THE ONE - i promise love of the eternity




立派な門構え────

日向宗家の屋敷に赴いた二人は、いよいよだという緊張が現実のものとなる。
ナルトの手を掴んでいたネジの手に力が篭もった。

「……その、宗家の一番偉い人っての、ヒナタの父ちゃんだろ? そこまで緊張するこたァねーだろ」

「……オレにとっては、叔父に当たるが、やはり一般的な親戚同士という間柄ではないんだ…」

「ところでよ、オレは何すりゃいいんだってばよ」

「お前には、何もせず、ただ隣に居てほしい。第三者が居た方が話がスムーズに行くかもしれない……というのもあるが、居てくれたら…心強いんだ」

ナルトは、ぐっ、とネジの手を握り返した。
すると、ネジの目に光が宿り、面持ちが自信を取り戻したようになる。
深呼吸を何度かしてから、ネジはナルトの手を引いて門を潜った。




◇◇◇


ネジは慣れた足取りで、歩を進める。
そうして、広い屋敷の中を辿り着いた宗主の部屋。

大丈夫、きっと分かってくれる。
曲がりなりにも、優しかった父の兄であり、己の叔父なのだ。
そう心のなかで繰返した。

「……ヒアシ様。ネジです。少しよろしいでしょうか」

「……先程からそこにおったようだが、どうしたというのだ。とにかく入れ……」

「失礼します……」

戸を引くと、ヒアシは姿勢良く座ったまま入ってきた二人を一瞥したあと、目の前に座るよう促した。

「ネジよ、隣の者は……確かお前とかつて対戦した相手であったな」

「はい。私の後輩に当たる、うずまきナルトです」

「あ、ああ。そうだってばよ…。突然お邪魔してすみませんだってばよ……!」

ヒアシは、ナルトのぎごちない言葉遣いを咎めるでもなく、そうか、と頷くとネジへと向き直った。
緊張した面持ちの二人を前にヒアシは怪訝に思うが、それは顔には出さない。

「それで、何用なのだ?」

「………私の、縁談についてです」

「……知っておったのか」

「はい……。無礼を承知で、たまたま通りすがりに先代当主とヒアシ様が話しているのを立ち聞きしてしまいました……」

「それはよい。何れにしても本人に話さなければならぬ」

「それで、……その。縁談の話は、丁重にお断りいただきたく存じます」

ネジの丁寧な言葉遣いから出た声色は固く重かった。

ヒアシにとって、ネジのその言葉はある意味想定内であった。
自身の時代は結婚する年齢も今より早かったし、何より血が重要な家系ゆえ、その覚悟を持つのも自ずと早かった。
先代当主の時代なら尚更その傾向は顕著であっただろう。
だが、自身の立場に置き換えてみても、やはり十代で結婚を考えた事は無かったため、ネジの言葉にさほど驚きはしなかった。

「確かに、早いとは思ったが、向こうのご息女は大層お前を気に入っているらしくてな……。向こうは結婚適齢期で、なるべく早くの婚姻を望んでいるようなのだ…。将来、子を成すのなら、尚更」

ネジは、自身を好いてくれる相手であったことには少しだけ感謝をした。
本当にただの政略結婚であったかもしれないからだ。
まだ見ぬその女性に心で詫びつつ、ネジは静かに口を開いた。

「ヒアシ様……。大変、私事で申し上げにくいのですが、実は私には……心に決めた人がいます。生涯どの女性とも共になる気はありません」

「確かに、お前にはまだ早いとは申したが、生涯を語るには早急過ぎるのでないか……。何も今でなくとも良いが、今後、良い縁があるやも知れぬ。その心に決めた人ととやらは、今、付き合いはあるのか?」

「いえ……。付き合う事はございません。今後も無いかと思われます。しかし、だからと言って他の誰かと一緒になる気はありません」

(今後どれだけ良い人がオレの前に現れようと、ナルト以上に愛せる人などいない。それはたぶん、死ぬまで変わらない)


ヒアシは、これは予想の範囲外であった。
ネジは、そういった事に関心があるように見えなかったからだ。
特にこれまで浮ついた話も聞いたことがないし、それについては安心していたのだ。

だが、ネジの眼は真剣そのものであった。
付き合いもない相手の事を心に誓い、生涯を通し他の誰とも添い遂げるつもりがないことを若干十七歳の青年がはっきりと口にしたのだ。

ヒアシは、さすがにこれには馬鹿げていると思った。



「その結婚ってのは、どうしてもやらなきゃいけないもんなのかよ…。古い慣習に囚われてやるだけならお願いだからやめてくれってばよ……」

「いまどき好きでもないやつと、しかも十代で結婚なんて古ィってばよ……! それに、ネジにはネジの人生があって、ネジにはネジの大切な人がいるんだってばよ……分かってやってくれってばよ……」

固唾を呑んでこれまでのやり取りを見守っていたナルトはついに、耐えきれずに口を開き、嘆いた。

そして、ナルトは、頭を床に着いた。
ネジは、悲痛な面持ちを覗かせて頭を下げるナルトを横で見て、驚きの余り目を丸くした。
なぜナルトのことを、あの時、少しでも軽んじることができたのか。自分を恥じた。
自分のために頭を下げてくれるナルトの覚悟を目の当たりにして、ナルトが言った通りやはり自分はバカだったことに気づく。

