非日常は人を少しだけ変える


ナルトは言い様のない恥ずかしさからじっとしていられなくなり、いきなりフッと人混みの方へ早足で歩き出した。

「……あっ、ナルト! 待て!」

ネジにより咄嗟に手を掴まれた。

「……あ、……離れるな、ナルト。迷子になるぞ」

ネジは自分の咄嗟の行動に驚き言葉を詰まらせたが、その後すぐ己の行動の訳を正当化するようにそれっぽい事を言ってみた。
ナルトを捕まえたのにも関わらず、離そうとはしない手。
ネジは今離したら二度と繋げないと思い、手を離す事はしなかった。


「……ネジ、手」

「……このままでいるぞ。この人混みじゃお前にうろちょろされると不安だ」

ネジはナルトから僅かに顔をそらした。
頬が少し赤くなってるように見えたのは夕日に照らされてるせいだけじゃない。

ナルトはうろちょろする気はないと反論しようとしたが、何故かネジとのこの距離が心地良く、手を離したくないと思ったので口を噤んで、反論の言葉を飲み込んだ。

「……わかったってばよ。オレも逸れるのは不安だしな」



恥ずかしさと妙な気まずさに苛まれながらも、どこか居心地の良さと、相手の手の熱さに心が和んだ。

「……ネジ、花火、皆で見終わったらさ、オレん家来いってばよ。……お前がよければだけどよ……」

「……ああ。行かせてもらうとしよう」

今のこの気持ちを忘れたくなくてまだ、この気持ちに浸っていたいと思い、ナルトの誘いを甘受した。
恐らくナルトも同じ気持ちだったから誘ったわけだが、ネジは知る由もない。



しばらくお互い無言で歩いていると、前方からリーとテンテンがやって来た。

「おーい! ネジ! ナルトくん!!」

「ちょっとー!! 探したんだから! どこ行ってたのよもう!」

駆け足で二人がこちらへやって来た。
テンテンは集合場所に戻った後ナルトとネジがいつまで経っても戻らないからリーと探していたという。

「……すまなかった。ちょっと、ナルトとの話に花が咲いて場所を移して話し込んでしまった」

「……まあ、いいけど。それよりそろそろ花火始まるわよ!」

テンテンは少し様子のおかしいネジをこれ以上咎める気にはならずあっさり赦した。


「花火楽しみですね!! あー、ボクもサクラさんと見たかったです……くっうー!!」

リーは悔しそうに拳を握り、滝のような涙を流した。



“ひゅるるるるるる……”


“ドーンッ!!”



大きな音と共に夜空に大輪の花火が咲き誇る。


「……うわー!! 綺麗ー!」

「美しいですね。夏もいよいよ終わりなんですよね……。切ないですね!」

「そうね~。あっ、あの花火ハート型だ!かわいいー!」

リーとテンテンは夜空の花に釘付けだ。


ナルトは夜空をじっと見た後、こっそり隣のネジの顔を盗み見た。
透き通った白い瞳が夜空に開き散る花をそのまま映し出していてキラキラと輝いていた。

ナルトは夜空を直に見ることを忘れ、瞳の花火に見惚れた。

「……綺麗だってばよ…」

「そうだな」

ネジはナルトの言葉に同意してナルトに顔を向けた。
夜空の方に向いているであろうナルトの顔が何故か此方に向いており少し驚く。


「……?」

「あっ……いや、花火綺麗だなって思って」

「そうか。……では此方を見てないで夜空を見たらどうだ」

気まずさを紛らわそうと、ナルトに夜空を見るよう勧めた。

「……言われなくても見るってばよ、折角の花火なんだからな」

「ああ」

大きな音に掻き消されそうな、二人の会話はすぐ側のリーとテンテンに気づかれることはなかった。




「はー……綺麗だったなあ。また来年もこうして皆で来ようね!」

「もちろんです! ナルトくんも来年もサクラさんに振られたら是非ボクたちと一緒に!」

「……だから振られてはねーってばよ。でもガイ班と一緒に来ることもあんまないから良かったってばよ!」

「……お前、オレよりガイ班に向いてそうだからな」

「……どういう意味だってばよ! ソレ!」

「あっははははは!」

テンテンは大きな声で笑い声をあげた。

「何言ってるんです!ネジ!キミはガイ班の一員なんですよ!向いてる向いてないじゃありませんよ!」

「……冗談だよ」

「……そろそろ帰ろっか。任務帰りで直行で来たからもうヘトヘト~」

「……そうですね。明日が休みで良かったですね!ボクは明日も修行がありますから早く帰って寝ることにします!」

「……ああ、今日は楽しかった。明後日任務だったよな」

「うん。じゃー、また明後日ね!」

「おやすみなさい! みなさん!」

「ゲジマユ、テンテン! 今日はありがとな! おやすみだってばよ!」

ナルトが両手で大きく手を振った。

二人の姿が小さくなって行くところまでナルトとネジは見届けた。
そして、ナルトはネジに向き直った。

「……ネジ。オレん家、案内するってばよ」

「あっ……ああ」

一気に、先ほどの気まずくも胸の熱くなる雰囲気に引き戻され、ネジは慌てて言葉を返した。




◇◇◇


ナルトは適度に古びたドアを開けた。
ギィ…と木の軋む音が心地良い。

「ちょっと散らかってるけど気にしないでくれってばよ」

「……ああ。お邪魔する」

部屋に入ったナルトはすぐ電気を点けた。
暗闇に慣れた目に光が入ったことで少し目を細めた。
少々散らかっているが、ネジは予想の範囲内だったらしく然程驚いた様子も呆れた様子もない。


