THE ONE - i promise love of the eternity


こうして時間に余裕があるときに三人で会うのは久しぶりだった。
昔より表情が柔らかくなったネジからは嬉しいというのがこちらにも伝わり、ますます嬉しくなった。

「このごろ任務立て続けでもう疲れちゃうわ……。家帰ってもなーんもやる気しなくてね~」

「無理はせず休めるときに休んだ方が良いぞ」

「ボクはいつでも元気全開ですよ! こうして三人集まると明日もまた頑張れます!!」

「そうね、なんだかやっぱりこのメンバーだと暑苦しいのに落ち着くなあ。私も明日も頑張らなくちゃ!」

「ふっ……、そうだな」

だが、その嬉しさには微かな哀しさが潜めていたことはガイ班だから気づけたことだった。

まるで上辺だけの会話だった。


ネジは昔から班で集まるときに一族のことについてを話題にすることは殆どない。
それでもナルトとの一戦以来ネジと一族との蟠りは少しずつ解消されてきたのは、ネジが変わっていったことによりこちらにも伝わっていた。
それが分かっていたから、こちらからわざわざ日向について特に話を振ることもなかった。
話を振ったとしても、今のネジはさらりと現状を穏やかに返してくれる。

昔のネジならば、ネジらしかぬ(もしかしたらそれも本当のネジの一面でもあるかもしれないが)感情的な部分を剥き出しにしていただろう。
初めての中忍試験、ヒナタ戦でのネジの感情的な部分。
あんなネジはその時まで見たことがなかったのだから。

ネジが変わったからわざわざ日向についてを聞く必要がなかったのと、あの時みたいな感情的になったネジの姿を見たくはなくて、刺激しない方が良い、腫れ物に触るような扱いでもあったのは事実だ。

もちろん、今ではネジがあんなに感情的になる事などないのは分かっているのだが、これは一種の軽いトラウマみたいなものなのだ。
もしかしたら、ネジが日向について話題を振られるのが嫌なのではなく、こちらの方がネジに話題を振ったあとの彼の反応を見るのが嫌なのかもしれない。


久しぶりに会ったネジは、やはり柔らかい表情でいるが、何かが違うのだ。
ネジの発する何気ない言葉ひとつひとつがまるで、大袈裟に言うと今生の別れとでもいうような陰と重さを孕んでいるようだった。
確かに忍なのだからいつだって今生の別れである覚悟は、特に上忍になった今のネジはなおさらあるのかもしれないが、そういう類のものではないはず。
ネジはむやみに死を考える人じゃないことは知っていたからだ。
悲観的な昔から、前向きな今ではなおさら生には執着しているであろう。
だからそれについてはあまり心配はしていないのだ。
それになぜならネジは強い。




不自然な間が空き、ネジが纏う空気感が張り詰めた。
ネジの足取りが止まった。
つられて、リーとテンテンもワンテンポ遅れて足を止める。

「ネジ……? どうしたんですか?」

白々しく、何も分かっていないフリをして当然の疑問を投げ掛ける。

「……いや、なんでもない」

これについては、まだきちんと自分に下されていない話だ。
己の名前を話に出されて、それをたまたま外から聞いてしまっただけのものなのだ。
事実ではあることだが、はっきりと自分に下されてもいない話を、わざわざもう既に決定した話のことのように二人に告白する必要はまだないとネジは判断した。
いずれは、言わなくてはいけない気もするが、まだ何も決まっていない。
勝手に話は進められていくかもしれないが、自分が具体的にどうするのか何も決まっていないのに二人に話してどうするというのか。
単純に言い出せないだけというのもあるが。



「リー、テンテン。 ……、っ……」

名前を呼ばれて二人はネジの言葉を待った。
なかなか発せられない次の言葉に胸がざわつくのを抑えた。
眉を顰めながら、何度か深く短い息を吸って言葉を紡ごうとしているネジを眺めながら、しかし言ってくれないことには二人は何も出来ない。

