THE ONE - i promise love of the eternity


ネジは、今日もまた本戦試合に使われた会場を訪れていた。
彼の中で、ここはとても特別な場所であった。

タンタンタン、とこちらに登ってくる階段で響く足音が聞こえてきた。

試合も何も無いこんな日、こんな場所にわざわざ観客席に来るのはどんなやつなんだろう?
ネジは俯いたまま流れ落ちる涙も止まらぬ中、頭ではどこか冷静にそんなことを思った。
世界一不幸な気分で、一人泣いているのだから誰も来ないでほしかった。
つくづく、タイミングが悪い。
涙の膜で視界が歪むがそいつを一目、睨んでやろうと思った。
どうせこちらは俯いているし長い横髪で顔を見られることはないと思った。
完全に八つ当たりである。


「……やっぱり、ここにいたんだな」

聞き馴染みのある声に鼓膜が震え、咄嗟にそいつを見上げた。
“そいつ”の正体は、やはりナルトであった。
ナルトは、観客席に腰を下ろして頬を濡らしたままのネジをそこで立ったまま見下ろしていた。
突然の意外な来客に、ようやくネジの涙も止まる。
みっともない涙を拭い、一拍置いてからネジは口を開いた。

「……お前、なぜ、ここに…」

「………お前が、日向の事で嫌なことあったってのは気づいたんだ。でも、お前それ以上は言ってくんなかったしよ……。でも、お前はガイ班のメンバーには話してたんだな……結婚のこと」

「……お前があの二人にオレのことを尋ねに行ったのか?」

「ちげーよ…! お前、あんだけオレとヤッたってのに、オレにはあれ以上話さなかったんだから、ガイ班のヤツらにも話してないって思ったってばよッ…!! でも、あん時の、次の日にアイツらがオレん家に来て、それで知ったんだ……」

ナルトは、怒っていた。
それでいて、悲しそうにもしていた。
今のネジは、何においても中途半端で不安定だった。

心配かけたくない巻き込みたくないと言いながら、気づいて欲しくてナルトを求めて彷徨って──
これは、恐らく昔からの彼の癖だ。
運命は変えられないと盲信しながら運命を変えようと必死だった、心のどこかで救いを求めていたかつてのネジと同じだ。

────そして
忘れさせて欲しいと願いながら、裏腹に気づいて欲しくてナルトに懇願したというのに結局全てを曝け出すこともせず。
結果、ナルトを不安にさせた。


「………すまない、ナルト……」

「ゲジマユとテンテンに、ネジにはオレが必要だって言われたんだ、でもなんでか理由が分からなくってよ……」

「………」

「テンテンが、オレとお前の中忍試験のことを話してきたんだ。『ネジは、オレとの試合のこと、今でもずっと大切に思ってるみたいって。ネジにとって、オレが言ったあの言葉は、希望なんだ』って、言われてさ……」


それで、ナルトはここに来たというわけか。

ネジは、自分の中でナルトの存在が大きくなるにつれ、実際のナルトとの距離のギャップに苦しみ、それはネジ本人でさえ、気づいていなかった。
ナルトには、大切な人がいっぱいいる。
ナルトの救いを求めている人もいっぱいいる。
自分はその中の、ただの一人に過ぎない。
ナルトと自身の仲を信用していないわけではない。
当然、大切な仲間だと思っている。
しかし、自分はそれだけではなかった。


ネジが中途半端で不安定になったのは、ネジがナルトに対して一方的な駆け引きをしていたからなのかもしれない。
どこまで気にかけてくれるのか、確かめてみたかった。
しかし、どれだけそんな事をしても、結局は自分の中のナルトの存在の大きさと、実際のナルトの、己に対する存在価値の大きさは埋まらないのでは?
それが露呈してしまうことを恐れた。
だから言えなかったのかもしれない。

現に、テンテンに言われるまでネジとの試合のことなど、ナルト自身がした発言のことなどまるで頭には浮かばなかったようである。
穿った考え方であるとも思ったが、ネジは自嘲した。

「やはりな……。でも、もういいよ。大丈夫だ」

「なにが……?」

「お前がいなくとも、オレが日向をなんとか変える努力はする。……結婚がなんだ。もし相手が良い人なら愛すだけだ。それで結果、良い運命であったと言えるかもしれない。……お前が最初で最後、オレを抱いてくれたから、もう思い残すこともあるまい……」

ネジは早口で言葉を捲し立てながら、再び泣いていた。
頬には涙が滴るが、歪に、昔のネジのような笑い方をしていた。
それを見たナルトは瞬間的にネジの肩に強く掴みかかる。
気づいた時には怒声を発していた。