「そこのベッドに腰掛けてていいってばよ」

ネジはシーツのシワを伸ばし、そこにそっと腰を下ろした。

「今冷たいお茶出すってばよ。あっ、そういやお前ら任務帰りで直行だったんだろ? シャワー浴びて来いってばよ。汗かいてるだろ」

「いや、悪いだろう。遠慮する」

「別に遠慮なんかしなくていいってばよ。オレってば、一人暮らしだし」

「……!」

ネジはナルトの何気なく発した一人暮らしという言葉に胸が詰まる。

「……そうか、ではお言葉に甘えてシャワーを借りるぞ。すまないが、着替えも用意してくれたら助かる」

「ああ! 今用意すっから。先入っとけ」

ネジは軽く頷き、ナルトの指が示した浴室の方に向かった。

ナルトとネジの身長差は結構ある。
背丈にあった着替えを探すのにナルトは手間取った。
唯一ネジの背丈に合いそうな服は、前にサイズを間違えて買った着流しだった。
ナルトはそれを持って脱衣所にそっと置いた。


しばらくしてシャワーを浴び終えたネジがナルトの着流しを着てリビングに出てきた。
いつもと違い下ろした長い黒髪を湿らせ、蒸し暑さに少し汗ばみ、風呂上りのため上気した頬のネジ。

その姿にナルトは目が釘付けになった。


「……お前ってば、髪下ろすと、結構雰囲気変わるんだな……」

「……そうか?」

「変わるってばよ。 一瞬誰かと思った」

「大袈裟だな。 ではまだ湿っているが結ぶか」

「いや、別にいいってば! そのままでいいってばよ!」

なぜかナルトは慌ててそれを阻止した。
ネジは冗談のつもりで言っていたのだが、ナルトの思いのほかの慌てっぷりに笑い声が漏れた。

「……ふっ、ふふっ……」


(……なんか、今日のネジといると調子狂うってばよ……。いつもより楽しそうだよなァ。どうしたんだろネジ。つってもオレもだいぶ変だけどよォ……)

笑い声を漏らすネジの姿をじっと見ながらナルトは心の中でぼやいたのだった。

「……じゃ、オレもちょっくらシャワー浴びてくっぜ」

「……ふっ、ははっ……ああ」

まだ笑ってるネジは、口元を引き上げながら返事をした。




ザァーっと勢いのある重たいシャワーの水音が浴室に反響する。
ナルトはネジの珍しい笑顔が瞼に焼き付いて離れないのを、掻き消す為頭をガシャガシャと荒っぽく洗ったあとそんな情景を洗い流すかのように泡を流した。


(…なんか落ち着かねェってばよ……)



────

「……ナルト、案外長かったな。お邪魔させてもらって悪いんだが……今夜は夜通しで語りたかったが、今週任務続きだったから少し疲れてるみたいだ。予備の布団とかあったら貸してくれないか」

「……あー、オレってば予備の布団なんか持ってないってばよ。眠いならそのベッド使っていいってばよ」

「……だが、お前はどこで寝るつもりだ」

「……んー、オレってば、なんか今日眠れそうにないから。遠慮せず使えってばよ」


するとネジは心配そうな顔に変わりナルトの顔を伺い尋ねた。

「……大丈夫か?」

「…………なあ、ネジ。お前の方こそ今日は変だよな。大丈夫なのか?」

「……! オレが変なのは……、きっと祭りのせいだ。 ああいう非日常な雰囲気は人を変えることもあるだろう…」

ナルトは何故か妙に納得し、自分もきっと祭りのせいだと思うと心がすっと軽くなった気がした。
それと同時に眠気も襲ってきた。

「……あー、やっぱオレも眠いってばよ。なあ、一緒に寝ようぜ!」

「はぁ!? ……何を言ってるんだ。お前は。 この狭いベッドで男二人なんて窮屈だ」

「いいじゃんよォ! ほら、奥つめろってばよ!」

ナルトは強引にネジの体を押し、奥に寄せた。


「ちょっ……なにするっ! 正気かナルト!」

「一緒に寝るぐらいでなにそんな慌ててるんだってばよ」

「一緒に寝るぐらいって……! はぁ、それもそうだな……。どうかしてた」

ネジは自分の慌てっぷりに気づき、平静を取り戻す。
そして自ら奥に行くとベッドのスペースを開けた。
ナルトは電気を消して、そのスペースに体を入れた。



「……なんか暑いな」

「いや、最近は朝晩は冷えてるってばよ」

「朝晩は冷えてるとはいえ、やはり密着して寝ていれば暑い……」

「……黙って寝ろってばよ。眠いんじゃなかったのかよ」

「……はぁ。眠い。寝るぞ。おやすみ」

「おやすみ……」



布団の中でネジの手がナルトの手に触れた。
その手は力が入っていて、少しだけ汗ばんでいた。
ナルトはこの状況がむずかゆくて、ヤケクソに思いっきり手を握り返した。
その瞬間、隣から微かに聴こえる心臓の音が速くなった気がした。




(寝られない……)


──── 二人は心で同じ事をぼやいたのだった。




THE END





ナルネジ未満。
恋の始まりを自覚してるようなしてないような。

この話、本当はこの後の朝とかも考えてたけど収集つかなくなってこの辺で切りました笑

どこまで行かせるか悩んだんですよね。
キスまで行かせたいと思ったけど、そこまでやると短編にならなそうなので、手繋ぎで収めました。





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