◇第九十四話◇親友達からのお見舞い
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なまえは、〝人殺し〟と呼ばれ、仲間から疎まれ、蔑まれることをしたのだろうか———。
ベッドのヘッドボードに背中を預けるジャンは、眩しさに慣れた瞳で、窓の向こうの青空を眺めながら、そんなことばかりを考えていた。
確かに、なまえを恨みたくなるリコの気持ちも分からなくもない。
無残に死ぬことになってしまったイアン達は、無念としか言いようがないだろう。
なまえが、嫌なことから目を逸らして、夢に逃げる癖があることは、ジャンも知っている。いや、兵団に所属している兵士達の多くが、〝眠り姫〟と揶揄される彼女の悪い癖を耳にしたことがあるはずだ。
トロスト区へ巨人が襲来したあの地獄の日、なまえが、アルミンが発案し、ピクシスが命じた作戦から逃げたのだとしたら、それは兵士としては間違っている行動だ。
実際にどうだったのかは分からないし、ピクシスが許可を出したのなら、そうはならなかったのだろうが、通常ならば懲罰に値するほどの問題行動だ。
そして、ジャンもまた、あの作戦時になまえがその場にいたのなら、駐屯兵団精鋭兵達の犠牲は最小限に抑えられたと考えている。
でも、なまえが〝人殺し〟かと問われれば、答えはNOになる。
あの日の駐屯兵団精鋭兵達の死の責任の全てをなまえに押し付けることを、〝仕方ない〟で納得するなんて到底できない。
(ていうか、あの人、どうして壁外調査に出てなかったんだ?)
調査兵が壁外調査に出ないことは、ありえないことではない。
たとえば、怪我をしていれば、当然、留守番することになる。壁外調査当日の朝には、班長による検温があるから、体調が悪ければ、参加許可も出ない。
でも、トロスト区巨人襲来のあの日、なまえはトロスト区に残った巨人掃討作戦に従事し、多くの巨人を討伐、または討伐補佐をしていた。
穴を塞いだ後ではあるが、ジャンも実際に、なまえが討伐をしている姿を見ている。
それに、リコの話からしても、なまえが怪我をしていたり、体調が悪いということもなさそうだ。
なまえがトロスト区に残って留守番をしていた理由が、怪我や体調不良でないとすれば、壁外調査以外の任務が入っていた可能性も考えられる。
大体が憲兵団や王政の勝手な都合や嫌がらせだけれど、どうしてもその日に外せない任務が入ってしまえば、壁外調査ではなくてそちらを優先するしかなくなることもある。
でも、その場合は、ストヘス区へ出張していることが多い。
トロスト区に残っていたということなら、その可能性も低い気がする。
そこも気にはなるが、やはり、今は、なまえが〝人殺し〟と呼ばれてしまっていることの方が問題だ。
そのせいで、仲良くなり始めていた母親や父親が、なまえのことを拒絶しているのだ。
しかも、彼らは、息子が調査兵団に所属していることにすら拒否反応を出し始めている。
これは、ジャンにとって死活問題だ。
調査兵団を辞めるつもりはないし、なまえとの関係をこのままにしておくつもりもない。
どうしたものか———。
「———ン、————ねぇ、聞い———?————ン、ジャン!!」
いきなり、鼓膜を響かせるような大きな声が耳に入ってきた。
「うわッ!?ビビッた…!!」
肩が跳ね、驚いた顔をして、声のした方を向く。
ベッドに並ぶように立っているのは、親友のマルコだった。
刺されて重体になっていた親友を心配していたマルコは、ジャンが目を覚ましたと知るとすぐに、手紙を送ってきた。
