◇第百四話◇すれ違うふたり
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それは、毎日のように続いている会議からの帰りで、私の心と身体はとっくに疲弊して倒れそうになっていた。
その瞬間に、隕石のように落ちたショックと悲しみが地面を割って、足元が崩れるような感覚も、確かにあった。
けれど私が驚くことはなかったのもまた、事実だ。
ジャンが両親の反対を押し切って調査兵に復帰したことは知っていた。それに、噂ならいろんなところから聞こえてきていたし、そうなるだろうことは、予想もしていた。
だからきっと、そのまますれ違うことが出来れば、一番良かったのだろう。
でも私は、廊下の向こうから、ジャンとフレイヤが仲睦まじく並んで歩いてやってくる姿を見つけてしまった途端に、息が止まったのだ。
ジャンの腕に自分の腕を絡めて、甘えるようにして上目遣いで話しているフレイヤの可愛らしさが、私に追い打ちをかける。
鏡で見たこともなかったけれど、きっと、私とジャンが並ぶよりもずっと、彼らはお似合いだ。
心臓が悲鳴を上げて、もうこれ以上は歩けないと私の足を止める。
目が合った。その途端に、ジャンも足を止める。
その理由は、私と一緒ではないのだろう。ジャンは、一瞬だけ目を見開いた後に、すぐに、目を逸らした。
会いたくなかった———そう言われたみたいだった。
「お疲れ様です。」
ジャンの腕を抱きしめているフレイヤが、ニコリと微笑む。
勝ち誇ったような笑みに、悔しさを感じることすらできなかった。
すぐそこにジャンがいるのに、違う世界に存在している人みたいだったのだ。
あの頃は、誰よりも近くにいる気がしたジャンが、今この世で、誰よりも遠い。
隣にいたリヴァイ兵長が数歩先を行ってから、私を振り返った。
「おい、行くぞ。」
リヴァイ兵長は、私の元まで戻ってきてくれると、宙ぶらりんになっていた手を握って引っ張る。
ひとりじゃきっと、歩き出せなかった。
だから、私は、リヴァイ兵長の優しさに縋ることを選ぶ。
逃げるように目を伏せて、ジャンとフレイヤの隣を通り過ぎた。
その瞬間に、寂しくなった。
本当はずっと、ジャンに会いたかった。
この世で一番遠くにいる人なのだとしても、その背中だけでいいから、見たくなった。
でも、私には振り返る勇気はない。
もう二度と私を見てくれないジャンを、思い知るのは、つらすぎる。
そうやって逃げたから、知らないままだ。
この時、振り返っていたのなら、もう一度、ジャンと視線が重なったかもしれなかったのに————。
「ジャンさん、行きますよ。」
振り返って、小さくなっていく恋人たちの後姿を見送っていたジャンを、フレイヤが急かした。
そして今度こそ、ジャンと私は別々の方向へと歩いていく。
そう、これでいい。
私は、もう二度と、道が重ならないことを願っている。
そう遠くない未来に、私はジャンを傷つけることになるだろう。
地獄へ落として、残酷な現実を目の前に叩きつける。
だから、私達はそばにいない方がいい。
傷つけた私が隣にいて、ジャンが負った傷を抉るよりも、すれ違ったままの方が、ずっと、いい。
その瞬間に、隕石のように落ちたショックと悲しみが地面を割って、足元が崩れるような感覚も、確かにあった。
けれど私が驚くことはなかったのもまた、事実だ。
ジャンが両親の反対を押し切って調査兵に復帰したことは知っていた。それに、噂ならいろんなところから聞こえてきていたし、そうなるだろうことは、予想もしていた。
だからきっと、そのまますれ違うことが出来れば、一番良かったのだろう。
でも私は、廊下の向こうから、ジャンとフレイヤが仲睦まじく並んで歩いてやってくる姿を見つけてしまった途端に、息が止まったのだ。
ジャンの腕に自分の腕を絡めて、甘えるようにして上目遣いで話しているフレイヤの可愛らしさが、私に追い打ちをかける。
鏡で見たこともなかったけれど、きっと、私とジャンが並ぶよりもずっと、彼らはお似合いだ。
心臓が悲鳴を上げて、もうこれ以上は歩けないと私の足を止める。
目が合った。その途端に、ジャンも足を止める。
その理由は、私と一緒ではないのだろう。ジャンは、一瞬だけ目を見開いた後に、すぐに、目を逸らした。
会いたくなかった———そう言われたみたいだった。
「お疲れ様です。」
ジャンの腕を抱きしめているフレイヤが、ニコリと微笑む。
勝ち誇ったような笑みに、悔しさを感じることすらできなかった。
すぐそこにジャンがいるのに、違う世界に存在している人みたいだったのだ。
あの頃は、誰よりも近くにいる気がしたジャンが、今この世で、誰よりも遠い。
隣にいたリヴァイ兵長が数歩先を行ってから、私を振り返った。
「おい、行くぞ。」
リヴァイ兵長は、私の元まで戻ってきてくれると、宙ぶらりんになっていた手を握って引っ張る。
ひとりじゃきっと、歩き出せなかった。
だから、私は、リヴァイ兵長の優しさに縋ることを選ぶ。
逃げるように目を伏せて、ジャンとフレイヤの隣を通り過ぎた。
その瞬間に、寂しくなった。
本当はずっと、ジャンに会いたかった。
この世で一番遠くにいる人なのだとしても、その背中だけでいいから、見たくなった。
でも、私には振り返る勇気はない。
もう二度と私を見てくれないジャンを、思い知るのは、つらすぎる。
そうやって逃げたから、知らないままだ。
この時、振り返っていたのなら、もう一度、ジャンと視線が重なったかもしれなかったのに————。
「ジャンさん、行きますよ。」
振り返って、小さくなっていく恋人たちの後姿を見送っていたジャンを、フレイヤが急かした。
そして今度こそ、ジャンと私は別々の方向へと歩いていく。
そう、これでいい。
私は、もう二度と、道が重ならないことを願っている。
そう遠くない未来に、私はジャンを傷つけることになるだろう。
地獄へ落として、残酷な現実を目の前に叩きつける。
だから、私達はそばにいない方がいい。
傷つけた私が隣にいて、ジャンが負った傷を抉るよりも、すれ違ったままの方が、ずっと、いい。