◇第百十九話◇君の寄り道に消毒を
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夕食頃もとっくに過ぎて、談話室で気心知れた仲間とおしゃべりを楽しむ調査兵以外は、自室で思い思いの過ごし方をしている時間。まだ明かりが煌々と照らす廊下で、数名の調査兵とすれ違った。
『リヴァイ兵長に慰められるうちに心変わりした眠り姫は、自分のせいで刺された婚約者を呆気なく捨てた』
ハンジさんが広めてくれた噂は、あっという間に調査兵団兵舎内に浸透した。
リヴァイ兵長の人徳のおかげなのか、あれだけ私に向いていた冷たい視線や悪口、嫌がらせが目に見えて減った。
人類最強の兵士が常にピタリと隣に寄り添っているから、ほんの少しの悪口さえも洩らせなくなったのだろう。
無視されることもなくなり、彼らの心情としては複雑なのかもしれないけれど、今では、すれ違えば挨拶程度ならば交わしてくれる。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
今夜もまた、目を合わせない挨拶をくれる後輩に、私は笑顔で答える。
そうして、しばらく歩いて辿り着いたのは、西棟だった。
昼までも人気の少ない西棟は、廊下に明かりもなく真っ暗だ。
シンという音すら聞こえないような静かなこの廊下がすごく苦手だけれど、今夜に限っては、誰もいないそこが都合が良かった。
立ち止まった私は、ジャンとお別れしてからずっと震えていた自分の身体を漸く抱きしめてやることが出来た。
安心したのか、自分の決断に絶望でもしたのか、脚の力が抜けて、冷たい廊下に膝をつく。
「好き…っ、まだ、好き、なのに…っ。」
誰もいないことをいいことに、私の口から弱虫な本音が漏れる。
ちゃんと心に線を引いたつもりだった。
でも、それは、ジャンの心が離れてしまったと思っていたからだ。
そうではないかもしれないと知ってしまったら、もうダメだった。
閉じ込めていた想いが溢れ出して、また、甘えそうになった。
『俺は、なまえさんとなら、どんな地獄だって越えられる…!』
ジャンがくれた言葉が、頭の奥で木霊し続けている。
ずっとずっと欲しかった言葉だ。目が覚めたジャンが、そう言ってくれると信じてずっと待っていた。
でも、もう遅い。遅すぎるのだ。
私は気づいてしまった。
大切だからこそ、地獄には連れていけない。残酷な現実に絶望する姿を見たくない。
それでもきっと、必死に守ろうとして、優しく笑うジャンに私は甘えてしまうのだろう。
そうして、心も身体も壊していくジャンをそばで見ているだけになるのなんて、絶対に嫌だ。
私は、ジャンを苦しめないように身を引くわけじゃない。
いつかまた、優しさを注ぎ過ぎて心をすり減らしたジャンに、拒絶されるのが怖いのだ。
好きだから、大好きだから。心から、大切だから。
あぁ、いつから私は、こんなにもジャンを想っていたのだろう。
私達がもう少し早く、お互いに気持ちを打ち明けていたのならこんな結末にはならなかったのだろうか。
それでも、私はきっと、この口を噤んだ気がする。
私達がどう足掻いたって、ジャンが残酷な現実に絶望する未来は必ずやってくるから————。
『リヴァイ兵長に慰められるうちに心変わりした眠り姫は、自分のせいで刺された婚約者を呆気なく捨てた』
ハンジさんが広めてくれた噂は、あっという間に調査兵団兵舎内に浸透した。
リヴァイ兵長の人徳のおかげなのか、あれだけ私に向いていた冷たい視線や悪口、嫌がらせが目に見えて減った。
人類最強の兵士が常にピタリと隣に寄り添っているから、ほんの少しの悪口さえも洩らせなくなったのだろう。
無視されることもなくなり、彼らの心情としては複雑なのかもしれないけれど、今では、すれ違えば挨拶程度ならば交わしてくれる。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
今夜もまた、目を合わせない挨拶をくれる後輩に、私は笑顔で答える。
そうして、しばらく歩いて辿り着いたのは、西棟だった。
昼までも人気の少ない西棟は、廊下に明かりもなく真っ暗だ。
シンという音すら聞こえないような静かなこの廊下がすごく苦手だけれど、今夜に限っては、誰もいないそこが都合が良かった。
立ち止まった私は、ジャンとお別れしてからずっと震えていた自分の身体を漸く抱きしめてやることが出来た。
安心したのか、自分の決断に絶望でもしたのか、脚の力が抜けて、冷たい廊下に膝をつく。
「好き…っ、まだ、好き、なのに…っ。」
誰もいないことをいいことに、私の口から弱虫な本音が漏れる。
ちゃんと心に線を引いたつもりだった。
でも、それは、ジャンの心が離れてしまったと思っていたからだ。
そうではないかもしれないと知ってしまったら、もうダメだった。
閉じ込めていた想いが溢れ出して、また、甘えそうになった。
『俺は、なまえさんとなら、どんな地獄だって越えられる…!』
ジャンがくれた言葉が、頭の奥で木霊し続けている。
ずっとずっと欲しかった言葉だ。目が覚めたジャンが、そう言ってくれると信じてずっと待っていた。
でも、もう遅い。遅すぎるのだ。
私は気づいてしまった。
大切だからこそ、地獄には連れていけない。残酷な現実に絶望する姿を見たくない。
それでもきっと、必死に守ろうとして、優しく笑うジャンに私は甘えてしまうのだろう。
そうして、心も身体も壊していくジャンをそばで見ているだけになるのなんて、絶対に嫌だ。
私は、ジャンを苦しめないように身を引くわけじゃない。
いつかまた、優しさを注ぎ過ぎて心をすり減らしたジャンに、拒絶されるのが怖いのだ。
好きだから、大好きだから。心から、大切だから。
あぁ、いつから私は、こんなにもジャンを想っていたのだろう。
私達がもう少し早く、お互いに気持ちを打ち明けていたのならこんな結末にはならなかったのだろうか。
それでも、私はきっと、この口を噤んだ気がする。
私達がどう足掻いたって、ジャンが残酷な現実に絶望する未来は必ずやってくるから————。