体調を心配する文章と共に、身体が落ち着いた頃に、見舞いに来るとあった。
そして、今日、わざわざ非番を利用して、遥々ストヘス区から見舞いに来てくれることになっていたのだ。
「何言っても反応がないから、目を開けたまま意識不明に戻ったのかと思って心配しただろ。」
どこまで本気かは分からないことを咎めるように言って、マルコがベッド脇の椅子に腰かける。
「悪い、ボーッとしてた。」
「すごく怖い顔してね。」
「マジか。」
無意識だった。
マルコが困ったように息を吐いて、肩を竦める。
「まぁ、思ってたよりも平気そうで安心したよ。
はい、これ。お見舞い。
なまえさんも好きかなと思って甘いお菓子にしておいたよ。」
マルコがそう言って、紙の手提げ袋を渡してくる。
一応、礼を言いながら受け取るが、なまえがこのお菓子を食べてくれるかは分からない。
残念だが、母親や、フレイヤの腹の中におさまってしまう未来しか想像できない。
「それで、浮かない顔してどうしたんだよ。
腹が痛いからってわけじゃないんだろ?」
唐突に尋問のように始まったけれど、心配そうなマルコの眼差しに少しだけ心がホッと安心したような気がした。
目が覚めてから、ジャンが会ったのは、団長であるエルヴィンをはじめとするなまえ以外の調査兵団幹部の数名と、看護兵や医療兵。そして、両親とフレイヤだけだ。
彼らには、自分が心に抱えている不安や悩みは相談できないし、そうしようとさえ思わなかった。
でも、ひとりきりで悶々と考え続けることで、緊張が続いていたのだろう。
全面的に味方でいてくれると心から信じられるマルコを前にして、漸く、緊張の糸が解けたのだ。
「なまえに…。
なまえさんに、この見舞いの菓子、あげられねぇかもって思ってさ。
まぁ、そうすりゃ、馬鹿みたいに屑をこぼして、部屋を散らかされねぇで済むんだけど。」
少し嫌味っぽく言って、ジャンなりに、自分らしい意地悪な笑みを浮かべてみた。
マルコの前でなら、不安や愚痴を吐露できる———そう思っても、素直になれないのがジャンだ。
そして、それでも、それをジャンらしい相談だと受けとめてくれるのが、マルコなのだ。
「それって、なまえさんが〝人殺し〟って呼ばれてるせい?」
驚いた。
知っていたのか。
マルコは説明するように続けた。
ベッドのヘッドボードに背中を預けるジャンは、眩しさに慣れた瞳で、窓の向こうの青空を眺めながら、そんなことばかりを考えていた。
確かに、なまえを恨みたくなるリコの気持ちも分からなくもない。
無残に死ぬことになってしまったイアン達は、無念としか言いようがないだろう。
なまえが、嫌なことから目を逸らして、夢に逃げる癖があることは、ジャンも知っている。いや、兵団に所属している兵士達の多くが、〝眠り姫〟と揶揄される彼女の悪い癖を耳にしたことがあるはずだ。
トロスト区へ巨人が襲来したあの地獄の日、なまえが、アルミンが発案し、ピクシスが命じた作戦から逃げたのだとしたら、それは兵士としては間違っている行動だ。
実際にどうだったのかは分からないし、ピクシスが許可を出したのなら、そうはならなかったのだろうが、通常ならば懲罰に値するほどの問題行動だ。
そして、ジャンもまた、あの作戦時になまえがその場にいたのなら、駐屯兵団精鋭兵達の犠牲は最小限に抑えられたと考えている。
でも、なまえが〝人殺し〟かと問われれば、答えはNOになる。
あの日の駐屯兵団精鋭兵達の死の責任の全てをなまえに押し付けることを、〝仕方ない〟で納得するなんて到底できない。
(ていうか、あの人、どうして壁外調査に出てなかったんだ?)
