おしえて



「回天ッ!!」

分身の術による複数人の自分に四方八方からクナイや手裏剣を打ってもらい、本体のネジはその中央で円運動をする。
辺りに木の葉が舞い、それがひらひらと落ちるころ地面にはクレーターができあがる。

ネジは、荒い息遣いで険しい顔をした。
分身の術を解き、腕を組みながら一人思案する。

「まだまだ……か。これでは、チャクラの密度が足りない」

早朝から修行をしていて、なかなか成果が上げられぬまま、もうじき昼になる。

ネジはため息をついた。
なにか、もうひとひねり欲しいのだ。
しかしその、“なにか” が思い浮かばない。

『おーーい!!!』

少し遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
トクン、とネジの胸が高鳴る。
相変わらずの元気の良い彼の声に頬が緩みそうになる。

修行により薄汚れた服を手ではたいて土埃を落とし、持参していたタオルで汗を拭ったところに、小走りでやってきた彼は「よっ!」と、右手を上げネジの前に現れた。

「…ナルトか……。どうした?」

こちらに来る様子を尻目にしながら身なりを整えていたことを悟られまいと、ネジは平静を装った。

「いやさ、向こうからお前が修行してんの見えたからよ」

「……そうか」

「……もしかして回天の練習か?」

「そうだが……、なぜ分かった?」

「だってよ、あんだけ地面にクレーターぼこぼこ作ってたら誰だって見りゃ分かるってばよ」

そう言って、ナルトは少し首を伸ばしてネジの背後に目を向け地面をマジマジと見る。
あたりには手裏剣やクナイが無数に散らばっていた。

「なるほどな。……確かにオレは今朝からずっと回天の修行をしていた」

「ずっと回天しかしてねーのか?」

「……ああ」

「ふーん……。なんでまた回天ばっか修行してたんだってばよ?」

「先日……、班の任務で敵と戦うことになってな。その時に、敵はオレのチャクラの回天を貫いて攻撃してきた。物理攻撃を弾くことに関しては自信があったのだが、どうやらオレの回天はまだ脆弱なのだと思った」

「へー。それで回天の修行ばっかしてたのか」

「要はチャクラ密度が足りないのは分かっているんだ。しかし何をどうすればそれを高めることが出来るのかがまだ分からなくてな……」

「あのさ、一回オレの前で回天やってみろってばよ」

「……? 別にいいが……」

ナルトに促され、ネジはナルトから少し距離を取り回天をして見せた。

「うーん……」

チャクラが一方向に高速回転し、綺麗な丸を作り出す。
一見すると綺麗な円運動に見える。
数回転したあと、ゆっくりと速度を落としながらチャクラが可視化出来なくなった中から髪を靡かせるネジが出てきた。

ひらひらと木の葉が舞い落ちる。


「どうだ……? 何か気づくことなどがあれば言ってくれ」

ナルトは顎に手をやり、唸りながら思案する。
眉根を寄せ目をつぶり、への字口にして考え込むその姿は真剣そのものだ。

「なんかさ、思うんだけどよ……」

「何だ?」

「オレの螺旋丸、見てみてくれってばよ」

そう言い、ナルトはネジの目の前で螺旋丸を作って見せた。
ネジはナルトの手の中の可視化出来るほどの高密度のチャクラをじっと見た。

「……凄いな」

「あのさ、なんかお前の回天とオレの螺旋丸、ちっとばかし似てるような気もするんだよなァ……」

「と、言うと……?」

「螺旋丸は手の中で小さくして圧縮して留めることで威力を高めてるんだってばよ。回天は、全身で回転するし、なんか螺旋丸の大きいバージョンとも言えるのかなーって……。あ、いや違うかもしんねーけどさ!!」

「……いや、ナルト。それは重要なヒントになるかもしれん」

「え、マジ?」

「ああ……! ナルト、もしよかったらオレに螺旋丸のコツを教えてくれないだろうか……」

ようやく道筋が見えてきたことにネジの目が心做しか輝く。
そんなネジに物珍しさを感じたナルトは、少し驚きもしたが気分が良かった。

あの・・、天才でクールな歳上の男が自分に教えを乞うのだ。
ナルトは、天才のネジに認められたような気がして嬉しくて、そして自分が教える側になることにほんの少し誇らしさを覚えてニンマリと笑った。

