◇第九話◇騎士が姫の部屋を訪れる理由
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仕事の早い団長は、退団願い取り下げを希望した翌日には、日程調整を終わらせ、本当に数日後には休暇日を決定してくれた。
両親には、恋人を連れて行くという手紙を送ってある。
突然の娘からの手紙に驚いたようだったけれど、今朝、待っていると返事が返って来た。
そして、決行はついに明日。
明日の朝早くに兵舎を出て、ジャンと一緒に馬車でストヘス区へ向かう。
到着は夕方の予定だ。
そのままその日は実家に1泊して、明後日にはまたトロスト区へ帰る。
明後日、馬車に乗っている頃にはもう、私の運命は決まっているのだ。
自室で、ひとりきり、私は、ストヘス区にある実家に帰るための荷造りや準備を始めていた。
少しでも、両親の印象を良くしようと考えて、クローゼットの中から洋服をすべて引っ張り出した。
清楚なワンピースがいいのか、大人っぽいシャツがいいのか。
それとも、歳下の恋人がいても不自然じゃなくて見えるように、可愛らしいロングスカートがいいのか。
普段、あまりお洒落を気にしないから、何を選べばいいのか全く分からない。
あれでもない、これでもない、と放り出された洋服が、部屋のあちこちに散らばっていて足の踏み場もない。
この部屋をジャンに見られたら、また怒られそうだ———。
姑みたいに怒るジャンを想像してみたけれど、『許さん!』と怒っている両親の顔しか思い浮かばなかった。
ダメだ——。
もう、吐きそうだ——。
(不安だ…。)
未だに空っぽの旅行バッグを見下ろして、私は大きく息を吐いた。
明日が始まるのが憂鬱過ぎて、全然、準備が進まない。
吐き気が止まらない。
このままでは、旅行バッグに、さっき食堂で食べた夕食を詰め込むことになってしまいそうだ。
こんなときこそ妄想だ——。
そう思うのだけれど、不安と緊張で楽しい妄想も浮かばないのだ。
そこへ、コンコン、と扉を叩く音が聞こえて、私は、無意識に俯いていた顔を上げた。
(誰だろう。)
私の部屋に一番訪れる補佐のジャンは、随分と前にノックというものの存在を忘れてしまったようだから、絶対に違う。
時計を見れば、時間はもう夜の21時過ぎだった。
こんな時間に個人の部屋に訪れるのは、お喋りをしに来た友人か、仕事の用だとすれば急用だとしか思えない。
「はーい。どうぞ~。」
立ち上がった私は、旅行バッグをデスクの上に適当に乗せてから、扉の向こうにいる誰かに返事をした。
この間、ジャンが綺麗に片付けと掃除をしてくれた部屋は、とりあえず、まだ人が生活できる程度の状態には保ってある。
床の上やソファの上に少しだけ、洋服が散らばっているだけだ。
普段の部屋よりは、招き入れても、恥ずかしくはない。
部屋を見渡しながらそんなことを考えているうちに、扉がゆっくり開いた。
思いも寄らない訪ね人を見て、私は息をするのを忘れた。
「相変わらず、汚ぇ部屋だな。」
一歩足を踏み入れた途端、私の部屋を見渡して眉を顰めたのは、リヴァイ兵長だった。
両親には、恋人を連れて行くという手紙を送ってある。
突然の娘からの手紙に驚いたようだったけれど、今朝、待っていると返事が返って来た。
そして、決行はついに明日。
明日の朝早くに兵舎を出て、ジャンと一緒に馬車でストヘス区へ向かう。
到着は夕方の予定だ。
そのままその日は実家に1泊して、明後日にはまたトロスト区へ帰る。
明後日、馬車に乗っている頃にはもう、私の運命は決まっているのだ。
自室で、ひとりきり、私は、ストヘス区にある実家に帰るための荷造りや準備を始めていた。
少しでも、両親の印象を良くしようと考えて、クローゼットの中から洋服をすべて引っ張り出した。
清楚なワンピースがいいのか、大人っぽいシャツがいいのか。
それとも、歳下の恋人がいても不自然じゃなくて見えるように、可愛らしいロングスカートがいいのか。
普段、あまりお洒落を気にしないから、何を選べばいいのか全く分からない。
あれでもない、これでもない、と放り出された洋服が、部屋のあちこちに散らばっていて足の踏み場もない。
この部屋をジャンに見られたら、また怒られそうだ———。
姑みたいに怒るジャンを想像してみたけれど、『許さん!』と怒っている両親の顔しか思い浮かばなかった。
ダメだ——。
もう、吐きそうだ——。
(不安だ…。)
未だに空っぽの旅行バッグを見下ろして、私は大きく息を吐いた。
明日が始まるのが憂鬱過ぎて、全然、準備が進まない。
吐き気が止まらない。
このままでは、旅行バッグに、さっき食堂で食べた夕食を詰め込むことになってしまいそうだ。
こんなときこそ妄想だ——。
そう思うのだけれど、不安と緊張で楽しい妄想も浮かばないのだ。
そこへ、コンコン、と扉を叩く音が聞こえて、私は、無意識に俯いていた顔を上げた。
(誰だろう。)
私の部屋に一番訪れる補佐のジャンは、随分と前にノックというものの存在を忘れてしまったようだから、絶対に違う。
時計を見れば、時間はもう夜の21時過ぎだった。
こんな時間に個人の部屋に訪れるのは、お喋りをしに来た友人か、仕事の用だとすれば急用だとしか思えない。
「はーい。どうぞ~。」
立ち上がった私は、旅行バッグをデスクの上に適当に乗せてから、扉の向こうにいる誰かに返事をした。
この間、ジャンが綺麗に片付けと掃除をしてくれた部屋は、とりあえず、まだ人が生活できる程度の状態には保ってある。
床の上やソファの上に少しだけ、洋服が散らばっているだけだ。
普段の部屋よりは、招き入れても、恥ずかしくはない。
部屋を見渡しながらそんなことを考えているうちに、扉がゆっくり開いた。
思いも寄らない訪ね人を見て、私は息をするのを忘れた。
「相変わらず、汚ぇ部屋だな。」
一歩足を踏み入れた途端、私の部屋を見渡して眉を顰めたのは、リヴァイ兵長だった。