうものなの?」
「あんな重傷を負った後だから、今回は兵舎に残るのが正解だと僕達も思っています。
でも、自分より強いと知ってる相手に立ち向かうのはすごく勇気がいることだから
僕は、ジャンのことを初めて尊敬してるんだ。」
初めて、というベルトルトの言葉に少し引っ掛かりを覚えたけれど、無謀とも思えるジャンの覚悟は、同性である彼らの心に何かを訴えたようだ。
手加減をしてくれていないらしいリヴァイさんも、ただ単にジャンを負かそうとしているわけではなく、何か感じるものがあって、本気でぶつかってくれているのかもしれない。
けれど、それが良いことなのかどうか————それは、私には判断つかない。
現に、ジャンは今、ライナー達が『医療兵に壁外調査への参加を禁止されるかもしれない』と思うほどの傷を負った身体で、それでも尚、厳しい訓練を自分に科して、無謀な決闘に挑んでいるのだ。
このままでは、本当に彼が死んでしまうかもしれない————。
「分かった。どうするかはまだ分からないけど、
ジャンが医務室にちゃんと行くように、方法を考えるよ。」
「本当か!」
「本当ですか!」
ライナーとベルトルトの嬉しそうな声が重なる。
2人は、ホッと息を吐くと「頼みに来てよかった。」と互いの顔を見合わせて頷いた。
安心したような彼らの表情から、ジャンのことを心から大切な友人だと思っていることが伝わってくる。
いや、ジャンのことを心から大切に想っているのはライナーとベルトルトだけではないはずだ。
彼らの話によれば、決闘の後、ボロ負けしているジャンの周りにはいつも104期の調査兵達が集まって、彼をからかったり呆れた言葉をかけたりしているようだ。
そうやって、彼らは、誰かの失敗も成功も常にそばで見て、感じて、乗り越えてきたのだろう。
だから、104期の調査兵達は強い。4年が経過して、いまだに誰も欠けていない。
これからもずっと、そうであればいい———残酷な現実で、それはあまりにも途方もない願いかもしれない。
それでもやっぱり、ジャンを包むすべてだけは、いつまでも穏やかで優しくあってほしい。
そう、願わずにはいられない。
それを壊すのは、私だというのに————。
ここなら、時々、資料探しの調査兵がやってくるくらいで、静かに時間が過ごせる。
静かすぎて眠たくなってしまうことだけが、問題だけれど、私の場合、それはどこで仕事をしていても同じだ。
今日もまた眠気と必死に戦っていると、書庫の扉が開いた。
建付けの悪い扉が引きずられるような音にハッとして、顔を上げる。
「やっぱりここだった。」
「あぁ、よかった。」
寝惚け眼をこする私を見つけたのは、ライナーとベルトルトだった。
私を探していたらしい彼らは、窓際のデスクまでやってくると早速本題に入った。
「お願いがあって探していたんです。」
「お願い?」
「実は…少し前から、ジャンがリヴァイ兵長に決闘を挑んでるんだ。
そのことでお願いが———。」
「決闘!?」
神妙な表情でやって来たライナーとベルトルトに、思わず身構えてしまった私は、信じられない言葉に悲鳴のような声を上げてしまった。
そんな私に驚いて、一瞬言葉を切ってしまったライナーだったけれど、ひとつ息を吐くと「そうなんだ。」と疲れたように零して、頷いた。
「実は————。」
ベルトルトとアイコンタクトを取り合った後、ライナーが教えてくれた最近のジャンの様子に、私は言葉を失った。
ジャンがリヴァイ兵長に決闘を申し込んだ朝は、私が彼に想いと別れを告げた夜の翌日だ。お互いに、きちんと終わりにするためにも必要だと思って伝えたことが、逆にジャンの気持ちを動かしてしまったのかもしれない。
そう思うと、罪悪感が溢れる。
