◇百十四話◇会いたいときに会えたなら、運命と呼べたかもしれないのに
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ジャンがミケの執務室を出た頃には、夕飯の時間になっていた。
幹部の自室が揃うフロアの廊下も、人影は少なく、探していた人の姿ももちろんない。
昨日、リヴァイには礼を伝えられた。でも、一番伝えたかった人に、伝えられていないままだ。
ミケに言われたからではない。
ジャンが、彼女に礼を言いたかったから、会いに来た。
それだけだ———都合のいい理由を手に入れたからではない。
人として感謝を伝えるのは当然だろうと自分に言い訳をしながら、ジャンは、上ったばかりの幹部フロアに続く階段を逆戻りして、調査兵団兵舎を歩き回りながら、会いたいと焦がれる人の姿を探す。
でも、会いたくないと思っているときに限って顔を合わせてしまうのと同じように、会いたいときに限って会えないのもまた、よくある話だ。
なまえなら、こういうすれ違いの妄想をしては、『胸の苦しみが癖になるの。』と恍惚の表情を浮かべるのだろう。
だが、実際その〝すれ違い〟というものに振り回されていると、自分と彼女はそもそも出逢うべき運命ではなかったのだろうかと本気で悩みそうになってしまう。まぁ、きっと、実際そうなのだろうと内心思っている。
彼女はきっと、リヴァイと結ばれる運命のもとに生まれてきたのだ。
『鳥籠の中に閉じ込められている私を救うために、
高くそびえる壁を越えて、騎士が迎えに来るの。』
いつの日か、なまえが言っていたセリフだ。
現実では、壁の内側にその騎士がいたわけだが、彼女を救うというのは当たっている。
人殺しと罵られ、仲間達からも軽蔑の目を向けられてしまった彼女のそばにいたのは、リヴァイだ。
意識不明の重体だったジャンが眠っている間も、リヴァイはきっと、当然のように彼女を守り続けたのだろう。
目が覚めた〝婚約者〟が彼女のそばに戻るまで———そんな風に考えていたかもしれない。
でもジャンは、不安や自信のなさに負けて、彼女に最低な言葉を投げることしか出来なかった————。
(今さら…、偽物でもいいから、
元に戻りたいなんて都合が良すぎるよな…。)
書庫へと向かおうとしていたジャンの足が止まる。
強く握りしめる拳が震えている。
でも、振り上げる場所はない。殴り倒したいのは、自分だからだ。
もともと人通りのほとんどない西棟の廊下は、窓が少ないせいで、ひどく薄暗い。
気味悪がって行きたがらないなまえの代わりに、よく通っていた場所だ。どうしても必要なときには、必ず隣を歩いた。
そうやって、なまえを見守り続けていければいいと思っていた。
『俺はずっと彼女を想い続けてきました。
この気持ちは生涯変わりませんし、1000年後も調査兵でいたいと願う彼女の夢が叶うのなら、
1000年後も俺が守り続けます。』
あの日、嘘を吐かないと言った。その言葉の意味をなまえが理解していたとは思えない。
でも、あのセリフに嘘はなかったのだ。
本気だった。
どんなことがあろうとも、なまえを守り、味方で居続けられるのは自分だと信じて疑わなかった。
あのセリフを、自分で嘘に変えてしまうなんて、想像もしていなかった————。
幹部の自室が揃うフロアの廊下も、人影は少なく、探していた人の姿ももちろんない。
昨日、リヴァイには礼を伝えられた。でも、一番伝えたかった人に、伝えられていないままだ。
ミケに言われたからではない。
ジャンが、彼女に礼を言いたかったから、会いに来た。
それだけだ———都合のいい理由を手に入れたからではない。
人として感謝を伝えるのは当然だろうと自分に言い訳をしながら、ジャンは、上ったばかりの幹部フロアに続く階段を逆戻りして、調査兵団兵舎を歩き回りながら、会いたいと焦がれる人の姿を探す。
でも、会いたくないと思っているときに限って顔を合わせてしまうのと同じように、会いたいときに限って会えないのもまた、よくある話だ。
なまえなら、こういうすれ違いの妄想をしては、『胸の苦しみが癖になるの。』と恍惚の表情を浮かべるのだろう。
だが、実際その〝すれ違い〟というものに振り回されていると、自分と彼女はそもそも出逢うべき運命ではなかったのだろうかと本気で悩みそうになってしまう。まぁ、きっと、実際そうなのだろうと内心思っている。
彼女はきっと、リヴァイと結ばれる運命のもとに生まれてきたのだ。
『鳥籠の中に閉じ込められている私を救うために、
高くそびえる壁を越えて、騎士が迎えに来るの。』
いつの日か、なまえが言っていたセリフだ。
現実では、壁の内側にその騎士がいたわけだが、彼女を救うというのは当たっている。
人殺しと罵られ、仲間達からも軽蔑の目を向けられてしまった彼女のそばにいたのは、リヴァイだ。
意識不明の重体だったジャンが眠っている間も、リヴァイはきっと、当然のように彼女を守り続けたのだろう。
目が覚めた〝婚約者〟が彼女のそばに戻るまで———そんな風に考えていたかもしれない。
でもジャンは、不安や自信のなさに負けて、彼女に最低な言葉を投げることしか出来なかった————。
(今さら…、偽物でもいいから、
元に戻りたいなんて都合が良すぎるよな…。)
書庫へと向かおうとしていたジャンの足が止まる。
強く握りしめる拳が震えている。
でも、振り上げる場所はない。殴り倒したいのは、自分だからだ。
もともと人通りのほとんどない西棟の廊下は、窓が少ないせいで、ひどく薄暗い。
気味悪がって行きたがらないなまえの代わりに、よく通っていた場所だ。どうしても必要なときには、必ず隣を歩いた。
そうやって、なまえを見守り続けていければいいと思っていた。
『俺はずっと彼女を想い続けてきました。
この気持ちは生涯変わりませんし、1000年後も調査兵でいたいと願う彼女の夢が叶うのなら、
1000年後も俺が守り続けます。』
あの日、嘘を吐かないと言った。その言葉の意味をなまえが理解していたとは思えない。
でも、あのセリフに嘘はなかったのだ。
本気だった。
どんなことがあろうとも、なまえを守り、味方で居続けられるのは自分だと信じて疑わなかった。
あのセリフを、自分で嘘に変えてしまうなんて、想像もしていなかった————。