「ゲジマユが言ってた……!!『ネジは、どんどん先へ行ってしまう、自分が望まぬ方向へも行ってしまう。ネジはまだ完全には分かってないんだって。がむしゃらに前へ進もうとしすぎて、たまに暗闇に行きつこうとしている。オレは常にお前のそばにいるわけじゃないから、だからゲジマユがずっとお前の後ろを追いかけて一人にはさせないようにしてきてたって……!! でも、お前はどこか先へ行くオレの方ばかり見ているって…。気づいてましたか?』って、オレってば……、確かに忘れっぽい所あるし、色々とにかくあるけどよ、あん時の言葉は少なくとも嘘じゃねーってばよ!! 泣くくらいイヤなら将来じゃなくて、今!! 意地でも運命変えてみせろってばよ……!! このバーカッ!!!」

「……どうやってだ?」

「逆に聞くけどよ、なんで変えられないって思うんだってばよ……。だって、まだ決定したワケじゃねーんだろ?」

「しきたり、家と家のこともあるんだ……。分家のオレが口出しできることではない。決定した意向に従うまでのこと」

「お前の!! お前の気持ちはどーなんだってばよ!! お前の本当に好きなヤツは誰だってばよ!! 自分に嘘をつくのかッ!? テメーはよォ!!!」


ネジは叱られているというのに、呆然としていた。


なんだ。

ナルトは、あの時から、少しも変わってないではないか。

恋は盲目とはよく言うが、まさにその通りだ。

数年前のこの場所で、『お前はオレと違って落ちこぼれなんかじゃない』と言ってくれた、あの時のナルトの言葉が全てだった。

たったそれだけ。

それだけの事を何度でも思い出しては心の中にナルトの存在を確かに強く感じられたからだ。

それで十分だったはずなのに。

それからしばらくして、二年半も会えずにいたからだろうか?
久しぶりに再会したときは、なんとも形容しがたい思いが溢れ返り、ただ一言、彼の名前しか言い出せなかった。

ネジには、知り得ないナルトがそこにはいたからだ。
少し遠くに感じたような気もしたのだが、
それでも好きだった。

恋は盲目とはよく言うが、まさにその通りだ。
自分の中で作り上げた、ナルトに恋焦がれた。
しかし、本当に好きなのはやはり……。
怒声を飛ばして真剣にぶつかってきてくれる、目の前の、このナルトなんだ。


ネジは叱られているのに、嬉しかった。



「……ナルトが好きだ。お陰で目が覚めたよ」

ネジは、なにも考えることなく、徐にナルトの手を掴んだ。
階段を駆け下り、ナルトを連れて試合会場を早足で後にした。
向かうは日向宗家の屋敷。


「おい、ネジッ!! どこ行くんだってばよッ」

「……運命、変えるんだろう? お前も火影になる予行演習だ……ついてこい…!!」

「……へっ、たく…、本当、その素直じゃない性格なんとかしろってばよ…!」

ナルトの手を引き、早足で歩くネジが振り返り答えると、漸くナルトは、ネジのお気に入りのいつもの笑顔になった。
そして、こういう、潔く、いざという時は逞しいネジのことは、ナルトもまた好きであった。






ひゃー!!!
続き書くの何年ぶり!? 6年ぶりぐらい???
めっっちゃ、お待たせしました!
待ってる方がいるのか謎ですが……
前から続き書きたいとは思いつつ、筆が乗らなかったのですが、突然、良いハッピーエンドが思いついたのでそれに向けて続き書こうかなと思った次第です。
次で最終回です!

ネジってナルトに「別にてめーだけが特別じゃねーんだってばよ」って言われてるだけあって、ネガティブ思考になるとき、悲劇のヒロインならぬ悲劇のヒーロー思考になりやすいのかなと思った。
※小説本文の『世界一不幸〜』云々

凡小なオレを〜ってネジは言うけど、凡小って平凡でなんの取り柄もなく、“器量が狭い” という意味みたいなので、悪く言えば、ネジは余裕ないとき、視野が狭くなって自分のことしか見えなくなるんじゃないかな、とも思います。

思考の癖みたいなものってなかなか簡単には直らないと思うし、何度も何度も正してもらってようやくその思考から脱却できるやり方が掴めてくるみたいな…。

だから中忍試験以降もネジにはナルトの説教が必要な時もたまにはあればいいなという……。
(ネジがたまに病んでないと、ナルトってネジに絡むことない気がするし、絡む理由がイマイチない)
まあでも、中忍試験で全てを乗り越えて人格者になってるネジも良いし、もうナルトに頼らずとも自立してるかもしれないというのも良い。







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