憧れは真似てみることから


あの日以降、オレは考え方が以前より前向きになったとはいえ、それと同じくして少しずつ、しかし確実におかしな方へと向かってしまっていた。

自覚しだしたらもう、その思考を否定するのが難しいほどに深刻化していた。
そのせいで、オレはこのごろチームメイトの奴らともなんとなくだがこちらが一方的に気まずさを感じてしまい上手く話せないし、ヒナタ様には必要以上に素っ気なく冷たい接し方をしてしまうこともあった。

こんなことだからオレ自身気が抜けているのか知らんが、以前に比べ任務での凡ミスが増えたようにも思う。
任務中はそれなりに気を張っているから今のところ任務失敗に繋がるような重大なミスは起こしてはいないのが幸いなのだが、それにしても迂闊な行動が増えたかもしれない。

例えば、遠回りなルートをわざわざ選び、それにあとから気づいて結果的に無駄足だったことなんかはここ最近まま、あった。
なんというか、腑抜けになったような。
リーやテンテン曰く、オレはどうやら “天然” らしい。
全く褒め言葉では無いのだけは分かる。
要するに、このごろ腑抜けていると言いたいのだと思う。


四六時中ことある事にアイツは頭にちらつき、オレの頭の中を台風のように引っ掻き回してくる。

オレは何に対して憧れを抱こうとしているんだ?

アイツの持つもののような “強さ” のはずだっただろう?
それは、今でも変わらない。

ならば、努力しろ。
努力して、努力して強くならなければいけないはずだ。
それなのに、なんだ?
この体たらくは。

オレはどうしたいんだ……?



◇◇◇

とにかく現状を打破しようと試みたオレは、稽古を終えたヒナタ様と少し打ち解けようと話を振った。

「ヒナタ様、その、最近どうなんです? うずまきナルトとは仲良くやっていますか?」

「へっ……!? あ、え、……え、っと……」

唐突にオレに話しかけられたヒナタ様はあからさまにびくりと驚いてみせた。
だがオレの質問が少々間違っていたせいだということに気づいたのはそのすぐ後だった。

「わ、私……、ナルト君とそんなに……話せるような関係じゃない……、えっと、というより、私が勇気が出なくてなかなか話しかけられないだけで……」

彼女は俯き気味にたどたどしく言ったが、オレは予想外の言葉だった。

ナルトは中忍試験であれだけ大声で彼女に声援を送り続け、そしてまた彼女自身も中忍試験期間中ことある事にナルトを目で追っていたり、オレとの試合ではナルトの大きな声援に力を取り戻したりしていたものだからてっきり、それなりの仲なのかと思っていた。
二人の語った忍道とやらも同じだったしな。

なんだ、違うのか。

「あ、あの…ネジ兄さん……。私、弱くて諦めがちで、だけど……ナルト君をずっと、見てたからあんなふうになりたいって……。それで……、」

「憧れ、とかそんな感じでしょうか?」

「うん……」

オレは、相変わらずたどたどしいが少し口数が増えたヒナタ様の調子を見ながら、オレの中の問題を解決したくて色々と渦巻いていた問題の一つである疑問を投げかけた。

「憧れというのは、ヤツの強さに対してですよね?」

「そ、それはもちろん……。だって、ナルト君が私をここまで導いてくれたんだもの……。ナルト君がいなかったら私、今よりもずっと弱いままだった……」

「憧れというのは、四六時中その存在が頭を占めるものですか?」

「私は、ナルト君を見て…ああなりたいって思ってて、ナルト君ならどうするかなって考えてみたり、だから、つい思い浮かべてしまうことも……」

彼女の返答は、オレの中の問題を、オレの気持ちを無視していとも容易く解いてしまった。
ああ……、なんてことだ。
それでは、オレが腑抜けになるのもそれはそうだろうなと悔しくも納得してしまった。

ああ、認めてしまった……。
オレの中によもや、こんな感情があったことすら変な感じだった。
オレがオレでなくなるような気がした。
いや、アイツらに “天然” 呼ばわりされるぐらいには、もう既におかしかった。

ナルトは闇の中で鳥籠に囚われていたオレを見つけ出してくれた。
本当の強さをナルトを見て知った気がして、オレはそんな強さに憧れを抱いた。

自分にないものを欲しがるようにしてオレのただの憧れはいつしか形を変えてついには、憧れだけに留まることを知らずに、ああなりたいとまで思っていたのか。
なりたいものになるには、知る必要がある。
ナルトの行動は奇想天外で、尚且つ諦めが悪く、そんな面白い男で、オレとはまるで正反対だからな。

オレはナルト自身のことをもっと深く知りたくなっていたのかな。


他人に対して、こんなに入れ込むというのはオレにとってはまるで経験のないことだった。
人知れずこんな感情を抱えながら、およそ自分自身ではないような気持ちで、いつもの態度を装い日常を過ごすのは困難だったんだ。

認めてしまったら存外、悪い気分ではなかった。
胸のつかえがとれると次第に言いようもない希望だとかで満たされ万能感を覚えたオレは、少し高揚する気持ちを抑えられなかった。



◇◇◇

そして、オレはのちに今まで戦った敵の中で一番強いヤツと対峙した際、彼女が中忍試験の試合でナルトの声援で力を取り戻した理由を、この身を持って本当の意味で知ることになる。





THE END





葛藤ネジ。
中忍試験後からサスケ奪還任務までの間にナルトに対する想いを募らせるとは思うんだけど、それを自覚するきっかけにヒナタの存在もあればいいなあと。
(たしか、こんな感じのことを前にTHINGS 6月4日で長々語ったかもしれない🤔)

なんか以前に書いた大切なんだと気づいた日に似たテイストな話ぽいような? 気がしないでもない。








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