◇第百十一話◇泣いて喚いて許しを乞いて、そして愛して
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期待をした。その欲望の原動力が、他の女への未練や怒りだって構わなかった。
手段なんて選んでいられなかった。
最終的に、彼が自分のものになればそれでよかった。
でも————。
(どうして私が…っ。)
全てを悟ったその瞬間、フレイヤの身体を駆け巡ったのは、悔しさでも恐怖でもなく、羞恥心だった。
自分を見下ろす冷たい目。それは、欲しくて欲しくて仕方がなかった、真っ直ぐな瞳とは程遠く、彼がまだ彼女を愛していることを思い知らされる。
—————手に入らなかった。
ジャンは初めから、フレイヤを抱く気なんてなかった。
ほんの少しの欲情さえさせられなかった。
「キャーーーーーーー!!」
フレイヤは、思いっきり叫んだ。
悔しかった。悲しさも恐怖も、すっかり忘れた。
そして、フレイヤに残ったのは、恥をかかされたという悔しさだけだ。
ジャンが自分を愛してくれないことは理解した。
ならば、思い通りに出来ないのなら、せめて傷つけたい。
泣いて、詫びて、傷つけたことを後悔させてやりたかった。
だから、ボタンがすべて外れたシャツはそのままで、下着を晒した格好で、フレイヤはジャンの部屋を飛び出した。
(どうして…ッ。)
それでもまだ、フレイヤは、ジャンが追いかけてくることを期待した。
心配したわけではなくてもいい。そんなことをしてくれるとは思っていない。
ただ焦って、慌てて、追いかけて来てくれればよかった。
でも、ジャンは来ない。
その代わり、真夜中に響いた女性の悲鳴に驚いた調査兵達が、ぞろぞろと部屋から出てきた。
彼らは、開けたシャツから下着を晒した格好で、涙を流しているフレイヤを見て、目を丸くする。
そして、飛び出してきた部屋が、ジャンのものだと気づいたとき、扉の向こうで何が起こったのかを理解する。
いや、正確には〝誤解〟したのだ。
短いスカートから覗く生足と、開けたシャツに下着。
彼らはきっと、ジャンがフレイヤを襲ったのだと思っただろう。
それでも、まさか———と信じられずにいる空気の読めない馬鹿もいるかもしれないから、ダメ押しも必要だ。
「た…っ、たすけてください…っ。」
フレイヤは、目についた調査兵の腕に抱き着いた。
ジャンよりも2つほど先輩の調査兵だ。
彼を選んだのは、彼が自分に気があることを知っていたからだ。
そして単純に、下着を晒された胸を腕に押し付ければ、男なら簡単に騙されてくれるから、というのもある。
「ど…どうした…!?」
どうしたじゃないわよ———慌てるフリをして、胸の谷間を見下ろして鼻の下を伸ばしている先輩調査兵に、フレイヤは内心苛立った。
でも、わざわざ、何があったのか聞いてくれたのは都合も良かった。
これはチャンスだ。
ジャンを、強姦未遂男に仕立て上げる絶好のチャンスだ。
「お仕事の…っ、お手伝いをしに来たら…っ、
急にジャンさんが…っ。私をベッドに押し倒してきて…っ。」
言うが早いか、先輩兵士はジャンの部屋に飛び込んだ。
その後すぐに、何かがドンッと壁に当たった大きな音が廊下の方にまで響く。
ジャンが殴られたのだろう、と簡単に予想がついた。
思わず口元がニヤけそうになって、慌てて両手で顔を覆えば、すぐに他の先輩調査兵が駆け寄ってきて「大丈夫?」と心配してくれる。
少しすると、部屋に飛び込んだ先輩兵士が、ジャンの腕を掴んで廊下に連れ出してきた。
面倒そうに眉を顰めているジャンは、左頬が少し腫れていて、口の端は切れて血が出ている。
けれど、上半身裸の彼を目の当たりにすれば、訝しくしていた調査兵達までもが、扉の向こうで〝起こった〟ことを確信した。
女調査兵達は、眉を顰めて、ジャンを軽蔑を孕んだ目で睨みつけている。
でも、それだけじゃ足りなかった。
