◇第十話◇ファースト・キスの代償は甘いご褒美
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「明日の準備は終わりましたか?」
カチャリ、と扉の開いた音と共に耳に届いたジャンの声が、私を現実に引き戻した。
ハッとして瞳を開ければ、息がかかりそうな距離に、リヴァイ兵長がいた。
すぐ目の前にある三白眼は、私を捉えたままだったけれど、さっきよりも近くなっている気がした。
このままずっとこうしていたら、長い睫毛のすべてを数えられてしまいそうだった。
でも、そんな時間は与えては貰えず、ジャンに肩を掴まれて、リヴァイ兵長から引き剥がされた。
「俺が片付けた部屋を散らかすだけ散らかして、
明日の準備もしねぇで何を遊んでるんすか。」
いつもの呆れたような叱り口調でジャンが言った。
それと同時に、痛いくらいに私の腕を掴んでいたリヴァイ兵長の手が、呆気なく離れていく。
待って———。
何を待って欲しいのかも分からいまま、口を開きかけたけれど、結局、私は何も言えなかった。
さっきまで、ほんの少しのよそ見も許さないとばかりに、息が苦しいくらいに私の目を捉えていたはずのリヴァイ兵長の目が、途端に興味をなくしたみたいにスッと離れて行ってしまったからだ。
「リヴァイ兵長が、なまえさんの部屋に来るなんて珍しいですね。
汚いからって、いつもは入りたがらないのに。
何か大切な用でもありました?俺、邪魔しましたか?」
ジャンがそう言うと、私から離れて行ったリヴァイ兵長の視線が上を向いた。
そして、ベッドの縁に腰を降ろしたままで長身のジャンを見上げた後、少し黙り込んでから、口を開いた。
「なまえに確かめてぇことがあっただけだ。」
「へぇ、そうだったんですか。
それで、ちゃんと確かめられました?」
「邪魔が入ったせいで、聞く気も失せた。」
リヴァイ兵長は冷たく突き放すように言って、立ち上がった。
そのまま、部屋を出て行くつもりのようだった。
私とジャンに向けた背中は、恐ろしい巨人の前に立ち、ブレードを構えているときのそれに似ていた。
つまり、怒りを放っているように感じた。
扉のドアノブを掴んだリヴァイ兵長が、それを捻るよりも前に、ジャンが、引き留めた。
「リヴァイ兵長、俺には、聞かなくていいんですか?」
ドアノブを捻ろうとしていたリヴァイ兵長の手が、ピタリ、と止まった。
少し間が空いて、リヴァイ兵長が振り返る。
冷たい印象を与えがちな三白眼が、どこか軽蔑するようにジャンを見返していた。
「まるで、聞いてほしいみてぇな言い方だな。
何か俺に自慢してぇことでもあるのか。」
「いえ、別に。ただ、なまえさんのことを一番知ってるのは俺なんで、
リヴァイ兵長の確かめたいことも、俺なら答えられるんじゃねぇかと思っただけですよ。」
ジャンの生意気な返答が気に入らなかったのか、リヴァイ兵長がこれでもかというほどに眉を顰めた。
でも、ベッドの縁に座ったままの私の隣に立つジャンは、澄ました顔で、どう見ても怒っているリヴァイ兵長と対峙している。
荷造り途中で呆れるほど散らかった間抜けな部屋は、喧嘩でも始まってしまいそうなピリピリとした空気で張り詰めていた。
その理由に見当もつかないまま、私だけが、このままリヴァイ兵長にジャンのうなじを削がれてしまうんじゃないか——とビクビクしていた。
「あの時から、お前は本当に気に食わねぇクソガキだな。」
「それはどうも。」
何を話しているのかは分からなかったけれど、ジャンのそれは、礼ではなくて、相手を挑発するようなカチンとくる言い方だった。
当然のように、リヴァイ兵長は腹を立てたようで、チッと舌打ちを零すと、それ以上は何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
「ねぇ、ジャン。前にもリヴァイ兵長を怒らせたの?一体、何したの?
