「……二人とも、よく聞いてほしい」

夕方になっていつもの場所に集合をかけられた二人。
ネジとテンテンはそこにあるベンチに腰をかけ、目の前で神妙な面持ちをした先生を見上げる。
いつになく険しい顔をする担当上忍に二人は胸がざわつく。
おおよその検討はついた。
今、この第三班に起こっている問題とはただひとつ。

「今日、綱手様がリーを診てくださった」

「どうだったの……?」

テンテンが不安そうにガイに問いかけるのをネジも同じ気持ちで横目に見る。

「手術成功の確率は五分五分だそうだ。だがしかしな……失敗したときのリスクがかなり大きいようだ」

「……と、言うと?」

若干ぼかした物言いのガイを訝しげに睨み、ネジは詳細を促す。

「ああ……。失敗すれば、死ぬそうだ……」

「そんなっぁ……!!」

テンテンが思わずベンチから立ち上がり悲痛な面持ちで叫んだ。
彼女の栗色の目は潤みきっており今にも泣き出しそうである。

「だって…リーは……今までずっと誰より頑張ってきてたのに……っ、私、リーがいたから…頑張れたのに……っ、リー……りぃ……」

テンテンはついに右腕で両目を覆ってしまった。
声が震えている。
ガイはその大きな手で、彼女の左肩を優しくたたいた。
そして濃い顔の先生は笑ってみせた。

「なあーに。リーはオレがいるかぎり死にはせん!! 泣くな、泣くなテンテン!! 」


そんな二人の様子を尻目にしていた彼。

ネジは、ただ言葉が出てこなかった。
わずかに眉を寄せて、彼の極端に色素の薄い瞳は陰った。
怒りのような、失望したかのような、不安そうにも思える表情はとまどい困惑を隠しきれていなかった。

手術を受けなければ。
忍として生きていくことをやめられるのならば、なにも死ぬことなどないのだ。
それなのに、さも死んでしまうのが決定したかのように泣くのは、悲しくなるのは、不安なのは、きっとリーが忍として生きていくことを辞める気が無いことをネジたちは重々知っていたからだ。


そして、やはりガイは迷うリーに手術を受けることを勧めた。





◇◇◇


薬品の匂いと誰かが花瓶に挿していった一輪の白い水仙。
傍らの丸椅子に腰をかけ、ネジは白いシーツに眠る少しやつれたリーを見た。

「……また、勝手に病室を出て修行でもしてたのかお前は……」

ため息混じりにぽつりと呟く。

運命とは結局のところ抗おうが行き着く先は同じなのだろうか。
もしそうだとするなら、抗おうと精一杯頑張ったリーはもう十分すぎるほど頑張ったのではないか。

かつてのネジなら間違いなく、“もう楽になれ” とリーに忍の道を諦めさせて命を選ぶ方を勧めただろう。
だが、今のネジにはそう言ってやれるほど己の信念に自信など到底無く、かといって無責任に “手術は成功するよ” などとも言えなかった。


