願い事



「よォ! 偶然だなネジ!」

「…ああ……」

ネジもオレと同じだったようで少し驚いたように返事した。

もうすぐ、今年もあと三十分もすれば終わるという頃。
オレは神社に向かうところだった。
もう夜だけど、やっぱり大晦日ということもあっていつもより街は賑やかに見えた。
普段の夜の里といえば、この時間帯から早朝にかけては忍の者が任務のために往来するばかりで民間人は出歩くことは少ない。
たまに酔っ払いに遭遇することもあるにはあるけど。

一人、部屋の中でいるのが寂しくて夜の初詣に向かっていたら、偶然にもネジに出会した。

でもちょっとばかし、意外に思ったんだ。

「日向って、大晦日とか正月なんかは一族の行事を大事にしてそうだってばよ」

だから、「いいのかよ? こんな所に出歩いてて」という意味合いを込めてオレはそう言った。
ネジは、数秒ほど黙ってたけどすぐに口を開いた。

「……実は、今日は夕方から一族で集まっていたんだが、大人の人らは酒飲んで話に花を咲かせているし、少し居心地が悪くてな……。分家として場を切り盛りしたりやることも多々あって忙しかったのだが、やっとひと段落ついたんだ」

「…へえ……。大変だな、お前も」

「ああ。……明日もきっと忙しいと思う」

「大丈夫なのかよ?」

「……少しぐらい、いいだろう。オレ一人居なくなった程度で誰も気に留めやしない」

「ん? てことは、無断で出てきたのかよ?」

「ああ……。抜け出してきた」

意外に不真面目なところもあるネジに意外性を感じたけど、なんかそれも悪くねェってばよ。
ネジは普段から頭が固いから、たまにはいいんじゃねーのかなって思った。

「…では、またな。ナルト……」

そう言ってネジがほんの少しだけ笑ってオレを通り過ぎようとした。
オレはその瞬間、なぜかネジの手首を掴んでいた。

「…ナルト……?」

ネジが振り向いて、オレを困惑したように見る。
オレだって、分かんねーってばよ……。
つい、掴んでしまったこの手首は冷たい。
片手で握り込めるほどの、こいつの手首の細さに少し心がザワついた。

「あ、あのさ! 一緒に、お参り…しようってばよ」

ネジがなんとも言い難い表情をして押し黙っている。
…オレなんかに誘われてやっぱり嫌だったんかな。
疲れてるみてーだったし一人になりたかったかもしれねェ……。
つーか……顔、すっげー赤いってばよ。
寒いし、鼻の頭も耳も真っ赤になってら。


「…いいだろう……。いくぞ、ナルト……」

そう言ってネジはオレが掴んでいた手首を振りほどく。
そうして今度は宙に浮いたオレの手をネジの手のひらが、ぐっと握ってきた。

照れ隠しのように、ネジはオレに背を向け正面を向く。
歳上ぶりやがって…リードするかのようにして、オレの手を引きながら早足で神社に向かい始めた。

あまりにも意外な行動すぎてビックリした。

ひんやりした手は白くて、掌を酷使する柔拳使いだってのに傷一つなくて……柔らかかった。
それにも胸が変にザワついてしまった。

なんでかな。

こいつの変な “脆さ” を意識させられてるみてーだった。
そんな訳ねーのに。
ネジは、ホントに強えーんだ。
こいつは、すっげー天才だってオレが一番分かってんだからよ。



手と口を清めてから参拝の列に並んでいる間に、まわりがざわつきはじめた。

『年越しまで十秒前だぞ!』

『せーの、でジャンプな!!』

ニューイヤーをカウントダウンし始める奴まで出てきた。
そわそわしていて落ち着かない雰囲気に、オレたちも呑まれている。

ここにいるみんな。
そして里中が一体になっている気がする────

『八、七、六』と参拝客のみんなのカウントダウンの声が次第に大きくなり揃って、響き渡る。


五秒前!!

