気づけ


緩やかな丘の斜面の下に、金髪とピンクの頭が見えた。
すぐにその人物が誰なのか理解し、邪魔するのも悪いのでそのまま通り過ぎようとした。
だが、ピンクの頭が大きく動いた。

微かに “じゃあ、またね” という声が聞こえた。
おそらく此処からもうどこか別の場所に移るのだろう。
そして、予想通り、ピンクの頭がこちらに向かって上がってくる。

やはりサクラだった。
彼女が己の存在に気づいた。

「あっ、ネジさん。こんにちは」

「悪いな、邪魔しないようにすぐ通り過ぎようとしたんだが」

「いいんです、私もすぐ用事あったし。ナルトならこの下にいますよ」

なぜかナルトと話したがっていると思われてどきりとした。

「あっ……ああ。見たらわかる」

「じゃあ、私はこれで」

サクラは軽く会釈をし、小走りでその場を去る。

一人丘の斜面の下に取り残されたナルトはつまんなそうに、寝転んだのだろう、金髪頭が隠れた。
今なら自分が行っても邪魔にならないだろうと、ナルトがいる斜面の下まで降りた。
上からナルトの顔を見下ろす。

「ん? ネジ? なんでここに?」

「先ほどここを通り掛かったんだ。邪魔しないように通り過ぎようとしたが、サクラが用事で帰るとここを離れたのでな。お前の話し相手になってやろうと思ったまでだ」

「ふーん、遠慮せずに入ってこりゃあいいのに。 サクラちゃん別に気にしないだろうよ」

「お前は気にしないのか。お前もサクラのことを好いてるのだとリーが言っていたが?」

「ああ。まあサクラちゃんのことは好きだってばよ」

「では、オレが割って入ったら迷惑だろう」

「そんなもんか?」

「お前は違うのか」

「さあ?」

たわいもない応答が繰り返される。

「そういやさ、お前ってば好きなやつとかいねえの~?」

問いかけるナルトの顔はニヤニヤとしていて、からかっているのがすぐ分かる。
ネジは答えるのを躊躇った。
なぜなら目の前にいる男こそが、その “好きな人” に当たるからだ。
しかし、ネジはこれも逆にチャンスなのかもしれないとも思った。

「……いるにはいる」

なんとも曖昧な返答をし、ナルトの様子を窺う。
ナルトは少しだけ驚いた顔をした。
そして興味津々といった顔になり、この返答に食いついてきた。

「……その娘、どんなやつなんだ?」

当然、好きな相手というと異性だと思うのが普通なわけで、ネジの好きな相手も当然女性だと思っているナルト。

「そうだな……、騒がしいやつだな」

ネジは女性ではないという事を指摘はしなかった。
男が好きだなんて言えるわけもなく、意中の相手が女性だと誤解されたまま話を進めることに。

「騒がしい娘ねー。他には?」

「……努力家で、真っ直ぐな性格だ」

「へえ、いい奴そうだな、その娘!」

「ああ……。 いい奴だ」

「その娘とお前は、仲良いのか?」

「……さあな。あまり話す機会もある訳ではないし、此方の勝手な片想いだ」

「ふーん、そっかあ。なあなあ!その娘ってば、可愛いのか?!」

「……可愛い……というより、アホ面だな」

「……お前ってば、それ女の子の前で言わねえ方がいいってばよ……」

自分のことだとはまるで夢にも思わないナルトはツッコミを入れる。

「……それから、アホ面ではあるが、まあよく見ると……かっこいいと思う」

「……かっこいい? ああ、なるほど。かっこいい系な女の子なのか!」

ナルトの頭の中のネジの想い人が、騒がしく、努力家で真っ直ぐな性格のアホ面だがかっこいい女の子で構成されていく。

「なあ、その娘、髪は長いのか?」

「いや、短い」

「ふーん、ボーイッシュな娘なのか?」

ボーイッシュではなくボーイなんだが、というノリツッコミをネジは心の中で行うが、一応口では、ボーイッシュってことにしておく。

「……まあな……」

「目の色とかは?」

「目の色は青だな……」

「ふーん、オレと同じだってばよ。この里で青い目ってそんな多くないのに」

「多くないってだけでいるにはいるだろう……。 いのだって青い目だ」

「まあ、そうだけどよ。その娘ってば、くノ一なのか? それとも一般の子?」

「忍だ」

「ふーん、くノ一なのか」

この鈍い、目の前のアホ面男に、お前のことだよって言ってしまいたくなるが、結局言えない臆病なネジなので、堪える。

「そこ娘のどこを好きになったんだ?」

「……全部だ」

ネジは本人の目を見て言えずに、ふと青い目から視線を外す。

「へえ……、相当惚れてんだな。その娘に!」

「……ああ」

「告白とかしねえの?」

「……それは、できない……」

「なんでだってばよ!オレも応援するってばよ!」

「応援されても……そいつはオレの気持ちに困るだけだろう、きっと……」

「言ってみないと分かんねえだろうよ」

「……いや、なぜなら、そいつは他の奴が好きなのだからな」

「……そっか。 オレにもその気持ち分かるってばよ……」

「……オレは、そいつとこんな風にたわいもないことを話せるだけで満足なんだ」

「あんまし人の恋路に首はつっこみたくないけどよォ、叶わなくてもその娘にお前の気持ちが伝わるといいな……」

「……そうだな。いつかはそいつにオレの事も意識してほしい」




THE END





好きな相手に、恋の応援してやるって言われるのは恋愛シチュとしては定番ネタですけど好きです*\(^o^)/*

書けて満足です笑





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