◇第百十話◇ミイラ取りをミイラにしてあげる
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
窓から射す月明かりが綺麗だな————。
ベッドに仰向けになったジャンは、真っ暗な天井を見上げながらそんなことを考えていた。
腰の上には、馬乗りになったフレイヤがいる。彼女は、ジャンとはまるで違う生き物かのように華奢な指で、丁寧にシャツのボタンを外していく。
時間が過ぎていくことすら忘れたみたいに仕事をしていたら、すっかり真夜中になっていた。
そろそろキリのいいところで仕事を終わらせて、私服に着替えようとしていたときだったから、ちょうどよかったかもしれない。
全て外し終えたフレイヤは、今度は自分のシャツのボタンに指をかけ始める。
綺麗だなと思った月明かりに照らされながら、ひとつひとつ、焦らすみたいにゆっくり外していく。
全てを外し終えた後、フレイヤはジャンの頬に手を添えた。
それからすぐに、首元にかかる吐息。
「…っ。」
首筋に僅かな痛みを感じて、ジャンは眉を顰めた。
「つけちゃった。売約済みの印。」
耳元でうっとりとした声が艶めかしく響く。
クスッと微かな笑い声と一緒に聞こえて来た風の音。
(根に持ってたんだな。)
ぼんやりと天井を見上げながら、ジャンは遠い日のことを思い出していた。
初めてなまえを抱いた夜の翌日、自分の首筋に咲いた赤が愛の勲章のように思えて誇らしかった。
何を考えていたのだろう。
あの日の自分はきっとどうかしていたに違いない。
嬉しそうに頬を緩めて、ジャンの首筋を撫でるフレイヤを眺めながら、キスマークなんてただの内出血に過ぎないんだと漸く気が付いた。
「次は、ジャンさんが私につけてください。」
そう言って、フレイヤが捕まえたジャンの手を持って行ったのは、自分の首筋ではなく胸元だった。
レースが幾つも折り重なっているブラジャーの上からは、その胸の柔らかさは知り得ない。知りたいとも、思えない。
刺された時に男としての機能が死んでしまったのだろうか———ジャンの思考は、ずっとフラフラと揺れてばかりで、フレイヤが求めている行為に集中することがどうしても出来ていなかった。
彼女がこんな強硬手段に出たのは、ジャンが調査兵団を辞めるという話をどこからか聞いて知ったからだろう。
ジャンはまだ退団の意思を分隊長に伝えただけだが、ミケが他の幹部に報告する過程で、漏れてしまったのかもしれない。どこで手に入れるのかは不明だが、彼女は、調査兵団内のありとあらゆる噂を知っているところがある。
「俺はお前のもんでもねぇし、お前を俺のものにしたいとも思ってねぇ。」
「…っ。」
ハッキリとした拒絶に、フレイヤの瞳が僅かに揺れた。
でも、死んだようなジャンの目は、今自分が拒絶した彼女の姿すら映していないようだった。
それをフレイヤが気づいていないわけがなく、許せたわけもない。
「ねぇ、知ってます?」
負けじと、フレイヤがジャンの頬を撫でながら甘えるように言う。
どうでもいい————身体中でそれを主張するように、ジャンは天井を見上げていた視線を顔ごと横に向けた。
ちょうど窓際に向いた視界には、相変わらず綺麗な月明かりが見えた。
じっと見ていれば、窓の向こうに、淡く光る月も確認出来る。
「なまえさん、毎晩、リヴァイさんの部屋に泊ってるんですよ。」
「へぇ。」
そうだろうと思っていた。
確認したわけでもない。事実を知るのが怖かったからじゃない。確認する必要がなかったからだ。
なまえの自室は、幹部フロアではなく、ジャンと同じフロアにある。
どんなに避けていようと姿を見ることもありそうだと思っていたが、それは杞憂に過ぎないことをすぐに知った。
たまに夜に外を歩いているときに、なまえの部屋のある方を見上げても、いつもそこはカーテンがしっかり閉じていて、明かりもついていない。
寂しがりのなまえが、ひとりきりでいられるとも思えない。
答えなんて、考えるまでもなく出た。
「ジャンさんを独りぼっちにしたのに、自分だけ婚約者と一緒に幸せに過ごしてるなんて
ズルいと思いません?」
「別に。」
「この前、ミケ分隊長に報告書を持って行った帰りにリヴァイ兵長の部屋の前を通ったら、
声も聞こえて来たんですよ。」
声———何の声だろう。
そう思ってしまったのが、間違いだった。
「なまえさんの、厭らしい声ですよ。」
フレイヤが、ジャンの耳元で小さく、でもハッキリと、囁く。
窓を向いていた視線は、呆気なく、そして勢いよく、フレイヤの方を向いてしまう。
見開いた目が、フレイヤと重なった瞬間に、彼女の作戦勝ちを認めるしかなくなる。
彼女は、満足そうに口の両端を上げて続ける。
「なまえさんって見かけによらず淫乱ですよね。ジャンさんにも手を出してたんでしょ?