フレイヤが心に受けた傷と悔しさは、これだけでは済まない。
ジャンが絶望して、泣いて許しを乞うまで、許せない。
「大丈夫かい?」
ジャンを殴りつけた先輩兵士は、英雄気取りだった。
そして、すぐにフレイヤの元へ駆け寄ると、まるで自分のものかのように肩を抱いて心配そうに顔を覗き込む。
だから、フレイヤ彼の胸元に顔を埋めて、泣いているフリをした。
だって、思い通りに動き過ぎて、笑いがこみ上げてしまったのだ。
まさか、襲われそうになっていたか弱い女が笑うわけにはいかない。
(違うんだって、焦って泣いて、私に縋ればいいんだわ。
そしたら、許してあげようかしら。)
先輩兵士の腕の中で、必死になって悪かったと謝っているジャンを想像するフレイヤの口の端を上げる。
すぐに、幾つもの声が、ジャンを責めだした。
彼らは一様に、フレイヤの話を信じ切っていて、女性を襲ったことを咎めている。
自分がどれほど恐ろしいことをしたのか分かっているのかと諭すようなことを言う調査兵もいれば、最低だ鬼畜だなんだとジャンの人間性を否定するような声も幾つも上がった。
コソコソと低い声で何かを喋っている声もする。
でも、いつになっても、ジャンは何も言わなかった。
謝罪もなければ、言い訳すらない。
もちろん、フレイヤに、誤解だと言ってくれと懇願すらしない。
どうして———。
(これじゃ、つまんないわ。)
どうせ、ジャンは、自分は辞めるからどうなってもいいとでも思っているのだろう。
でもそれじゃ、フレイヤの気が晴れない。
作戦失敗だ———そう思っていたフレイヤだったけれど、天は、彼女に味方した。
「お前ら、こんな時間に集まって何やってんだ。」
騒然としていた廊下に、低い声が届く。
声のした方を見れば、そこにいたのは、調査兵団の兵士長、リヴァイだった。
そして———。
(勝った。)
先輩兵士の腕の中から、覗き見たフレイヤは、思い通りになる未来を確信して口の端を上げた。
リヴァイの隣に寄り添っているのは、なまえだ。
おそらく、今この状況を、ジャンが一番見られたくなかった、なまえだった。
手段なんて選んでいられなかった。
最終的に、彼が自分のものになればそれでよかった。
でも————。
(どうして私が…っ。)
全てを悟ったその瞬間、フレイヤの身体を駆け巡ったのは、悔しさでも恐怖でもなく、羞恥心だった。
自分を見下ろす冷たい目。それは、欲しくて欲しくて仕方がなかった、真っ直ぐな瞳とは程遠く、彼がまだ彼女を愛していることを思い知らされる。
—————手に入らなかった。
ジャンは初めから、フレイヤを抱く気なんてなかった。
ほんの少しの欲情さえさせられなかった。
「キャーーーーーーー!!」
フレイヤは、思いっきり叫んだ。
悔しかった。悲しさも恐怖も、すっかり忘れた。
そして、フレイヤに残ったのは、恥をかかされたという悔しさだけだ。
ジャンが自分を愛してくれないことは理解した。
ならば、思い通りに出来ないのなら、せめて傷つけたい。
泣いて、詫びて、傷つけたことを後悔させてやりたかった。
だから、ボタンがすべて外れたシャツはそのままで、下着を晒した格好で、フレイヤはジャンの部屋を飛び出した。
(どうして…ッ。)
それでもまだ、フレイヤは、ジャンが追いかけてくることを期待した。
心配したわけではなくてもいい。そんなことをしてくれるとは思っていない。
ただ焦って、慌てて、追いかけて来てくれればよかった。
でも、ジャンは来ない。
その代わり、真夜中に響いた女性の悲鳴に驚いた調査兵達が、ぞろぞろと部屋から出てきた。
彼らは、開けたシャツから下着を晒した格好で、涙を流しているフレイヤを見て、目を丸くする。
そして、飛び出してきた部屋が、ジャンのものだと気づいたとき、扉の向こうで何が起こったのかを理解する。
いや、正確には〝誤解〟したのだ。
短いスカートから覗く生足と、開けたシャツに下着。
