繋がる、実る
あいつの事がただの仲間以上に大切だったなんて、否、あいつの事ばかりを考えていたからそうなってしまったのか。
今となってはもはやそんな事どうでもいい。
どれだけ思おうがあいつがこの世にいない事には変わりはないし気持ちの変化を告げる相手がいないのに悩んでも仕方がない。
ただオレが一番に自身の心に衝撃と失望したのはあいつが好きな物を何一つ知らなかったことに気付かされたときだった。
この深く重くあいつを思う気持ちとは裏腹にあいつの事を殆ど知らない事実に自らに失望した。
ヒマワリが墓参りから帰ったその日、ネジの墓にひまわりの花を供えたと嬉しそうに話してた。
それが本当にネジの好きな花だったかは定かではないが、ヒナタのやつもヒマワリと同じ名前だものと言っていて、そういやオレはネジの好きな物について考えた事もなかったと思い知らされた気分だった。
あいつの事を知らない事実に逆らうように気持ちだけはどんどん大きく重くのしかかってきて、勿論一日もあのときの事を忘れた事はなかったのだが、最近はあの日の肩に残る重い感触と肩を支えた時の手に残る感触と鼓膜に触れる低く掠れた声が生々しく蘇っては四六時中オレはいないはずのネジの存在をそばで感じていた。
考えれば考える度に、感触と声を思い出す度に、恋い焦がれる心に戸惑いと忘れてはいけないという思いでいっぱいだった。
あいつが生きていたらオレたちもしかしたら思い合えていたかもな、と思わずにはいられない。
ネジだってオレのことを大切なんだと思ってくれたんだ。
◇◇◇
「ナルト」
低い声が己を呼んだ。
ただの男の声だというのにその声に体が異常に反応して思わず咄嗟に後ろを振り返った。
まだ若い青年の姿で黒い長髪の男は、その特徴的な色素が殆ど皆無の冷たい目を少しだけ緩めて笑っていた。
「そんな幽霊でも見たかのような顔をするな」
言葉を出そうとするが、喉が締まり、声が思うように出せない。
「……細かい事は聞かないでほしい。だがオレはお前にどうしてももう一度会いたかった」
ネジは目の前のナルトの様子を気にすることなく淡々と言葉を紡ぐ。
そんなネジにナルトの驚きと緊張も和らいだのか、漸くナルトも口を開いた。
「……ネジ……お前本当にネジだよな? 何しに、何で? 穢土転生じゃねえみてえだし……」
「だから細かい事は止してくれ。オレも正直よく分からん」
ナルトは目の前の傷はおろか汚れ一つない大戦の時に死んだとは思えぬ綺麗な姿のネジに見惚れた。
自分と違い、若々しさがあるネジが眩しい。
袖から覗く手も、己の手はそれなりの年月を重ねてきた手をしているがネジの手はまだ少しだけ稚さの残る手で、目元にもそれはよく表れている。
「オレ、お前の事をずっと考えていたんだ。今の今までな」
ナルトの言葉にネジの心臓がどきりと跳ねた。
ナルトに一生消えぬ自身の存在を残したとは思っていたがまさか今の今まで己について考えられていることにただただ嬉しさが込み上げた。
ネジはナルトの姿を上から下と、そして下から上と眺めて何かをこらえたかのような、歪んだ綺麗な笑みをみせた。
「……そうか、夢を叶えたんだな。あのガキだったお前じゃないみたいだ」
「……まあ、それなりに老けちまったしな。むしろオレはみんな老けてるやつの周りで生きてきたからお前の姿に違和感を感じたかんな」
「……追い越されてしまったな。まあそれならそれでもいいか」
ナルトは目の前のネジの白い手を取った。
ナルトは漸く、声を洩らして笑った。
まるで太陽の様だとネジが大好きだった白い歯を見せて快活に笑ういつもの顔で。
「あー、なんかよ……オレ、いろいろ考えてたんだよなァ。お前に伝えたいこととかオレの気持ちの変化とかさ」
ネジは改めて思う。
死ぬ間際、自らの伝えたいことを伝えて全て気持ち良く終わらした気になっていたなと。
「聞きたいか?」
ナルトの問い掛けにネジは頷いた。
「もしかしたら、オレに引くかもしれねえけどそんときは黙って幽霊は幽霊らしく消えてくれよな」
ネジは何を言われるのかと胸を高鳴らせて再び頷く。
生き返っているのだから自分の意思で幽霊のように消えることはできないだろうと頭では分かっていたがもしも己が望んでいるような言葉をナルトから口にされたら嬉しさに消えてしまうかもしれないと思うのだった。
変わらぬナルトの青い目を見つめて繋がれる手の熱さに息を呑む。
「オレもお前が大切だ。お前がオレをそう思ってくれたようにな!」
ナルトもネジの薄紫色を帯びた白の目を見つめ返して大事な二言目を紡ごうと息を吸い込んだ。
「オレはお前に恋い焦がれてしまった。会いたくて会いたくて、もし会えたら正直とにかく髪にも手にも肩にも背中にも触れたかった。それぐらい焦がれた」
ネジの低い体温が上昇して肌は粟立った。
潤む瞳をぐっとこらえようとしたが、ナルトはもう大人で自分は子供なのだから泣いたっていいんじゃないのか……?
死後一回りして素直になった自らの心はこの白い眼に涙を許したのだった。
ナルトは戸惑いつつも、ネジの手から己の手を離してその手を背中に伸ばした。
自らの方へとその体を引き寄せて、聞いたこともない様な新たな一面のネジの声を胸で聴いた。
THE END
恋が実った(というより無理やり実らせた)大人ナルネジです。
ネジは生きている間は
ナルトはネジの甘えに最初は驚いたり戸惑うけど、ネジの甘え方は所詮4歳児止まりな部分が目立つからすぐに慣れる、とかいいです。
大人ナルトから父性を感じるとかね……!!!
文章編集 220403
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