◇第九十八話◇理想と現実と、君を想う妄想【後編】
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なまえから逃げて来たはずだった。
でも、気づいた時に、ジャンがいたのは、なまえの部屋の中だった。
「え。」
そこは、文字通りの〝もぬけの殻〟状態だった。
いつもそうだったように、脱ぎ捨てられた服や湿ったまま放っておかれたせいで奇妙なカタチでカラカラにかたまっているタオルもなければ、デスクの上に広げられているのは、読みかけの本ではなくて、やりかけの書類だ。
まるで、違う誰かの部屋に来てしまったかのような違和感は、ジャンの心になんとか残っていた自分の存在意義を奪うのに十分だった。
無意識に手が震えると、シュークリームの入った紙袋がカサッと音を立てて、情けないほどにビクッと肩が跳ねる。
少し前まで、なまえの部屋にいることが、当然のように感じていた。
でも今、ここは自分にとって、一番遠い場所のような気がするのだ。