調査兵が壁外調査に出ないことは、ありえないことではない。
たとえば、怪我をしていれば、当然、留守番することになる。壁外調査当日の朝には、班長による検温があるから、体調が悪ければ、参加許可も出ない。
でも、トロスト区巨人襲来のあの日、なまえはトロスト区に残った巨人掃討作戦に従事し、多くの巨人を討伐、または討伐補佐をしていた。
穴を塞いだ後ではあるが、ジャンも実際に、なまえが討伐をしている姿を見ている。
それに、リコの話からしても、なまえが怪我をしていたり、体調が悪いということもなさそうだ。
なまえがトロスト区に残って留守番をしていた理由が、怪我や体調不良でないとすれば、壁外調査以外の任務が入っていた可能性も考えられる。
大体が憲兵団や王政の勝手な都合や嫌がらせだけれど、どうしてもその日に外せない任務が入ってしまえば、壁外調査ではなくてそちらを優先するしかなくなることもある。
でも、その場合は、ストヘス区へ出張していることが多い。
トロスト区に残っていたということなら、その可能性も低い気がする。
そこも気にはなるが、やはり、今は、なまえが〝人殺し〟と呼ばれてしまっていることの方が問題だ。
そのせいで、仲良くなり始めていた母親や父親が、なまえのことを拒絶しているのだ。
しかも、彼らは、息子が調査兵団に所属していることにすら拒否反応を出し始めている。
これは、ジャンにとって死活問題だ。
調査兵団を辞めるつもりはないし、なまえとの関係をこのままにしておくつもりもない。
どうしたものか———。
「———ン、————ねぇ、聞い———?————ン、ジャン!!」
いきなり、鼓膜を響かせるような大きな声が耳に入ってきた。
「うわッ!?ビビッた…!!」
肩が跳ね、驚いた顔をして、声のした方を向く。
ベッドに並ぶように立っているのは、親友のマルコだった。
刺されて重体になっていた親友を心配していたマルコは、ジャンが目を覚ましたと知るとすぐに、手紙を送ってきた。
体調を心配する文章と共に、身体が落ち着いた頃に、見舞いに来るとあった。
そして、今日、わざわざ非番を利用して、遥々ストヘス区から見舞いに来てくれることになっていたのだ。
「何言っても反応がないから、目を開けたまま意識不明に戻ったのかと思って心配しただろ。」
どこまで本気かは分からないことを咎めるように言って、マルコがベッド脇の椅子に腰かける。
「悪い、ボーッとしてた。」
「すごく怖い顔してね。」
「マジか。」
無意識だった。
マルコが困ったように息を吐いて、肩を竦める。
「まぁ、思ってたよりも平気そうで安心したよ。
はい、これ。お見舞い。
なまえさんも好きかなと思って甘いお菓子にしておいたよ。」
マルコがそう言って、紙の手提げ袋を渡してくる。
一応、礼を言いながら受け取るが、なまえがこのお菓子を食べてくれるかは分からない。
残念だが、母親や、フレイヤの腹の中におさまってしまう未来しか想像できない。
「それで、浮かない顔してどうしたんだよ。
腹が痛いからってわけじゃないんだろ?」
唐突に尋問のように始まったけれど、心配そうなマルコの眼差しに少しだけ心がホッと安心したような気がした。
目が覚めてから、ジャンが会ったのは、団長であるエルヴィンをはじめとするなまえ以外の調査兵団幹部の数名と、看護兵や医療兵。そして、両親とフレイヤだけだ。
彼らには、自分が心に抱えている不安や悩みは相談できないし、そうしようとさえ思わなかった。
でも、ひとりきりで悶々と考え続けることで、緊張が続いていたのだろう。
全面的に味方でいてくれると心から信じられるマルコを前にして、漸く、緊張の糸が解けたのだ。
「なまえに…。
なまえさんに、この見舞いの菓子、あげられねぇかもって思ってさ。
まぁ、そうすりゃ、馬鹿みたいに屑をこぼして、部屋を散らかされねぇで済むんだけど。」
少し嫌味っぽく言って、ジャンなりに、自分らしい意地悪な笑みを浮かべてみた。
マルコの前でなら、不安や愚痴を吐露できる———そう思っても、素直になれないのがジャンだ。
そして、それでも、それをジャンらしい相談だと受けとめてくれるのが、マルコなのだ。
「それって、なまえさんが〝人殺し〟って呼ばれてるせい?」
驚いた。
知っていたのか。
マルコは説明するように続けた。