そして、ネジも同じく床に深々と頭を着いたのだった。

「……ヒアシ様。どうか、お願いします……」

「…………」

ヒアシは、二人の頭を下げる様子を見て、ネジの結婚はある意味、本当に早急すぎたと思うのだった。

ネジは自分の人生のことでいっぱいいっぱいで、正直、まだ本当に子供であったと思った。
見た目と普段の言動以上に子供であったと。
それもあるが、それよりもナルトの指摘したどうり、やはり古くからの慣習に囚われていた部分もあると思い直した。



「二人よ、顔を上げよ。ネジの結婚は無かったことにしよう。すまぬな、ネジよ…………」







◇◇◇


ナルトとネジが、ヒアシより許しを得て部屋を出てから数刻後。
すっかり空は夕暮れに染まっており、日向宗家の屋敷を後にした二人は今、湖が見える橋にて並んで黄昏ていた。
その顔は穏やかであり、楽しげなものでもあった。


「オレが火影になってから、お前ともなんとかして家族になるッ!それまで待っとけってばよ!」

「…それは………、プロポーズ、ということか…?」

「へ? あー、え、うん? ……うーん………」

「そういえば、昔もお前は…オレに…、日向を変えてやるって言ってたな……。それも聞きようによっては、プロポーズに聞こえるな……?」

顎に手をつき、うなり声をあげ、困った様子のナルト。
ネジはしたり顔で笑うが、観衆の前での大胆な “プロポーズ” を思い出したせいか、自分で話題に出したのにも関わらず少し照れていた。

「あー、まあ、あれはその、お前があんまりにも、めそめそしてたもんだからよ、喝入れてやろうっていうか勢いでつい、な…」

ナルトも釣られて照れたように苦笑いをすると、頬を人差し指でポリポリと掻く。
そろり、と青い眼は視線をネジに向けてみると、その顔は何を言うでもなく、ただ淡く白い眼を細めたまま朗らかな笑みを浮かべている。

“プロポーズ” はただのネジのからかいであり、あの時のナルトの発言の真意をネジはきちんと汲み取ってくれていたらしい。
それが、またいじらしいとナルトは感じた。

だって、コイツは自分で運命を変えていける男だから。
救いの言葉に甘んじることなく、自分で日向を変えていくのだとナルトはネジの真の強さを信じていた。
だから、余計に手を差し伸べたくなった。

この数日でネジをさらに深く知った。

相変わらずの強情さと無視などできぬ程に分かりやすく滲ませる激情、それらが相反する不安定さ。
本気で真っ向からぶつかり合えば素直なところ。
心を決めた時、ネジは潔くかっこいい。
そしてなにより、ネジは己を認めてくれている。

ネジの狡さと汚さ、高潔さ。
嫌いなところも、好きなところも全て、知った。

ネジは己を必要としているのだと、ナルトはぶつけ合った肌で、心で思い知った。


(やっぱり、二人で変えてやろうぜ。日向をよォ……)

ナルトは、袖に隠れるネジの左手を取った。
渡せるものなんて、何も無い。
三年前と同じく、未だ口約束しかできない。
ナルトは自身の小指でネジの小指を絡め取ると、そのまま自身の薬指で、ネジの薬指も一緒に絡めた。

「……まあ、そういう事にしといてやるってばよッ」

ネジは驚いて真珠のような瞳を丸くする────



◇◇◇

ナルトがいれば不可能など無いと思わせてくれる。
やはり自分にはナルトが必要だ。
三年前のあの時から、もはやナルト無しでは生きてこられなかったのだから。
ナルトがいなければあの薄暗い木々の陰で独り死んでいたかもしれない。
ナルトのいない人生などいまさら考えられない。

ナルトは、命を握られ、希望も無く、生きながらに死んでいた嘗ての自分を闇の中から救い出してくれた……。
この命でナルトのために生きて、ナルトのために戦い、願わくばナルトと一緒に生涯を終えたい。
それが叶わぬならせめてナルトより自分が先にナルトの幸せを見届けてから死にたい。
そして、死んでからもずっとそばに居たい。
はっきりと言える。
自分にとって、ナルトは運命の人である。

素直な心はそう叫んでいた。

誰かに決められた運命などでは無い。
己の本心がそう叫んでいるのだ。
これは自分自身で決断した運命なのだと。


どこまでも貪欲で、それでいて、やはり純愛でもあった。



しばらくの間、ナルトと結ばれた手元を見つめて、ナルトの言葉に耳傾けて、それを反芻したのち、身体中から湧き上がる歓喜。
ネジは初めて幸せを知ったのだった。

きっと、いま世界で一番幸せなのはネジかもしれない。



今も昔も、ただの口約束。
指輪なんてものは要らない。必要もない。
このナルトという男はやると決めたことはやる男で、彼の口約束は何にも変えがたく、揺るぎない誓いなのだから。

「……ああ」



──── 一生ついて行くと誓います。









happily ever after!



design






完結しました…!

話を書く時、その雰囲気とか、テンションを私が保っていられず、続き物なのに続き物として読めるのかどうか分かりませんがとりあえず完結しました!!
ほんと6年って……放置しすぎ!
ネタだけはぽんぽん浮ぶので、一応ネタストックはそこそこあるんです……。
私には短編連発して発散してるほうが性に合うと分かりました。

ナルトがヒアシ様に敬語使えないのはまだガキだからです。

クライマックスあたりに、「火影になってから婚姻制度を変えて、そんでお前とも結婚するから」ってナルトに当初の予定では言わせようとしたけど、やめました。
一応、原作ではナルトとネジの関係は従兄弟という形になるわけだし。そこを大事にしたいなあと。


#補足 時系列
episode. 3⇢4⇢5⇢1⇢2⇢6⇢7

最後までお読みいただいてありがとうございました!







7/7ページ