眠り姫なんて呼ばれて純粋な顔してますけど、見てれば分かりますよ。
部下にまで手を出しておいて、人類最強の兵士と毎晩お楽しみなんて淫乱を通り越して獣みたい————。」
フレイヤの両腕を掴んだジャンの視界は、今度は勢いよく反転する。
いきなりベッドに押し倒されたフレイヤは、驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。
「いいですよ。人類最強の兵士よりもずっと激しくしても。」
「へぇ。そりゃいいな。」
ジャンは、細い腕を握る手に力を込めた。
ベッドに仰向けになったジャンは、真っ暗な天井を見上げながらそんなことを考えていた。
腰の上には、馬乗りになったフレイヤがいる。彼女は、ジャンとはまるで違う生き物かのように華奢な指で、丁寧にシャツのボタンを外していく。
時間が過ぎていくことすら忘れたみたいに仕事をしていたら、すっかり真夜中になっていた。
そろそろキリのいいところで仕事を終わらせて、私服に着替えようとしていたときだったから、ちょうどよかったかもしれない。
全て外し終えたフレイヤは、今度は自分のシャツのボタンに指をかけ始める。
綺麗だなと思った月明かりに照らされながら、ひとつひとつ、焦らすみたいにゆっくり外していく。
全てを外し終えた後、フレイヤはジャンの頬に手を添えた。
それからすぐに、首元にかかる吐息。
「…っ。」
首筋に僅かな痛みを感じて、ジャンは眉を顰めた。
「つけちゃった。売約済みの印。」
耳元でうっとりとした声が艶めかしく響く。
クスッと微かな笑い声と一緒に聞こえて来た風の音。
(根に持ってたんだな。)
ぼんやりと天井を見上げながら、ジャンは遠い日のことを思い出していた。
初めてなまえを抱いた夜の翌日、自分の首筋に咲いた赤が愛の勲章のように思えて誇らしかった。
何を考えていたのだろう。
あの日の自分はきっとどうかしていたに違いない。
嬉しそうに頬を緩めて、ジャンの首筋を撫でるフレイヤを眺めながら、キスマークなんてただの内出血に過ぎないんだと漸く気が付いた。
「次は、ジャンさんが私につけてください。」
そう言って、フレイヤが捕まえたジャンの手を持って行ったのは、自分の首筋ではなく胸元だった。
レースが幾つも折り重なっているブラジャーの上からは、その胸の柔らかさは知り得ない。知りたいとも、思えない。
刺された時に男としての機能が死んでしまったのだろうか———ジャンの思考は、ずっとフラフラと揺れてばかりで、フレイヤが求めている行為に集中することがどうしても出来ていなかった。
彼女がこんな強硬手段に出たのは、ジャンが調査兵団を辞めるという話をどこからか聞いて知ったからだろう。
ジャンはまだ退団の意思を分隊長に伝えただけだが、ミケが他の幹部に報告する過程で、漏れてしまったのかもしれない。どこで手に入れるのかは不明だが、彼女は、調査兵団内のありとあらゆる噂を知っているところがある。
「俺はお前のもんでもねぇし、お前を俺のものにしたいとも思ってねぇ。」
「…っ。」
ハッキリとした拒絶に、フレイヤの瞳が僅かに揺れた。
でも、死んだようなジャンの目は、今自分が拒絶した彼女の姿すら映していないようだった。
それをフレイヤが気づいていないわけがなく、許せたわけもない。
「ねぇ、知ってます?」
負けじと、フレイヤがジャンの頬を撫でながら甘えるように言う。
どうでもいい————身体中でそれを主張するように、ジャンは天井を見上げていた視線を顔ごと横に向けた。
ちょうど窓際に向いた視界には、相変わらず綺麗な月明かりが見えた。
じっと見ていれば、窓の向こうに、淡く光る月も確認出来る。
「なまえさん、毎晩、リヴァイさんの部屋に泊ってるんですよ。」
「へぇ。」
そうだろうと思っていた。
確認したわけでもない。事実を知るのが怖かったからじゃない。確認する必要がなかったからだ。
なまえの自室は、幹部フロアではなく、ジャンと同じフロアにある。
どんなに避けていようと姿を見ることもありそうだと思っていたが、それは杞憂に過ぎないことをすぐに知った。
たまに夜に外を歩いているときに、なまえの部屋のある方を見上げても、いつもそこはカーテンがしっかり閉じていて、明かりもついていない。
寂しがりのなまえが、ひとりきりでいられるとも思えない。
答えなんて、考えるまでもなく出た。
「ジャンさんを独りぼっちにしたのに、自分だけ婚約者と一緒に幸せに過ごしてるなんて
ズルいと思いません?」
「別に。」
「この前、ミケ分隊長に報告書を持って行った帰りにリヴァイ兵長の部屋の前を通ったら、
声も聞こえて来たんですよ。」
声———何の声だろう。
そう思ってしまったのが、間違いだった。
「なまえさんの、厭らしい声ですよ。」
フレイヤが、ジャンの耳元で小さく、でもハッキリと、囁く。
窓を向いていた視線は、呆気なく、そして勢いよく、フレイヤの方を向いてしまう。
見開いた目が、フレイヤと重なった瞬間に、彼女の作戦勝ちを認めるしかなくなる。
彼女は、満足そうに口の両端を上げて続ける。
「なまえさんって見かけによらず淫乱ですよね。ジャンさんにも手を出してたんでしょ?
眠り姫なんて呼ばれて純粋な顔してますけど、見てれば分かりますよ。
部下にまで手を出しておいて、人類最強の兵士と毎晩お楽しみなんて淫乱を通り越して獣みたい————。」
フレイヤの両腕を掴んだジャンの視界は、今度は勢いよく反転する。
いきなりベッドに押し倒されたフレイヤは、驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。
「いいですよ。人類最強の兵士よりもずっと激しくしても。」
「へぇ。そりゃいいな。」
ジャンは、細い腕を握る手に力を込めた。