その気持ちが何よりのもの
本日はホワイトデー。
「お返ししなきゃだよなあ……何にしよっかな」
ナルトはサクラから義理と分かりつつチョコレートを貰っていたし、いのとテンテンからも作りすぎたからと貰った。
モエギからもリーダーにはお世話になってるから、と貰っていた。
ヒナタからの大本命チョコ(本人は全く気づいていないが)も貰った。
そしてなぜかネジからも貰った。
ああ、だがしかしネジからはバレンタインの翌日だったな、と思い直す。
テンテン曰く友チョコだから、なんだとネジに聞かされてチョコレートを受け取ったナルトだったが、いくらバレンタインの翌日に貰ったとはいえ、そして男からだとはいえ、貰ったモンにはお礼すべきだよなあ、ましてや他の人には返すのにネジだけに返さないわけにもいかない。
ナルトは女の子に返すもののことよりもネジに返すもののことに頭を抱えてしまう。
「あいつってば甘いモン食べんのかな?」
イメージ的にはなんとなく甘い物は苦手そうだが、かといってネジが好きそうな食べ物の好みも知らない。
無難にホワイトデーらしくお菓子にしよう、そうしよう。
ゴチャゴチャ悩んでいても知らないことは知らない、あいつだってそんな拘りはなさそうだし別にいいだろうとナルトは考えることをやめた。
街中には一か月前と同じ様に甘いものの匂いと華やかに売り出した店が目を惹く。
サクラの好みは、詳しくはないのだが同じ班だけになんとなくこれが好きそうだ、これは似合うなあなどナルトの頭に候補がいくつも浮かぶ。
「うっし、サクラちゃんにはこれにすっか、箱もピンクでちょうどピッタシだってばよ!」
ナルトは早々に、サクラへのお礼の品を決めて次はいのとテンテンを思い浮かべる。
「あいつらは、よく分かんねえェ……。いののヤツは家が花屋だったよな……、テンテンのヤツは忍具が好きだったよな……」
そこでナルトは目に留まった、小さな一口サイズ大の色々な花の形をしたチョコレートを見つける。オシャレだしあいつも気にいるだろう、とナルトはそれも手に取る。
花の形をしたチョコレートはあっても忍具となるとまず無い。
ここはどちらかというと洒落た店だからかなあ、とナルトはとりあえずその二つを購入して木ノ葉の里の特徴的な土産品などが置いてそうな店へと足を運ぶことにした。
地元の人間宛に地元のお土産品店で買うのも変だが、どうせ渡すのなら喜んでくれる物が良い。
そこなら忍をモチーフにした良いお菓子があるかもしれない。
店内に足を踏み入れると、木ノ葉マークの偽物の額当てや、実際のものとは色味の違うベスト、巻物タイプのメモ帳などいかにもお土産品なものがズラリと並ぶ。
ここなら何かありそうだ。
ナルトはお菓子のコーナーへと移動した。
物色すること数分、ナルトは漸くテンテンに喜ばれそうな物を見つける。
「おー! これはピッタシだな!! 手裏剣の形のチョコとか初めて見るってばよ!」
女の子にあげるにはいささか可笑しなものだが、テンテンは忍具が好きというイメージばかりが強いのだから仕方あるまい。
ナルトは、それをカゴへ放り込んだ。
「よし、次!次!」
お店を出て、近辺のお菓子屋へと移動をする。
モエギには何が良いんだろうか。
「アイツならオレからのモンならなんでも喜びそうだけどな……!」
自分を慕ってくる歳下の子供の様子を想像して苦笑しながらもすごく嬉しそうにナルトは呟く。
ナルトは、そう思うと自分が良いと思ったものをあげよう!と思い立ちそれはすぐに見つかる。
自分好みのものならスイスイと見つけられた。
『リーダーありがとう!!』
甲高いかわいらしい声を想像してよし、これに決めたとナルトはお菓子をカゴへ放り込んだ。
ヒナタのチョコレートもすぐに見つかる。
ヒナタもモジモジとしながらも素直に優しくお礼を言ってくれる姿が浮かんだから品物が決まるのは早かった。
────あとはネジだな……。
ここでナルトの軽快な足取りが、止まる。
「あー、なんでもいいって思ったけど、何にしよう……」
ネジがお返しを受け取った時のリアクションが想像できないために、余計に選ぶのが困難になる。
(アイツは素直に喜ぶのか? というよりお礼を求めてんのか? ……つーか、なんでオレに渡してくれたんだろ?)
ヒナタに渡すついでにネジの好みとか知ってたら聞いてみようか、いやでも自分だけで選ぶほうがいいのではないだろうか。
そこでナルトはなぜお菓子に囚われていたのだろうかと思う。
お返しなんてお菓子である必要はない。
ネジの食べ物の好みが分からないなら、何か物にすればいい。
実用品などであればネジも普通に受け取るのでは、とナルトは思いつき、既にカゴに入れていた品物を購入して店を出た。
次に入った店は雑貨屋。
「あいつだったら何使うんだろ……」
ナルトはネジの姿を思い浮かべてみる。
ネジは髪が長い。
黒髪をいつも下のほうで結わえている。
なぜ伸ばしているのかは分からないが髪が長いのなら櫛が良いだろう。
ナルトはやっと実用品を思いつくことができて、足早に櫛の置いてある場所へと向かう。
様々な形や色の櫛があるが、何が良いのかが全く分からない。
使い易さもどれが一番なのかピンと来ない。
飴色に艶めく丁度良い大きさのつげ櫛を手に取ってみた。
持ち手に繊細な模様がさりげなく入っていて、男が持っていても華やか過ぎずに良いのではないかと思えた。
「よし、これにすっか……使ってくれっかな……」
ナルトは、そのつげ櫛を入れる袋も一緒に購入する。
お高い物ではないが、恐らくネジはそんなこと気にしないだろう、たぶん使えればなんでも良いと思ってくれるはずだ。
そう思い店を出た。
一人だけ全然別の物になってしまったが、ネジからはバレンタインの翌日にもらったわけだし、少しぐらい違っていてもおかしくは無いだろう。
「あー、えっとよ……バレンタインの時にチョコくれたろ? だからさお返し買ったんだ……。何にすれば良いか分かんなかったけど、やるってばよ」
◇◇◇
あげたいと思えたから、それだけで渡したチョコレート。
まさかお返しにと、形に残るものを貰えるとは思っていなかったネジは、ただ髪を通してきた今までの櫛よりも擽ったい気持ちを感じてその日から黒髪にナルトの想いを通す。
分からないなりに己を思って選んでくれた気持ちが何よりのお返しなんだ。
THE END
ホワイトデーネタです!!!
ホワイトデーのお返しに櫛ってなんだよ!?! アクセサリーってのもアレだしなあと思うと何がいいんだろうと……
お菓子でも良かったけど形に残る物がなんか書きやすそうじゃん、って思ったので、でも櫛ってなかなか無いよなあ……まあいいか。
そこも、
意外性No.1のナルトが故ということにしときますΣd(゚∀゚d)
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