遺書とともに



“今、これを読んでいるということは私は死んだということでしょう。”



合同葬儀が終わった翌日の昼。

ナルトは生前のネジが暮らしていた少し古びたアパートの一室にいた。

ややこじんまりとした部屋は殺風景ではあるが、陽の光がガラス越しにやわらかく差し込む。

ナルトはてっきり、親を早くに亡くしているネジはヒナタ達宗家と一緒に暮らしているものと何となく思い込んでいたのだが、実際にはネジが下忍になって少し経ってからは独りで暮らしていたそうだ。

陽に暖められた木枠に手をかけ、鍵を外す。
大きな外開きの窓を開け放ち、淀んだ空気を追い出す。
オフホワイトに光を映したカーテンがふわりといっそう強い風に揺れた。
暖かさを保ったままの室内に涼やかな風が吹き込む。
微かに金木犀の香りを感じた。

それに合わせてナルトの左手の中にある数枚の紙もカサっと軽い音をたて、ひらひらと揺れる。



それらは全てネジの遺書だ。


ただし、数枚に渡って書かれたそれは一つの遺書として書かれたものではなく、数年おきに新しく書かれていたものの集まりだ。

躊躇いはあったが、ネジの意志を見て見ぬふりすることなど到底ナルトには出来ないことであった。
あの時、自分に誓ったからだ。
本当のネジをここに置いておくのだと。

どういう思いで生きていたのか、今更だろうが知りたかった。



◇◇◇



一枚目は、ネジにしてはやや稚拙な文章で書かれたものでアカデミー在学中に書いたと思わせる内容だった。

二枚目は、下忍になってしばらくしてからだと思われる。

三枚目は、中忍試験前。
中忍試験は、その試験カリキュラムの過酷さから死人が出るのもありえた。
だから、その過酷さを耳にしていて試験に臨むものは遺書を書くことはそう珍しいことでもなかったようだ。
そういう習慣が中忍試験を臨む忍の中でわりとよくあることだというのは後々に知ったことであり、当時のナルト達ルーキーは、そんなことはまだまだ知らなかった。

四枚目は、ナルトが自来也と修行の旅に出てからしばらく経った頃だと思われる。

五枚目は、上忍になってそれなりに経った頃だろう。


どれもこれも全てナルトの推測でしかない。
いつ書かれたものか、ネジの人生を全て見てきたわけでないナルトには分からない部分の方が多かった。

しかし、危険で過酷な任務を請け負うことが増える上忍のころより、アカデミーや下忍のころの時期の方が遺書の枚数が多いのが、当時のネジの心境を物語っているようだとナルトは思った。

また、遺書とは言うが、その内容のほとんどが個人的な心情ばかりが占めていた。
まるで書いた本人の心の内を覗き見ているかのような生々しさをナルトは覚えた。

“死” に希望を見出していた、あの頃のネジ。
遺書を書くことで、実際に死ぬわけでなくとも死を想像して自由を想い描いたのだろうか。

ネジは理想の死に方を追い求めていたのだろうか?

ナルトは今、
小さな部屋でただ一人、日向ネジを追憶していた。




THE END







ネジは子供の頃から死を自由だと思ってたと思うので、積極的に死に急ぐこと まで はせずとも、死ぬ想像をして自由を得ようと夢見たことぐらいありそうだな……と。
あと、万が一にも任務とかで死んで、書いた遺書が見つかったとしてもそれはそれで宗家への当てつけとしてやさぐれ期のネジ的には大成功みたいな。
『オレはこんなに死を望むほど苦しんでいたんだぞ、誰のせいだと思う?』
みたいな。

ナルトに救われてからは、積極的に死を考えることはしなくなったので遺書の数は減ってくる。
でも忍という職業柄、死は付き纏うから遺書は一応書くけど、その中身は以前とは違ってきて……みたいな。


ネジの家が古めの単身用アパートだとか遺書書いてたとかその他もろもろ、もちろん捏造です。
でも、前にも THINGS で書いたけど奪還編の包帯巻き巻き半裸ネジの扉絵、カーテンあるから洋間ぽいし、窓から見える風景的にも街中ぽいので、日向宗家の屋敷みたいに建物周りになさそうな拓けた土地ではなく、意外と街中に住んでいるんじゃないかなと思った次第です。





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