◇第九十八話◇理想と現実と、君を想う妄想【前編】
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ジャンは、ベッドの縁に座っていた。
俯いて見つめる手元には、薄いピンク色をした紙袋がある。マルコからもらった見舞いのお菓子だ。
———会いに行ってもいいのだろうか。
今日、ジャンが1日中ずっと考えていたことだった。
でもきっと、答えならもう出ているのだと思う。
可愛らしい紙袋を見つけて、しきりに中身を気にしていたフレイヤに適当に理由をつけて触らせなかったのは、きっとそういう理由だ。
会いたい———それ以外に、ジャンの答えはない。
身体もだいぶ回復してきて、今日も日中は初めてリハビリに参加してきた。
医療棟から宿舎のなまえの自室までは少し距離があるけれど、頑張れば行ける。
見舞い時間どころか、夕飯時も過ぎたこの時間帯なら、医療兵達に見つかる可能性も低いだろう。
うまくやれば、誰にも会わずになまえの元へ行けるかもしれない。
でも、勇気が出ない。
感情が滅茶苦茶に散らかっていて、自分でも何をそんなに怯えているのかは分からないけれど、ひとつだけ、わかることがある。
怖いのだ。
「…よし。」
こぼしそうになったため息をなんとか飲み込んで、ジャンは、敢えてそれを口にした。
決意して紙袋を握りしめたときに出たクシャッという音が、やけに虚しく響いたから、また不安が押し寄せてくる。
負けそうになって、ジャンは小さく首を横に振ると、おもむろに立ち上がった。
ハンガーラックにかけてある厚手のカーディガンを乱暴にとって、雑に羽織る。
病室を出ると、冷たい空気に思わず身体が身震いをして、上着を羽織った自分の判断を褒めてやりたくなった。
誰もいない薄暗い廊下は、耳が嫌だと騒いで気持ち悪いくらいに静かで、シンと音が聞こえてきそうなほどだ。
早く廊下を抜けたくて急げば、コツコツという自分の足音がやけに不気味に響くから、余計に早足になる。
そうしてやっと医療棟を出て、久しぶりに外の空気を身体に浴びることが出来たジャンを、冷たい夜風の容赦ない洗礼が襲う。
「さっ、む…っ。」
思わず立ち止まり、自分を抱きしめるようにして腕をくみ、身体をさする。
でも、寒く冷たいくらいがちょうどよかった。
(喜んでくれるかな。)
右手に持った薄いピンク色の紙袋を持ち上げたジャンは、飛び跳ねるように喜ぶなまえの姿を妄想して、頬を緩ませる。
「よし、行くか。」
ジャンは、力強く、一歩踏み出す。
冷たい風が身体をさすし、とても寒い。でも、それでいい。
だって、嬉しそうにシュークリームを食べているなまえを後ろから抱きしめたときの温もりが、余計に幸せに感じられるはずだから———。
俯いて見つめる手元には、薄いピンク色をした紙袋がある。マルコからもらった見舞いのお菓子だ。
———会いに行ってもいいのだろうか。
今日、ジャンが1日中ずっと考えていたことだった。
でもきっと、答えならもう出ているのだと思う。
可愛らしい紙袋を見つけて、しきりに中身を気にしていたフレイヤに適当に理由をつけて触らせなかったのは、きっとそういう理由だ。
会いたい———それ以外に、ジャンの答えはない。
身体もだいぶ回復してきて、今日も日中は初めてリハビリに参加してきた。
医療棟から宿舎のなまえの自室までは少し距離があるけれど、頑張れば行ける。
見舞い時間どころか、夕飯時も過ぎたこの時間帯なら、医療兵達に見つかる可能性も低いだろう。
うまくやれば、誰にも会わずになまえの元へ行けるかもしれない。
でも、勇気が出ない。
感情が滅茶苦茶に散らかっていて、自分でも何をそんなに怯えているのかは分からないけれど、ひとつだけ、わかることがある。
怖いのだ。
「…よし。」
こぼしそうになったため息をなんとか飲み込んで、ジャンは、敢えてそれを口にした。
決意して紙袋を握りしめたときに出たクシャッという音が、やけに虚しく響いたから、また不安が押し寄せてくる。
負けそうになって、ジャンは小さく首を横に振ると、おもむろに立ち上がった。
ハンガーラックにかけてある厚手のカーディガンを乱暴にとって、雑に羽織る。
病室を出ると、冷たい空気に思わず身体が身震いをして、上着を羽織った自分の判断を褒めてやりたくなった。
誰もいない薄暗い廊下は、耳が嫌だと騒いで気持ち悪いくらいに静かで、シンと音が聞こえてきそうなほどだ。
早く廊下を抜けたくて急げば、コツコツという自分の足音がやけに不気味に響くから、余計に早足になる。
そうしてやっと医療棟を出て、久しぶりに外の空気を身体に浴びることが出来たジャンを、冷たい夜風の容赦ない洗礼が襲う。
「さっ、む…っ。」
思わず立ち止まり、自分を抱きしめるようにして腕をくみ、身体をさする。
でも、寒く冷たいくらいがちょうどよかった。
(喜んでくれるかな。)
右手に持った薄いピンク色の紙袋を持ち上げたジャンは、飛び跳ねるように喜ぶなまえの姿を妄想して、頬を緩ませる。
「よし、行くか。」
ジャンは、力強く、一歩踏み出す。
冷たい風が身体をさすし、とても寒い。でも、それでいい。
だって、嬉しそうにシュークリームを食べているなまえを後ろから抱きしめたときの温もりが、余計に幸せに感じられるはずだから———。