◇第百六話◇貴方のいない空っぽの世界で
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昔から、自分が夢の中にいることは分かる方だった。
現実が幸せ過ぎて、夢と現実の区別が曖昧になっていたことがある。
でもそれはもう、過去のことだ。
また今、私は、ここが夢の世界なのだということをすぐに理解できている。
宝石の散りばめられたドレスに歩いても歩いても終わりがないくらいに広くて豪華なお城、それから、私の手を引いてくれる素敵な騎士もいる。
今日は、とても天気が良いから、庭園に出て一緒に本を読むようだ。
騎士に手を引かれて歩きながら、私は、お城の廊下を、庭園を隅々まで見渡す。豪華な装飾品や咲き誇る美しい花に心奪われたわけではない。
探しているのだ。
せめて、夢の中だけでもいいから、会いたくて———。
『幸せだ。』
名前も知らない大きな木の下まで行くと、木陰に腰を降ろして、私と騎士はお気に入りの本を広げる。
私の頭を優しく撫でながら、騎士がとても優しく微笑んでいる。
命を懸けてこの国を守っている彼は、部下だけではなく、友人の前でもいつも気を張っていて、初対面の人には怒っていると勘違いされてしまう。
そんな彼が、私の前だけで見せる柔らかい表情。
幸せ———そう思うのがきっと正しい。そう思わなければいけないのかもしれない。
でも私は、ぎこちない笑みを返すので精一杯だ。
「ジャンに、会いたい。」
無意識に呟いたわけではない。
敢えて、言葉にしたのだ。
だって、ここは私の夢の世界で、願えばなんだって叶うはずなのだ。
だから、私は何度も、ジャンに会いたいと、呪文みたいに繰り返した。
そうしていれば、最初に消えたのは、宝石が散りばめられていたドレスだった。
いつの日だったか、ジャンが私らしいと馬鹿にしたパジャマのワンピースは、ドレスよりもずっと身体に馴染むから、ホッと安心する。
次に消えたのは、大きなお城だった。
その代わりに、大きな壁が現れて、広がっていた壮大な空を遮る。
ゆっくりと靄がかかっていくように、美しい花が咲き誇る庭園も見えなくなっていく。
そして、最後に、私の頭を優しく撫でていた騎士が、寂しそうに微笑んで、消えていく。
とうとう、私は独りぼっちだ。
夢の中だけでもいい。願うのは、それだけだ。
それなのにどうして、会いたい人には、会えないのだろう。
現実にしかいないジャンを想えば想うほど、ここは夢の世界なのだと思い知る。
ジャンのいない世界は、空っぽだ。
——————。
————。
———。
—。
現実が幸せ過ぎて、夢と現実の区別が曖昧になっていたことがある。
でもそれはもう、過去のことだ。
また今、私は、ここが夢の世界なのだということをすぐに理解できている。
宝石の散りばめられたドレスに歩いても歩いても終わりがないくらいに広くて豪華なお城、それから、私の手を引いてくれる素敵な騎士もいる。
今日は、とても天気が良いから、庭園に出て一緒に本を読むようだ。
騎士に手を引かれて歩きながら、私は、お城の廊下を、庭園を隅々まで見渡す。豪華な装飾品や咲き誇る美しい花に心奪われたわけではない。
探しているのだ。
せめて、夢の中だけでもいいから、会いたくて———。
『幸せだ。』
名前も知らない大きな木の下まで行くと、木陰に腰を降ろして、私と騎士はお気に入りの本を広げる。
私の頭を優しく撫でながら、騎士がとても優しく微笑んでいる。
命を懸けてこの国を守っている彼は、部下だけではなく、友人の前でもいつも気を張っていて、初対面の人には怒っていると勘違いされてしまう。
そんな彼が、私の前だけで見せる柔らかい表情。
幸せ———そう思うのがきっと正しい。そう思わなければいけないのかもしれない。
でも私は、ぎこちない笑みを返すので精一杯だ。
「ジャンに、会いたい。」
無意識に呟いたわけではない。
敢えて、言葉にしたのだ。
だって、ここは私の夢の世界で、願えばなんだって叶うはずなのだ。
だから、私は何度も、ジャンに会いたいと、呪文みたいに繰り返した。
そうしていれば、最初に消えたのは、宝石が散りばめられていたドレスだった。
いつの日だったか、ジャンが私らしいと馬鹿にしたパジャマのワンピースは、ドレスよりもずっと身体に馴染むから、ホッと安心する。
次に消えたのは、大きなお城だった。
その代わりに、大きな壁が現れて、広がっていた壮大な空を遮る。
ゆっくりと靄がかかっていくように、美しい花が咲き誇る庭園も見えなくなっていく。
そして、最後に、私の頭を優しく撫でていた騎士が、寂しそうに微笑んで、消えていく。
とうとう、私は独りぼっちだ。
夢の中だけでもいい。願うのは、それだけだ。
それなのにどうして、会いたい人には、会えないのだろう。
現実にしかいないジャンを想えば想うほど、ここは夢の世界なのだと思い知る。
ジャンのいない世界は、空っぽだ。
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