「しかたねーな〜!! そんなにお前が知りたいっていうんなら教えてやってもいいってばよー!!!」

ネジをからかうような素振りでナルトはニヤニヤと笑う。
少しだけムッと顰めっ面をするネジだが大人な対応を心がけ、なるべく下出に出る。

「……礼ならする。なにも、ずっと修行に付き合ってくれとは言わん。コツだけ教えてもらえればあとは自分でなんとか物にしてみせる」

「どーしよっかな〜」

「……だめか?」

ほんの少しだけ、ネジがしょんぼりしたように見えた。
からかいが過ぎたか、とナルトは慌てて取り繕った。

「いや、ダメじゃねーってばよ……! 修行付き合ってやるってばよ!!」

「本当か……!」

「ああ!」

「助かる……!」

話も早々に、早速伝授だと誇らしげなナルトは張り切って再び螺旋丸を作って見せた。
そうして、自身が自来也から教わったことをナルトなりにネジに教えていく。
ネジは、やはり天才と呼ばれるだけありチャクラの扱いに長けていた。
螺旋丸の特徴を白眼を駆使した目視で見抜き、コツを自分なりに解釈しながらナルトの教えに頷いていた。

それを応用した回天を完成させることを目標に、新たな修行プランが練られる。

そうして、昼過ぎを迎えた。

ネジは技を伝授してもらった礼だと、ナルトを連れて腹ごしらえのため一楽に来た。
ナルトのオススメだという豚骨味噌チャーシューラーメンをネジは注文し、そしてナルトにはトッピングを好きなだけ乗せてもいいと同じく豚骨味噌チャーシューラーメン大盛りを彼に奢った。


「今日は、世話になったな。ナルト……」

「あのさ! 乗り掛かった船だしよ、オレも任務がねーときはお前の最強の回天が完成するまで修行付き合ってやるってばよ!」

「いや、だがしかし……。お前にはお前のやるべき修行もあるだろう」

「いやさ、やっぱりお前ってばスゲー奴なんだって今日改めて分かったんだってばよ……。伊達に天才って言われてるわけじゃねーんだなってさ。だから、お前と修行したらオレも良い修行ができそうなんだってばよ」


それからだ。

このごろ、ネジとナルトは二人で修行をすることが日常になりつつあった。

ガイ班、特にリーからは「最近付き合い悪いですよ」と小言を吐かれるが、ネジにとってナルトとの修行は何にも変えがたく充実した、楽しい時間だった。
班での修行はいつでもできるが、他班のナルトとはそう時間が合うわけでもないので、ネジは時間の許す限りナルトと修行をしたかったのだ。
それに、もうすぐナルトは木ノ葉の里を離れて師と旅に出ると聞いているから尚更だった。


ナルトと居られる時間。
修行という目的でもあり、口実でもある。
タイムリミットは、最強の回天が完成するまで。

はやく技を完成させたいのは勿論なのだが、日々完成度が増すにつれナルトとの時間が減ってしまうことにネジは寂しさも感じた。

どうして、こんなにもナルトと居ると楽しいのだろうか。
なぜ、こんなに心が弾むような気分になるのか。
ナルトと居るといつも時間があっという間に過ぎてしまう。
夕方になって別れ際、また会えるというのにとても離れ難くなる。


また今日も────



「ナルト……。すっかり、ボロボロだな……」

「ああ……! 今日こそ完成に近かったもんな! すっげー疲れたってばよ……!」

「回天の練習に影分身が使えるお前は、やはりうってつけだ。助かっている。だが、チャクラ消費量も半端じゃないはずだ。あまり無理はするな……」

「へへっ…。オレってば、体力だけが取り柄みたいなもんだし、こんぐらいどーってことないってばよ!」

「……ならいいが。その、なんだ……、オレの家に宗家からいただいた惣菜がいっぱいあるんだが……、一人では食べきれん」

ネジがチラりとナルトを窺う。

「ん、と……、もしかしてオレも食べていーの?」

「ああ……。食べに、来ないか?」

「……お、おう! 食べる、食べるってばよ!!」

「そうか……。良かった……」

ネジは、ナルトの返事にふっと目を細めて笑う。
そうして二人は、すっかり暗くなる頃ネジの家へと帰路についた。





◇◇◇

裸の付き合い、なるものをする。
ネジはナルトと初めて二人で風呂に入ることになった。
キッカケはナルトで、せっかく近頃は共に修行してるのだし男同士仲良く風呂でも入ろうなどと切り出してきたのだ。

