夢なんて



ああ……、何なんだよもう……。

気づかれないように静かに。
それでも、深いため息をついた。

本気ではないのだが、
当てつけのように食事をする手を止める。
胃がムカムカして食欲など失せてしまったのは本当だ。

せめて、食事どきでなければさりげなくその場から逃げられたのに。


くそ。長老。


否、このただの老いぼれは、オレたち分家をただの捨て駒だとしか思っていないようだ。
だったら、宗家の食事になんか誘うなよ。

ヒナタ様の退院祝いの席に、その原因を作ったオレを誘うのか。

なんのつもりだ。

嫌がらせなのか?


オレは本当にこの老いぼれの孫なんだろうか?

────冗談じゃない。

父上が、こんな奴と血が繋がっていることも信じられない。

本当は嫌だったのに、せめて場の雰囲気を悪くしないようにこちらも取り計らい和やかにしていたのに、この老いぼれと来たら……!

怒りを通り越してもはや悲しくなってくる。
目の奥がじん、と熱を持ってマズイと思った。
人間、怒りがピークに達すると涙が出そうになるんだな。

『宗家とのことで揉めるな』

あの時に言われた一方的な約束を思い出す。

落ち着け、と鼻で深く息を吸い込み深呼吸をする。
こんな情けない顔、見られたくなくて俯く。


……誰も、オレの味方はしてくれないのだな。

なぜ黙っているんだよ……?

ヒアシ様も、ヒナタ様も、──それからその妹も。
宗家の奴らはみんな、こうなのか?

所詮、オレは分家の人間だもんな。
お前らにとっては、呪印で支配して良いようにできる奴隷か。

そうだよな。

だから、父上だって殺されたのだろう。
奴隷の子は所詮は奴隷なのだから、どんな扱いをされても口答えをせず黙っていろ、そういうことか?

怒りと悲しみで、胃が食事を受け付けないどころか涙とともに吐き出しそうになる。

オレ一人が、現実を飲み込めば良いと。
悪者扱いには最早慣れているつもりだったが。
予選の時といい、こうも立て続けだとさすがにそろそろ堪えるな……。

オレには、誰も本当の自分・・・ネジを見てくれる奴なんて居ないのだから。
嫌いではないが先生も、チームの奴らだって……。

何が『天才』だよ。

そんなに『努力』する子は可愛いか?

そうだろうな……!

オレが、努力していないとでも?

ふざけるなよ……。

オレには自由など無くて夢を見ることも叶わないっていうのに、あいつには『努力は報われる』などと事ある毎に励ましては夢を見せるのだな。


せめて、誰か一人でもオレの味方がいてくれたら、こんな惨めな思いをしなくても済んだのだろうか……?

いつか……そんな人が、現れたらいいのにな。


不甲斐ない息子でごめんなさい、父上……!

でも、ずるい。
オレも、死んで自由になりたいよ……。

もう14歳だから、夢を見るなんてやめよう。
現実を見るんだ。
先生だって、宗家だって。
それをオレに望んでいるようだから。


とうとう我慢ならなくて食事の席を立った。

無礼だと思うなら勝手に思えばいい。

トイレに行くフリをしてそのまま今夜は戻らなかった。
何も言わない癖に、心配そうな顔を向けてきたヒナタ様にさえ癇に障ったんだ。



一カ月後────…


オレは、再び夢を見ることを選んだ。

彼の大きな心のような青空。
籠の鳥だって自由に空を飛んでみたい。

いつしかそう思うようになっていた。

白眼などよりも、その青い眼だけが
ただ一人、闇の中からオレを見つけてくれた。

救い出してくれた──

もう、惨めだなんて思わないさ。

オレの心には、常にナルトという強い味方がいるから。

こんな凡小なオレだが、どうか期待していてくれ。
試合には負けたけれど。

いつか絶対『本当の天才』になってみせるから。



父上、オレは今とても幸せです────






THE END







やさぐれ期の悲劇のヒロインなネジ書くのなんか好きなんだよなあ……!
拗れちゃってるの、かわいいしそれがあってのナルトに惹かれてからの吹っ切れ感が更にかわいいので!

本文内でネジがめっちゃ長老に苛立ってるの訳があって。

中忍試験後の病室でのヒアシの回想で出てくる長老、もしかしてヒアシヒザシの親なのかな? というのと。
もしそうならアニオリの『ネジ外伝』でのヒナタ攫われからの長老がネジに命に替えてでも白眼を取り戻せ、(何としてでも、だっけ?)というのから。
もう長老は日頃、何気ない言葉1つでも分家はそういう扱いをするっていうのが長年生きてきて染み付いてるのかなって……。
ネジが中忍試験であれだけ悲痛な訴えをしてヒアシ様さえ心を動かしたのに長老、お前は〜〜!!!!! って思ったから。

まあ長老がネジのおじいちゃんかどうかは分からないけど、もしそうなら人の心〜!!! ってなる……😭







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