ネジ自身、まだ手探りで生きているようなものなのだから。


「おっじゃっましまーす!!」

廊下からガラッと音を立て勢いよく引き戸が開いた。

「ゲジマユ〜、元気かあ〜? ……ってあれ? 寝てんじゃん」

突然現れた金髪頭を見てネジは目を丸くした。


「っ…、ナルト……」


いつも、何時も。いつもそうだ。
試合に負けてからというもの事ある事に、何なら今先程までだって、脳裏に浮かぶのは うずまきナルト だった。

勢いよく病室に入ってきたナルトは目的の人物が寝ていることを認識してから、ようやく傍らの存在に目を向けた。

「ん? あれ、お前も見舞いなのか?」

「ああ、まあな」

「へえ〜……。 意外と良いとこあんだなお前も」

ナルトは物珍しそうにネジの顔をまじまじと見た。
彼は未だ、ネジのことがあまり好きでは無いらしい。
特に嫌いでもないのだが。

病室に入ってきてから手に提げたままだったフルーツバスケットを花瓶の横に置き、生返事を返すナルトはネジの近くに歩み寄った。

「時折、見舞いがてら肩を貸してリーと近所を散歩をしている。修行はできんが、このぐらいは問題ないそうだからな」

「そっか。あのさ…綱手のばあちゃんに診てもらったんだよな?」

「ああ」

「なんて言ってたんだってばよ」

「……手術成功の確率は半々だと言っていた」

「半々か……。でもよ、綱手ばあちゃんってばスッゲー医療のスペシャリストらしいからさ!! 大丈夫だってばよ!!」

「……そうです、大丈夫です」

先程まで眠っていたはずのリーが視線をこちらに向けている。
困ったように笑っていた。

「ゲジマユ、お前…具合大丈夫なのか?」

「はい…。それより、ネジ。最近ずっと僕の散歩に付き合ってくれたりしてたのはそういう事だったんですか」

リーはナルトに目をくれて返事をしたのもつかの間、今度はネジの目をはっきりと見て、そう言った。

「……何がだ」

「ネジも不安だったんでしょう? だから毎日、毎日」

ネジはバツが悪そうに目を逸らす。
言い返す言葉もないほど図星だからだ。
ナルトはリーの言葉に思わずきょとんとしてネジの顔を見た。
そしてハッとする。


「…不安だ……」

澄ました顔をしたネジはもうそこにはいなかった。
ナルトはただただネジを見た。

「ガイ先生は、運命に負けない人です。幸運を呼び寄せるすべをたくさん教えてもらいましたから。ボクにはガイ先生がついていますから! 何も恐れることはありません……!!」

リーがたくさん悩んでいたのはネジも見てきた。
ガイが何を言ったのかは知らないが、そうまでしてガイを信じ抜くリーを、ネジは自分のあやふやな運命論で否定することなどもはや不可能だった。

生きてほしい、と思っていてもリーにとっては諦めることこそ死と同じことなのだろう。
理屈などではなく、それがリーの生きる目的なのだろう。

リーは確かに、力強く言った。
不安げなネジを見据えてまっすぐと。

「あのさ、ネジ。ゲジマユの手術はぜってェ成功する。オレが保証するってばよ」

リーは、神妙な面持ちでネジを見てそう言うナルトの口振りに興味が湧いた。
真っ黒の瞳が今度はナルトへと移る。

「綱手のばあちゃんがスッゲー医療忍者なの、オレちゃんとこの目で見たんだってばよ」

なにせ、綱手を再び木ノ葉の里に舞い戻らせたのは他でもないナルトなのだから。
その言葉には確固たる自信があった。

「……オレが言ったことでもまだ信じられねーか?」

「ナルト……」

「もし、万が一失敗するようなことがあれば、そん時は綱手のばーちゃんを木ノ葉に呼び戻したこのオレを恨めばいいってばよ」

“ 誰が、恨むものか。お前を。

そうだ。
リーがガイ先生を信じるというのならばオレは、オレを救い出してくれたナルトを信じればいい。
運命は変えられると証明してくれたナルトを信じないなどオレの選択肢の中にあるはずもなかった ”


「……リー、手術の成功を祈る」

「……ハイ!」

「それから……、今後も散歩には付き合うつもりだ。不安だからとかではなく……班員として、」

「ライバルとして、認めてもらうまではこのまま終わるわけには行きませんから!」

ネジは、ようやく笑いリーはナイスガイポーズでそれに応えた。

「そうだってばよ! オレがコイツを倒したんだからゲジマユ! お前も絶対ェ負けんなよ!!」


そう言って両手で力強くリーとネジの肩を組んだナルトも真ん中で笑った。




THE END








カプ要素薄めの話。
お互い信じる相手は違っても運命と戦っている。
ネジはナルトという信じる相手が出来たことで初めて、リーがガイ先生を慕う理由も以前に比べて遥かに理解することが出来た気がする。

話が脱線するから書いてませんが泣きっぱなしのテンテンが可哀想なので、この後日ちゃんと彼女はリーのお見舞いにきて話しています(そういうことにしておいてください……!!)

追記: 231209
水仙と睡蓮思いっきり間違えてたよ!
読み返して今更気づいた!
恥ずかしい〜!!
名前の響きが似てるもんでうっかり…😂
花持ってきてくれたのにサクラちゃんごめんね😭






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