彼らはきっと、ジャンがフレイヤを襲ったのだと思っただろう。
それでも、まさか———と信じられずにいる空気の読めない馬鹿もいるかもしれないから、ダメ押しも必要だ。
「た…っ、たすけてください…っ。」
フレイヤは、目についた調査兵の腕に抱き着いた。
ジャンよりも2つほど先輩の調査兵だ。
彼を選んだのは、彼が自分に気があることを知っていたからだ。
そして単純に、下着を晒された胸を腕に押し付ければ、男なら簡単に騙されてくれるから、というのもある。
「ど…どうした…!?」
どうしたじゃないわよ———慌てるフリをして、胸の谷間を見下ろして鼻の下を伸ばしている先輩調査兵に、フレイヤは内心苛立った。
でも、わざわざ、何があったのか聞いてくれたのは都合も良かった。
これはチャンスだ。
ジャンを、強姦未遂男に仕立て上げる絶好のチャンスだ。
「お仕事の…っ、お手伝いをしに来たら…っ、
急にジャンさんが…っ。私をベッドに押し倒してきて…っ。」
言うが早いか、先輩兵士はジャンの部屋に飛び込んだ。
その後すぐに、何かがドンッと壁に当たった大きな音が廊下の方にまで響く。
ジャンが殴られたのだろう、と簡単に予想がついた。
思わず口元がニヤけそうになって、慌てて両手で顔を覆えば、すぐに他の先輩調査兵が駆け寄ってきて「大丈夫?」と心配してくれる。
少しすると、部屋に飛び込んだ先輩兵士が、ジャンの腕を掴んで廊下に連れ出してきた。
面倒そうに眉を顰めているジャンは、左頬が少し腫れていて、口の端は切れて血が出ている。
けれど、上半身裸の彼を目の当たりにすれば、訝しくしていた調査兵達までもが、扉の向こうで〝起こった〟ことを確信した。
女調査兵達は、眉を顰めて、ジャンを軽蔑を孕んだ目で睨みつけている。
でも、それだけじゃ足りなかった。
フレイヤが心に受けた傷と悔しさは、これだけでは済まない。
ジャンが絶望して、泣いて許しを乞うまで、許せない。
「大丈夫かい?」
ジャンを殴りつけた先輩兵士は、英雄気取りだった。
そして、すぐにフレイヤの元へ駆け寄ると、まるで自分のものかのように肩を抱いて心配そうに顔を覗き込む。
だから、フレイヤ彼の胸元に顔を埋めて、泣いているフリをした。
だって、思い通りに動き過ぎて、笑いがこみ上げてしまったのだ。
まさか、襲われそうになっていたか弱い女が笑うわけにはいかない。
(違うんだって、焦って泣いて、私に縋ればいいんだわ。
そしたら、許してあげようかしら。)
先輩兵士の腕の中で、必死になって悪かったと謝っているジャンを想像するフレイヤの口の端を上げる。
すぐに、幾つもの声が、ジャンを責めだした。
彼らは一様に、フレイヤの話を信じ切っていて、女性を襲ったことを咎めている。
自分がどれほど恐ろしいことをしたのか分かっているのかと諭すようなことを言う調査兵もいれば、最低だ鬼畜だなんだとジャンの人間性を否定するような声も幾つも上がった。
コソコソと低い声で何かを喋っている声もする。
でも、いつになっても、ジャンは何も言わなかった。
謝罪もなければ、言い訳すらない。
もちろん、フレイヤに、誤解だと言ってくれと懇願すらしない。
どうして———。
(これじゃ、つまんないわ。)
どうせ、ジャンは、自分は辞めるからどうなってもいいとでも思っているのだろう。
でもそれじゃ、フレイヤの気が晴れない。
作戦失敗だ———そう思っていたフレイヤだったけれど、天は、彼女に味方した。
「お前ら、こんな時間に集まって何やってんだ。」
騒然としていた廊下に、低い声が届く。
声のした方を見れば、そこにいたのは、調査兵団の兵士長、リヴァイだった。
そして———。
(勝った。)
先輩兵士の腕の中から、覗き見たフレイヤは、思い通りになる未来を確信して口の端を上げた。
リヴァイの隣に寄り添っているのは、なまえだ。
おそらく、今この状況を、ジャンが一番見られたくなかった、なまえだった。