それと同時に、まるでお暇様を奪い合う決闘みたいだ———と嬉しく感じてしまったことに、リヴァイさんと向き合うと決めたはずの心の弱さも自覚する。
「それで、なまえから、医務室へ行くようにジャンに言ってほしいんだ。」
「一応、僕達に傷の手当はさせてくれるんだけど、医務室には頑なに行こうとしないんです…。
たぶん…、医療兵に壁外調査への参加を止められるのが嫌なんだと…。」
「なまえを守る為に壁外調査に出ようと無理して、
そのせいで大怪我して禁止令なんて出ちまったら、本末転倒だからだろうな。
アイツは今も、身体中に傷とあざを増えた状態で、訓練してるんだ。」
「このままじゃ、壁外調査に行く前に本当に死んでしまいます。」
「いや、そもそもアイツは壁外調査に行くべきじゃない。」
「どうして?」
眉を顰めて、心から〝反対〟をしている様子のライナーに、気づけば私はそう訊ねていた。
「最初に、大怪我をしたばかりのジャンを壁外調査に参加させるべきじゃねぇと決めたのは
なまえ達だろう。俺達も同じように考えてるだけだ。」
今さら何を言っているんだ————少し驚いたようなライナーの表情からは、そんな彼の心の声が漏れて聞こえているようだった。
「それはそうなんだけど…。
ジャンを止めることもなく、訓練にも付き合ってるって言ってたから
応援してるのかなと思って。」
「あぁ…そういうことか。」
納得したようにライナーが頷く。
「俺達は、友人として、男として、ジャンのの覚悟を応援しているだけで、
壁外調査への参加に賛成してるわけじゃない。」
「…そういうものなの?」
「あんな重傷を負った後だから、今回は兵舎に残るのが正解だと僕達も思っています。
でも、自分より強いと知ってる相手に立ち向かうのはすごく勇気がいることだから
僕は、ジャンのことを初めて尊敬してるんだ。」
初めて、というベルトルトの言葉に少し引っ掛かりを覚えたけれど、無謀とも思えるジャンの覚悟は、同性である彼らの心に何かを訴えたようだ。
手加減をしてくれていないらしいリヴァイさんも、ただ単にジャンを負かそうとしているわけではなく、何か感じるものがあって、本気でぶつかってくれているのかもしれない。
けれど、それが良いことなのかどうか————それは、私には判断つかない。
現に、ジャンは今、ライナー達が『医療兵に壁外調査への参加を禁止されるかもしれない』と思うほどの傷を負った身体で、それでも尚、厳しい訓練を自分に科して、無謀な決闘に挑んでいるのだ。
このままでは、本当に彼が死んでしまうかもしれない————。
「分かった。どうするかはまだ分からないけど、
ジャンが医務室にちゃんと行くように、方法を考えるよ。」
「本当か!」
「本当ですか!」
ライナーとベルトルトの嬉しそうな声が重なる。
2人は、ホッと息を吐くと「頼みに来てよかった。」と互いの顔を見合わせて頷いた。
安心したような彼らの表情から、ジャンのことを心から大切な友人だと思っていることが伝わってくる。
いや、ジャンのことを心から大切に想っているのはライナーとベルトルトだけではないはずだ。
彼らの話によれば、決闘の後、ボロ負けしているジャンの周りにはいつも104期の調査兵達が集まって、彼をからかったり呆れた言葉をかけたりしているようだ。
そうやって、彼らは、誰かの失敗も成功も常にそばで見て、感じて、乗り越えてきたのだろう。
だから、104期の調査兵達は強い。4年が経過して、いまだに誰も欠けていない。
これからもずっと、そうであればいい———残酷な現実で、それはあまりにも途方もない願いかもしれない。
それでもやっぱり、ジャンを包むすべてだけは、いつまでも穏やかで優しくあってほしい。
そう、願わずにはいられない。
それを壊すのは、私だというのに————。