強い者
高い晴れ晴れしい青空。
ひんやりと冷たい風にまじり太陽が真上から燦々と地上を照らし、徐々に春の訪れを感じる昼時。
ネジが演習場に行くとそこには先客であるナルトがいた。
いつもここはガイ班で使う事が多かったが、別にガイ班だけの場所ではないので珍しい事ではない。
しかし、ここでは見慣れぬ人物に少しだけネジの心臓が跳ねる。
「ん? よお、ネジじゃねーか」
丸太の木に向かっていたナルトが振り向いてネジの方を見た。
オレンジの服には所々木屑や土汚れがついていて、今までずっと修行をしていたことがうかがえる。
「お前も修行しに来たのか?」
ナルトの問い掛けにネジは「ああ」と頷く。
そういえば、とネジはナルトの姿を上から下と眺めてみる。
考えてみればナルトとは中忍試験以来戦ったことがないし班が違うので組手を共にすることもない。
初めての中忍試験から既に二年半は経っている。
どれぐらい強くなったのか気になるところだ。ネジはほんの少しだけ勇気を押し出して、袖に隠れる拳を握った。
ワケもなくドキドキと鼓動する胸を落ち着けるために小さく深呼吸をする。
「ナルト。どうせ修行をするなら二人の方が効率が良い。相手になってほしいのだが……」
口にした声は深呼吸のお陰か思ったよりも落ち着きを払っていてネジは安堵した。
ナルトは珍しく歯切れの悪いネジの口調に小首を傾げながらも次には快く頷く。
「ああ、いいぜ! オレもお前がどんだけ強くなったか気になるってばよ! 上忍だっつーもんな」
「ああ、オレもお前がどれだけ強くなったのか気になる」
*
夢中になって拳を交えていたら辺りが薄暗く感じた。
ふと周りを見回すと空が赤みを帯びて、地面を染めていた。
「……ナルト、これぐらいにしよう」
呼吸を整えて、ネジはナルトに休憩を促す。
ナルトもネジにつられて空を見上げると納得したように拳を下ろした。
「もう夕方になってたのか……、結構やりあってたなオレたち!」
「ああ、久々にお前と戦えて良かった」
平静を装うが、ネジはナルトと再び戦えたことに酷く興奮した気持ちで溢れかえっていたのだった。
変わらぬ無表情を務めてる前では分からないのだが。
あの時から誰にも負けないぐらいに強くなりたいと誓い、ナルトを目標にしてきた。
どんな時にもナルトならどうするのかを考えて、幾多の困難をも乗り越えて来た。
まるでその褒美かのようだ、とネジは今日の日の嬉しい出来事に感謝をする。
「さすが上忍だけあるってばよ、あん時よりすっげー強くなってら……お前」
「当たり前だ。またしてもお前に負けるわけになどいかない」
「今回は、引き分けだな!」
そうだなという意味を込めネジはふっ、と柔らかく笑った。
なんて良い関係になったものだろう。
ナルトと穏やかにこんなに笑える日が来ようとは。
初めて出会った時には想像もしてなかった。
「さーて、帰るか!」
ナルトはあれだけ激しく戦いあったというのに疲れも見せぬ声色でそう言うと、腕を伸ばし、両手を空に上げると伸びをした。
「ああ、……ナルト、今日はオレに付き合ってもらって感謝してる。ありがとう」
腕を伸ばして緩んだ顔をしていたナルトの動きがピタリと止まった。
数秒の沈黙のあとナルトは快活な顔で笑ってみせた。
「いいって、オレもお前と戦えて良かったしよ!」
『ああ、帰りたくないな……』
心に浮かんだそんな正直な言葉。
スタスタと腕を頭の後ろに回して先に歩き始めたナルトをネジはとぼとぼと追いかける。
これはただの憧れが行き過ぎたものだろうか?
“恋” などという甘酸っぱい言葉にするにはなんとも晴れ晴れしく、それでいてやはり行き過ぎた感情なのだと思うのだ。
まだ一生かけても嵌る言葉が見つかりそうにないと思えるそれは、己の持つ感情だけが確かに信じられるもの。
「ナルト……」
思わずネジが小さく声を掛ければ、先を歩いていたオレンジの背中は振り返った。
そのさらに先で周りを纏う輝かしい夕焼けは、ネジの胸をじわりと熱くさせるのだった。
白い珠を橙色に染めてしまう存在は果てしなく強い者である。
こちらを振り返ったままナルトはネジの次の言葉を待っていた。
ネジは、もう一度ナルトの名前を呼んだ。
「あともう少しだけお前と手合わせをしたい」
THE END
気付いている方もいるかもしれませんが、私は色を絡めて書くのが好きだったりします(´▽`)
なんか綺麗な文になりそうで……。
たまには爽やかナルネジを目指してみました笑
1/1ページ