なまえが立ち去った途端に、真っ黒になった裏庭は、自分の身体すらもよく見えない。独りなのかどうかも分からない世界では、孤独も感じないらしい。

(お前は本当にこれでいいのか？)

夜風に晒されて呆気なく冷たくなったベンチに手を添えて、ジャンは自問自答を繰り返す。
いつだったか、なまえに教えてもらったことがある。
誰しも善と悪を心にを飼っていて、それは天使と悪魔になって人を惑わすのだそうだ。
右から聞こえてくるのは天使の声で、左から聞こえてくるのは悪魔の声。そのどちらの声に耳を傾けるかで、その人の人生は大きく変わる。
天使の声に耳を耳を傾け、真っ当な道を歩くか。悪魔の声に惑わされて、地獄へ向かうのか。
選択するのは、自分だ。
でも、天使も悪魔も、結局は同じことを訴えていたら、どうなるのだろうか。
幸せになれるのか、不幸になるのか。

「…あぁ、分かったよ。」

ジャンはため息を吐いて、立ち上がる。
ふと見上げた夜空は、さっきまでの雲が嘘のように消え失せ、美しい満月と幾千の星が輝いていた。