ダメだよ。私に対してはもう慣れちゃったし別にいいけど、
目上の人はちゃんと敬わなきゃ。」
私は、さっきの『あの時』というフレーズが気になっていた。
ベッドの縁に座ったまま彼を見上げて、珍しく上官らしく窘めるように言った私を、ジャンが見下ろす。
その切れ長の目は、呆れるどころか、悪魔が降臨したみたいに、恐ろしいほど吊り上がっていた。
ジャンは、リヴァイ兵長を怒らせてしまったけれど、私は、ジャンのことをとんでもなく怒らせてしまったようだ。
カチャリ、と扉の開いた音と共に耳に届いたジャンの声が、私を現実に引き戻した。
ハッとして瞳を開ければ、息がかかりそうな距離に、リヴァイ兵長がいた。
すぐ目の前にある三白眼は、私を捉えたままだったけれど、さっきよりも近くなっている気がした。
このままずっとこうしていたら、長い睫毛のすべてを数えられてしまいそうだった。
でも、そんな時間は与えては貰えず、ジャンに肩を掴まれて、リヴァイ兵長から引き剥がされた。
「俺が片付けた部屋を散らかすだけ散らかして、
明日の準備もしねぇで何を遊んでるんすか。」
いつもの呆れたような叱り口調でジャンが言った。
それと同時に、痛いくらいに私の腕を掴んでいたリヴァイ兵長の手が、呆気なく離れていく。
待って———。
何を待って欲しいのかも分からいまま、口を開きかけたけれど、結局、私は何も言えなかった。
さっきまで、ほんの少しのよそ見も許さないとばかりに、息が苦しいくらいに私の目を捉えていたはずのリヴァイ兵長の目が、途端に興味をなくしたみたいにスッと離れて行ってしまったからだ。
「リヴァイ兵長が、なまえさんの部屋に来るなんて珍しいですね。
汚いからって、いつもは入りたがらないのに。
何か大切な用でもありました?俺、邪魔しましたか?」
ジャンがそう言うと、私から離れて行ったリヴァイ兵長の視線が上を向いた。
そして、ベッドの縁に腰を降ろしたままで長身のジャンを見上げた後、少し黙り込んでから、口を開いた。
「なまえに確かめてぇことがあっただけだ。」
「へぇ、そうだったんですか。
それで、ちゃんと確かめられました?」
「邪魔が入ったせいで、聞く気も失せた。」
リヴァイ兵長は冷たく突き放すように言って、立ち上がった。
そのまま、部屋を出て行くつもりのようだった。
私とジャンに向けた背中は、恐ろしい巨人の前に立ち、ブレードを構えているときのそれに似ていた。
つまり、怒りを放っているように感じた。
扉のドアノブを掴んだリヴァイ兵長が、それを捻るよりも前に、ジャンが、引き留めた。
「リヴァイ兵長、俺には、聞かなくていいんですか?」
ドアノブを捻ろうとしていたリヴァイ兵長の手が、ピタリ、と止まった。
少し間が空いて、リヴァイ兵長が振り返る。
冷たい印象を与えがちな三白眼が、どこか軽蔑するようにジャンを見返していた。
「まるで、聞いてほしいみてぇな言い方だな。
何か俺に自慢してぇことでもあるのか。」
「いえ、別に。ただ、なまえさんのことを一番知ってるのは俺なんで、
リヴァイ兵長の確かめたいことも、俺なら答えられるんじゃねぇかと思っただけですよ。」
ジャンの生意気な返答が気に入らなかったのか、リヴァイ兵長がこれでもかというほどに眉を顰めた。
でも、ベッドの縁に座ったままの私の隣に立つジャンは、澄ました顔で、どう見ても怒っているリヴァイ兵長と対峙している。
荷造り途中で呆れるほど散らかった間抜けな部屋は、喧嘩でも始まってしまいそうなピリピリとした空気で張り詰めていた。
その理由に見当もつかないまま、私だけが、このままリヴァイ兵長にジャンのうなじを削がれてしまうんじゃないか——とビクビクしていた。
「あの時から、お前は本当に気に食わねぇクソガキだな。」
「それはどうも。」
何を話しているのかは分からなかったけれど、ジャンのそれは、礼ではなくて、相手を挑発するようなカチンとくる言い方だった。
当然のように、リヴァイ兵長は腹を立てたようで、チッと舌打ちを零すと、それ以上は何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
「ねぇ、ジャン。前にもリヴァイ兵長を怒らせたの?一体、何したの?
ダメだよ。私に対してはもう慣れちゃったし別にいいけど、
目上の人はちゃんと敬わなきゃ。」
私は、さっきの『あの時』というフレーズが気になっていた。
ベッドの縁に座ったまま彼を見上げて、珍しく上官らしく窘めるように言った私を、ジャンが見下ろす。
その切れ長の目は、呆れるどころか、悪魔が降臨したみたいに、恐ろしいほど吊り上がっていた。
ジャンは、リヴァイ兵長を怒らせてしまったけれど、私は、ジャンのことをとんでもなく怒らせてしまったようだ。