未来を切望した


ネジはかなり上の位置にあるナルトの顔を見る。
その顔は困惑と不確かな喜びとで複雑な面持ちだ。

「こん時のネジ、小っせーな……ははっ」

「ナルト……? ナルト……、なのか? お前は……」

「金髪青目のヒゲ面の火影が、オレ以外に誰がいるんだってばよ! うずまきナルトに決まってんだろ!」

「そ…、そうか……。そうだよな……。ナルトか」

「……ああ。うずまきナルトだってばよ」

「…………」


(……背も高くなったし、顔つきもだいぶしっかりしているが……、雰囲気もかなり落ち着いているようだ。まだ少し信じられないが……あの騒がしいドタバタ忍者のナルトが……。だがしかし、目の前のこの男は間違いなくナルトだ)

込み上げてくる喜びが確信に変わると、ネジは思わず溢れ出す笑みを堪えきれなくなる。


(ナルト。お前は、本当に……叶えたんだな、夢を……。さすかだよ……お前は。さすが……ナルトだな……!!)

ナルトの夢でもあった、そして自身の夢でもあったことがまさに現実になったのだ。
ネジはその事実を反芻して、ナルトに対して言葉ではとても言い表せられないほどの敬愛の念を覚える。


「……ふんっ、少しはまともな忍になれたようだな」

しかし、ネジの口を突いて出てくる言葉は、小憎たらしい言葉ばかり。

本当は今すぐにでもこの広い胸に抱きついて『おめでとう』と言ってやりたいのだが、自身のプライドが邪魔をしてとてもじゃないが、それはできそうにない。

「ははっ、その憎たらしい可愛げのねェ口調、やっぱりネジはネジだってばよ」


(こーゆー態度は、なんか少しボルトに似ているかなァ……)

ナルトにとっては、そんなネジですら、もはや懐かしくて愛おしくもあった。

ネジは、ナルトの懐の深さにほっとしていた。

ナルトのなんでもないようなこの態度に、ネジの心も次第に解けていき、素直になってゆく。

少しぐらい甘えた態度をとってみても、目の前のこのナルトならば何も言わずに全てを受け止めてくれるだろうか。

ネジは、自身の右手をおずおずとナルトに向けて差し出した。

「ナルトっ……。その、手を、握って……くれないか?」

「ん? ああ、いいぜ!」

ナルトは自身の左手でネジの小さな右手を包んで握った。
ナルトは、ニカッと笑いながら繋がれる腕を二、三度ほど振る。

これでは手繋ぎというより、まるで握手みたいだ。

『おめでとう』という意味を込めての形式的な握手と思えばそれはそれで正解なのかもしれない。

もっとも、ネジはただ純粋に手を繋いでほしかっただけであるのだが……。
しかし、それでもネジにとってこの握手は十分すぎるほどに幸せな触れ合いだった。



「お前、オレが火影になるの……ぜってー見に来いよ……! な?」

ナルトは少し苦しそうに、しかしニカッと笑うと、繋がれた手を解いて低い位置にあるネジの小さな頭をそっと撫でた。

(────生きろよ、ネジ……!)



本来ならば歳下であるはずのナルトに対して、不覚にも父性を感じてネジは少し恥ずかしくなってしまう。
ナルトに頭を撫でられて、亡き父を思い出したなんて内緒だ。


ナルトは、得意のいつもの笑顔だがその顔には苦しみも見て取れた。
ネジはナルトの顔を見上げて、そんなナルトの表情を怪訝に思いながら、しかし、自分の中に少し思い当たる節があって何となく察してしまうのだった。


「………ナルト。お前は絶対に自分の言葉を曲げない男だ。意地でも火影になるんだろうから、オレは恐らく……、いや、必然的にどうしてもお前が火影になるのを見ることになるだろう……」

「そうだ……! お前はぜってーオレが火影になったところを見るんだよ……!! ネジ、またな……」



◇◇◇


「おーい!!」

ナルトが去った。
そして、去ったばかりだというのにそこに、先程より、幾分トーンが高い声に呼ばれた。
ネジは声のする方へと振り返る。

見慣れた姿を前に複雑な感情も然る事乍ら、いつもの日常が戻ったのを安堵する。


(────まだ実感は湧かないが、きっとオレにとってナルトは己の命より大事な存在なのかもしれない……)

(──だが、みすみす命を投げ出すより共に生きてみたいとも思う。死んで永遠になるより、有限の時間をナルトと共に生きてみたい……!)


ネジは、運命を変えるべく、更なる高みを目指すのだろう。
クールな表情とは裏腹にネジの胸は静かに熱く燃えていた。



THE END





THINGS に2月ぐらいに書きたいネタとして上げてたやつです。
短いけど、とりあえずこちらに上げます。






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