四……

三…

二…!

一!!





「……ナルト、あけましておめでとう」

「おう、おめでとだってばよ…!」


ついに年が明けた。

改めてこういう挨拶をするのは何となく照れくさい。
まさかネジと年越しをすることになるとは思わなかったってばよ。
一人よりか、全然いいや。

結構賑わっているから、なかなか列が進まない。
本当なら寒いから早く初詣を終わらして家でコタツでぬくぬくしたい。
温かいラーメン食って、温かいおしるこ食べて、テレビでも見たい。
そう思うのとは裏腹に、実はそんなに寒く感じねえ。
不思議なほど寒さが気にならないんだ。
新年を迎えた周りの興奮と熱気に充てられてるのもそうだけど……。

列を並ぶ間も、せっかちなオレなのにそれほど苦に感じられなかった。
こいつとの会話はあまりなくても。

ようやくオレたちの番が来た。

お賽銭をあげて、心の中で願い事、いっぱいした。
サスケが帰ってきますように、だとか。
火影になれますように、だとか。
サクラちゃんとデートしたい、だとか。
まあ神頼みじゃなくて、オレが自分の力で叶えるべき願いだけどさ。

そうして合わせていた手を下ろし、隣のネジを見た。
まだ、目を閉じて手を合わせていた。
何をそんなに祈ってるんだろう……?
やっぱり、日向が変わりますように、とかかな。
もし、そうならオレも手伝ってやんねーとな……。
ネジは、オレの協力なんか必要なさそうだけど。

でも、約束は約束だからな。


「…ナルト……。行こうか」

「おう……!」

離していた手を再び握ってくるネジに、オレはどう反応していいのか分からない。

……もしかして、オレってば、子供扱いされてんのか?

確かにオレからこいつの手首掴んだってばよ!?
でもさ、ネジはなんでオレの手ェ握ってくるんだってばよ!?
そう思うと、なんだかダサくて格好つかなくて、辛抱ならなくなった。

「ネジ、手ェ離せってばよ! オレってば別にはぐれたりしねーよ! 子供扱いすんなってばよ!」

「……それも、そうだな……。すまない」

そう言ってネジの手がそっと離れた。

いつもと変わんねーように見えるけど、ネジの白眼から少しだけ光が消えたように見えた。
なんだか陰がかかったみたいに。
目を伏せて、口をきゅっと結んで黙っている。
あああ……、なんでこいつ、こういう顔すんのかなァ……。

オレは、はぐれねーけど。
こいつがどっか行っちまうってことだって……!

ないとは、言いきれないだろ──

そう思って、オレは再びネジの手を握り返した。
さっきまでは冷たかったネジの手はすっかりオレの体温を分けたおかげか暖かくなっていた。

こんな所、誰かに見られたら恥ずかしすぎるってばよ……!



「ナルト……。お前は、何を願ったんだ?」

「え、……ナイショだってばよ」

「そうか……」

「お前は?」

「……オレも、“ナイショ” だ」

「はあ!? お前から聞いてきたんだろ〜!?」

「ふんっ、願い事なんて人にベラベラ喋るものでもない」

「じゃあ、聞くなっての…っ」



今年もよろしくな────



🎍お・ま・け🎍



「あっ、おみくじ引こうぜ!」
「そうだな」
「お! 大吉だってばよ!!」
「……」
「ネジは?」
「…もう一度引いてくる」
「そんなんアリかよ!?」


たとえおみくじの結果がよくなくても、
ナルトに出会えた事こそが、幸運なのだと思うネジでした…♥







A HAPPY NEW YEAR!









あけましておめでとうございます!!
旧年中は大変お世話になりました。

2023年はサイトに来ていただいて、♡たくさん押してもらえて、コメント頂けたりしてとても嬉しかったです!
今年もナルネジをいっぱい書ける1年にしたいです!
相変わらずマイペース更新なサイトですが今年もどうかよろしくお願い致します!


2024.01.01 ケー








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