土埃で汚れた髪と体を洗い、二人して少し狭めの湯船に浸かりほっと一息……、するはずもなく。

「お前の、ちんこ……オレのよりデカいってばよ」

「……!?」

「つーか、お前ってば、結構男前なのに女の子からモテねーのが不思議なぐらいだってばよ。サスケみたいにキャーキャー言われてるの見たことねーし」

「……別に、誰彼構わず持て囃されたいわけではないからいいのだが……」

「お前ってさ、好きな奴だとかいねーの?」

「……いや」

「じゃあさ、過去にチューとか、したことあったりする……?」

「……いや」

「へ、…へー! オレってば! チューしそうな雰囲気になったことは、……あ、あるってばよー! この調子じゃあ、オレの方がお前よりはやく童貞卒業できそうだってばよ!」

ナルトは、いつぞやのあれ・・を思い出す。
ああ、サクラはサスケが本当に好きなのだと知った。

(オレは……サクラちゃんのこと……)

今のままでは、駄目なことだけはハッキリ分かっている。
サスケを連れ戻すまでは。


「……貞操観念はしっかり持つべきだぞ」

ふいにネジが口を開く。
心ここに在らずだったナルトは我に返った。
ふと、呪印がむき出しのネジの額に目が止まる。


(サクラちゃんもだけど、)

「お前も、デコ結構広め?」

「……そうか?」

「だって、ほら、オレそんなにデコ広くねーってばよ」

そう言ってナルトは、自身の前髪を掻き上げた。
たしかに、そんなに広くはない至って普通だとネジは思う。
ナルトはネジの額に手のひらを当てて「うん、やっぱり」などと一人で納得している。

「…ナルト……」

「……なに?」

「……こういう、雰囲気だった…のか? その時というのは……」

「へ……?」

じっとり、と変な汗が吹き出てくる。
熱いお風呂に浸かっているからではないのは明白。
心臓がドキドキしている。

「……ちがうのか?」

「たぶん……」

ナルトは確かにこの頃、ネジに教えを施す側だった。
それが、今この時でさえもそうだというのか。

ネジの視線がなんだか、溶けそうなほど熱くみえた。
顔だって火照り、赤い。
長い黒髪をまとめあげているが、項から後れ毛が濡れて張り付き、同じように横髪も頬から肩にかかる。
悩ましげに眉を寄せるその姿に、教えを乞うているのだとそう思わざるを得なかった。

都合のいい、男のサガかもしれない。

でも、だったらなぜあの・・ネジがこんな顔をしているのか分からないではないか。

ナルトは、ネジの額からずるりと湯に濡れた手を離した。


「こうだってばよ……」

そして、そのまま唇をそこに寄せた。

「……っ、」


ネジは反射的に目をぎゅっと瞑る。
ナルトの唇が触れたところから、ふわっと頭が真っ白になり身震いする感覚が走った。
じんわり、と痺れたように頭がぼーっとして時間の感覚が分からなかった。
気づけば唇が額からそっと離れていて、ネジは何も言えなかった。

何が起こったか理解してから、ようやく心臓が飛び出そうなほどバクバクしていることを認識する。


「…あ、っ…、いっ、一瞬すぎて……分からなかった……」

「…っ、え、……うん」

「…もう一回…してくれないか…? 分からない、から……」


湯船の中で、生の肌と肌とが密着する二人の周りを揺れる波紋が繋いでいる。

歳上と歳下から、教えられる側と教える側になっていた今日この頃。
ナルトから教わる様々なことに日々ネジの心は知らない感情を覚え、ときめきを知り、満たされていた。


また明日も修行を頑張ろう。
そう思った。




THE END









ナルネジのデコチューは何度でも書きたくなる!!
サクラちゃんのおでこも可愛いけど、ネジのおでこも呪印あるけど(あるから)かわいいんだよ!!!
ナルトはネジのおでこに呪印があるからこそネジの顔をちゃんと見てくれるよね🥰






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