あの人の視線の先には、私の好きな人
私、本当はちょっとだけ……
気づかないふりをしたかった。
少し羨ましかった。
ネジ兄さんのことが。
◇◇◇
「……ヒナタ様、今日はこれぐらいにしておきましょう」
茹だるような暑い中、宗家の広い中庭にて稽古をつけてもらっていた私にネジ兄さんは少しだけ微笑んだ。
あれだけの大胆で尚且つ繊細な動作の柔拳を繰り出したというのに、さすが。
ネジ兄さんはほとんど涼しい顔をしている。
私なんて、ほとんど手も足も出なかった。
「明日は少々難しい任務に就くのでしょう? キバの奴から聞きました。任務に差し支えるといけないので今日の稽古はこれで終わりです」
「あ、はい……、ありがとうございました……!」
ネジ兄さんは私の返事に軽く頷くと、ふわりと私に背を向け門の方まで向かおうとした。
「あ、ネジ兄さんっ!! 」
「なんでしょうか?」
ネジ兄さんは振り返り、顔をこちらに向けた。
「あ、あの……、えっ…と」
私は言うか言わないか迷い、口ごもった。
しかし、私は昔から吃ってしまう癖があったからネジ兄さんの表情に変化は特に見られなかった。
「……ネジ兄さんには、その、好きな女の人とか、いらっしゃらないのかな、……って。その、す、すみません、私、気になって……」
言い終えた後になってから少しだけ後悔した。
わざわざ稽古をつけてもらった後に呼び止めてまで訊ねるような話題ではなかったかもしれない。
それに、本当は聞かなくても私は分かっていたかもしれないのに、なんで聞いてしまったのかな。
「……いませんよ。それがどうかしましたか?」
ネジ兄さんは『なんだ、そんなことか』とでも言うように、ふっと苦笑してみせた。
「おーい、ヒナタァ! いるかー!? お邪魔するぜー」
「よっ!」
さほどここから距離の遠くない門の方から、二つの声が響きわたり、こちらに足音が向かう。
それから、聞き慣れた犬の鳴き声。
「つーか、相変わらずデケー門だってばよ」
「赤丸、静かにしてるんだぞ。お、ネジも一緒だったのかァ!! 」
門の方を見遣れば宗家に訪ねてきたナルト君とキバ君。
瞳の中に彼を捕らえたネジ兄さんの瞬間の表情を、私は見逃さなかった。
私には分かるんだもの。
私だって同じなんだもの。
だって、ネジ兄さん……
目を見開いたあと、その中の淡い色の瞳孔を大きくさせてナルト君を二、三秒ほど見つめたあと視線を逸らした。
さっきまで、あんなに私に稽古つけていたときにだって顔色ひとつ変えることなかったというのに、ネジ兄さんの日に焼けない白い頬が少しだけ赤らんでる。
でもナルト君が見てもキバ君が見ても、そんなネジ兄さんは今の今まで修行してたのかなとしか思わないんだと思う。
何から何まで私のナルト君に対する反応のよう。
さすがに私のように取り乱したり気絶したりはしないけれど……。
「……ナルトに、キバか。何の用だ?」
「いやさ、明日ちょいと難しい任務あるっつったろ? だからヒナタも呼んでシノとオレとで打ち合わせ」
「シノはここに一緒ではないのか?」
「シノのやつ、親父さんと少し用があるらしくて遅れて集合するみたいでよ」
「そうか。で、ナルトはなんなんだ?」
あ、ネジ兄さん少し伏し目がちに、ちらりとナルト君に目を向けた……。
必要以上に眉間のシワがわざとらしく見える気がする。
「んー、いやオレはさっきまでコイツと演習場で本屋で買った雑誌読んでて、んでアイス食っててよ、そしたらキバがヒナタん家に用があるっつーからオレも暇だったし着いてきちまった!」
私は男の子三人の話の輪に入れずにいた。
ナルト君の口から私の名前が不意に出てきてドキッとして、話の輪に入れずにいるというのにそれだけで私は嬉しい。
キバ君はナルト君と肩を組んで楽しそうにしている。
ネジ兄さんは、その向かい側の位置に立って二人と話している。
ネジ兄さんは、こういう時どういう気持ちになるのかな。
だって、ナルト君とキバ君、とっても仲良さそう。
「ヒナタ、さっそく明日の任務の作戦会議だ! いつもの演習場に行こうぜ! あ、あと作戦会議終わったらオレら八班で紅先生のとこに病院もな」
キバ君に話を振られ、私は慌てて遠くに追いやっていた意識を戻した。
「うん、分かった。わざわざありがとね、キバ君」
「んじゃーさ、オレはネジちょっくら借りるってばよ」
そういうとナルト君はおもむろにネジ兄さんの肩を力強く、なんとなく親しげに叩いてニカッと笑った。
その拍子にネジ兄さんの長い横髪がはらりと肩から滑る。
「オレは暇じゃないんだが……」
「んな事言わずにさー! 」
ネジ兄さんが叩かれた肩の方へわざとらしい眉間のシワと共に目を細めて真横のナルト君を見遣り言えば、間髪入れることなくナルト君はネジ兄さんにさらに頼み込む。
まんざらでも無さそうなネジ兄さん。
「じゃ、行こーぜ! ヒナタ!」
門に近い場所でキバ君が私を手招きで呼ぶ。
赤丸が急かすように “アンッ!!” と吠えて、私はまだ何かやり取りをしている残された二人を横目にしながら小走りで門に向かった。
◇◇◇
私もナルト君と仲良くなりたい。
一緒にいたい。
いいなあ。ネジ兄さん。
でもナルト君はきっと誰にでもそう。
だから、みんなナルト君を好きになるの。
THE END
ヒナタ視点のナルトとネジの雰囲気。
モジモジで健気で可愛い子が、ちょっと嫉妬心とかそういうの覗かせるのたまらんと思います。
それほどナルトが好きなのがどうしようもなく滲み出ちゃうみたいな!!
たまーにヤキモチ焼いたりすることはあれど結局ネジとヒナタはナルト絡みのことでわりと仲良いとかわいい🥺
(そもそもネジがナルトとヒナタを気にかけてるんだから恋敵として争いようがないよ)
二人揃うとついついナルトの話題が浮上しちゃうみたいなナルト大好き日向従兄妹かわいい。
ヒナタの前で見せる顔と、同年代の男同士の前で見せる顔とか会話のリズムが全然違ったりすると、つい気が緩んでデリカシーなくなる天然ネジとか良いね…。
1部ラストとかね、ヒアシ様の前で娘の好きな人の話題ニコニコと平然と出すあたりありゃド天然です…😂
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