「きっといつかはそうしなければいけないと、漠然と考えてはいたことなんだが……まさかこんな早くに突きつけられることになるとはな」

まるで独り言のように言葉を紡ぎ出したネジを眺めて、つかみ所のない話を一語一句聞き漏らさぬよう耳を傾ける。

「どこまで話が進んでいるのか、オレ自身に命を下されたわけではまだないからなんとも言えんが、実は縁談の話が浮上しているんだ」

「え……縁談……? まだネジ、十七歳なのに?」

「早いうちから決めて、そしてすぐ十八になれば結婚させることが出来るとでも考えているのだろう」

「そんな……、だからって早すぎなんじゃない……? ネジは嫌なの?」

「嫌というか、オレはその話を呑んではいけないような気がするだけだ。あいつに、日向を変えてやると言われてしまったからな」

テンテンは、一瞬何のことか分からずに頭に疑問符を浮かべたが、ネジの俯き加減の顔に浮かぶ何とも言い難い笑みを見て、すぐに記憶が結び付けられた。

中忍試験本戦。戦いのクライマックス。

激しいチャクラとチャクラのぶつかり合いの中で、観客席にまで聞こえるほどの大きなナルトの声を思い出した。
もしかしてあの時、ネジに言った言葉とはそれなのではないかとテンテンは、もう一度ネジの顔を窺い見た。
先ほどのあの笑みはもう消えていて、テンテンの瞳に映ったのはいつもの淡々としたネジの顔だった。

「ネジ……。 私達も何かしてあげられることがあったら何でもするわ。でも、ネジにはもっと必要な人がいるんじゃないの?」

「それは……、あまりしたくはないんだ。 本当はお前たち二人に言うのも抵抗があった。普段鈍いくせにリーがどうしたと白々しく訊いてきたから、なぜか言い出せてしまったが……」

「そう……」

リーはネジとテンテンのやりとりを拳をわなわなと震わせながら聞いていた。
下手な慰めも励ましも必要としていないのは解る。
今のネジに何がしてあげられるのか、考えていた。


ネジはいつもそうだ。
一人だけ先へと先へと進んでしまう。
本人が意図しない方向へとも進んでしまう。
追いかける側はただ悔しいと思い追いかければいいだけだが、果たしてネジは自分と周囲をどう思うのだろうか。
昔から天才だと周囲から一目置かれ、本人もそれを理解していたからだろうか、今も相変わらずどこか一歩引いた位置にいたりするというのに。
またも一歩どころか二歩も三歩も離れてしまうことにネジは悲しいと思うことがあるのではないか。
だから、先ほど大袈裟に今生の別れという雰囲気を醸し出していたのを感じ取れたのかもしれない。
今、ネジにしてやれるのはなるべくネジが等身大の自分でいられる場所になることなのではないか。
テンテンが言ったネジにはもっと必要な人がいるというのも、悔しいが頷けるのだ。
誰とは言わないが、また、その人がネジに何を言ってあげたのか知らないが、きっとその人がネジの心の陰りを晴れにしてやれるのだろう。

「……ネジ、その人ならネジから言わなくてもきっとなにか気づいてくれるんじゃないですか。いつも心を閉ざしていたキミがそんなに信頼を置ける人なのですから」

「リー……」

「ネジが先へと行ってしまってもボクは永遠にキミを追い続けますから。たまには振り返って一人じゃないことを確認してください」

「あいつを、本当はあまり巻き込みたくはないんだ。日向を変えると言ってくれたからと言って、自らこんなことであいつに助けを求めるようなことを本当はしたくない。それと、リー、テンテン。 ありがとう」


まだ曇ったままであろうネジの心を晴らすことはできていないが、ネジの心を再び照らしてくれる人を信じて、託し、去っていくネジを見送った。





リーと、テンテン視点からのネジです。
次回からはナルトとネジ中心に話が戻ります。






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