本当の気持ちに、触れた



このごろ、暖かくなってきた。
今日はとても良い天気。


手の中には、バレンタインデーにネジから貰ったチョコが入っていたが今は空の黒い箱と、もともとは箱に結ばれていた白とオレンジのほどけた二つのリボン。
なぜか捨てる気にはなれず、今日までとっておいたのだった。
青い目は、ただ手の中の箱を見つめていた。


ナルトは先月のヒナタとのやりとりを思い出す。


『それとね、……ネジ兄さん、ああ言ってたけど、本当はナルト君のことを思って作ってたんだと、思うよ……。私も一緒に作ってたから分かるの……』

『ネジ兄さん、私と同じで……照れてるだけだから……。分かってあげて……』



────あの時は、昔からヒナタは嘘をつくような人間ではないと知っていたため、務めてなんとか、その言葉を理解しようとしていたのだが、今ならハッキリと分かった気がした。

ネジがヒナタと一緒に作ったという、少々歪な、まあるいチョコはとても美味しかった。
口にほおり込んで、舌の上でココアパウダーの味をわずかな時間、堪能したあと、それを一度だけ噛むと途端に、ほろり、とろりと蕩けてあっという間に口の中で溶けて消えた。
あの濃厚で甘い味を今でも思い出せる。

たった七粒の幸せだったが、今年はネジもくれたのでその幸せは二倍だったのだ。

それに、問題はこの黒い箱とオレンジのリボンである。
ヒナタにネジのことについて言及されなければ、まったく気にもとめなかったであろう、ふたつの色。

(……ネジってば、まさか、オレが普段、着てる服からイメージしてこの箱とリボンにしてくれた……のか? アイツ、洞察力はスゲーしなァ……。いや、考えすぎか? うーん、でも…ヒナタが、ネジはオレのこと考えて作ってたとか言ってたし、今でもちょっと信じらんねーけど……。でもよ、やっぱこの黒い箱とオレンジのリボンって、そういうことなんかな……?)

ナルトは、もう一度改めて、手の中に収まる黒い箱とオレンジのリボン、それと白いリボンを見る。

ナルトは、改めて思考をまとめると、本当は気づいてはいたものの普段のクールなネジからはおよそ信じられなさから捩じ伏せていた事実に、言いようも無い気持ちが芽生え、こそばゆい感覚を覚えた。


(……アイツが、ねェ……。昔とはえらい違いだってばよ……。でも、なんでオレなんかのために……?)



手の中の一点を見つめて物思いに耽るナルトが、突然はっ、と息を飲み込んだ。
慌てた素振りで、ナルトは腰をかけていたベッドから勢いよく立ち上がると手に持っていた黒い箱とふたつのリボンをベッドに置いた。

「……っ、いっけねー!! これから任務だったってばよ! お返しは後で考えることにすっかー」



◇◇◇


アカデミーの任務受付の教室に向かう途中、ナルトは己の中の問題の人物が廊下の角、前方からやって来るのに気づいた。

ネジは、いつもの佇まいで任務の報告に向かう途中なのだろうか、手元の何枚かの書類に目を向けながらゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
いつもなら、真っ先にネジの方から己に気づくことが多いので少々珍しい事態だった。

ナルトは、ネジに気づくや否や、あれこれと何を言うか頭をフル回転させていた。
まだお返しも用意してないのに、とナルトは思うのだが、ネジは上忍ゆえになかなか忙しい身でありホワイトデー当日に会えたこと自体がラッキーなのかそうでもないのか……。


「よ、よォ…! ネジ!」

ナルトは、少し躊躇ったがネジに声をかけた。
長い横髪とともに肩がわずかにピクリと反応したように見える。
その後、特徴的なほとんど白い目が少しだけ見開き、揺れたように、ナルトの目には映った。


「……ナルト」

「久しぶりだってばよ……! 先月会って以来…だよな? 元気してたか?」

「……ああ。特に変わりない。お前は……、少し覇気がないように見えるが……、大丈夫なのか?」

「あー……、うん、ちょっとなー……。そういや、よ、お前ってば好きなヤツとかからバレンタインに何かもらったりしたか? お返しとか悩むよなァ……!!」

「……いや、ヒナタ様やテンテン以外からは誰からも受け取らなかったからお返しには悩んでいない」

「……ふーん、そうかよ」

「……お前は、何に悩んでいるんだ?」

「………お前へのお返しだってばよ。それがいっちばん難しいんだってばよ……!! だって、オレ、お前のことそんな詳しくはないしよ……! お前ってば、よくわかんねートコあるしよ……」

「なんだ……、そんなことか。気にすることはない。ただの……義理だからな。そんなことより、ヒナタ様へのお返しはキチンと考えておけ……」

「いや! よくねーってばよッ!! オレってば意外とこーゆーの気にすんの!! 先月は、その……お前からなんてビックリしちまって、ちゃんとお礼言えなかった気がするからよ……。ありがとうだってばよ、ネジ……」



ネジが笑った。
今まで見たこともないぐらい、柔らかい微笑みだった。
少し照れくさいのか伏し目がちだが、窓の外からアカデミーの廊下へと差し込む春の光が、白く淡い瞳を心做しか潤んでいるようにみせていた。

ナルトは何故か、光に透けるようなネジの姿から目が逸らせなくなってしまう。


ナルトは確信した。
やはり、あのチョコはあの場でキチンとお礼を言うべき、正真正銘ネジの心のこもった本当のバレンタインチョコであったのだと。

「お礼言うの、遅くなっちまって悪かったな……」

ナルトもつられて照れくさくなり、三本ヒゲの刻まれた火照り気味の頬を人差し指でポリポリと掻いてみせる。

「……お返し、何がいいか教えてくれってばよ」

「……そうだな、お礼は……、今度組手の相手にでもなってもらおうか」

「ああ、いいぜ……!! そんなことでいいのならいつでも受けて立つってばよ!!」




THE END





ネジにとっての春の訪れ。


私の中のナルネジはイベント事に疎すぎてホワイトデーにならなかったです😶
ナルトはネジの気持ちがこもったチョコということは分かったけど、ネジのナルトに対する『好き』という気持ちには気づかないし、ネジもネジでナルトのことを『好き』と『尊敬・感謝』の境界が曖昧だから自分の気持ちのほんの一部分だけでもナルト本人が分かってくれただけで『好き』という気持ちに触れられることなくても満足。

というか、それ全て引っ括めての『好き』だから。
ヒナタもそうじゃん……? 尊敬 憧れ≒恋愛感情。





1/1ページ
    like it…!