1. 密か心
昔、恋人ではないがキスをしただけの、
たったそれだけの関係の男がいたんだ。
その男は運命に縛られた哀れな男だった。
自分を籠の中の鳥と称した。
だが、その男はいつしか大空と太陽が似合うような男へと変わっていった。
その男とは死別して関係は消滅した。
第一印象はお互い最悪だった。
「忍びなら、見苦しい他人の応援など止めろ。それともう一つ。しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ。変わることなどできない」
「ぜってー勝つ」
最初のやりとりはこれほどまでに殺伐としていた。
この一カ月後に二人は戦うことになる。
この試合でネジの運命が変えられる事になるとは本人すらも夢にも思わなかった。
「お前は、オレと違って、落ちこぼれなんかじゃねえんだから……」
1. 密か心
(気持ちが落ち着かない……。ずっと心が騒ついている……)
瞑想をしたって何をしたって、駄目のようだった。
中忍試験が終わってから、ネジとナルトは班が違うので当然の事ながら、一度たりとも顔を合わせていない。
ネジはここの所、毎日あの時の試合の事を思い出していた。まるで昨日の事のように鮮明に思い出すのだ。
思い出すたびに、ナルトへの思いは日に日に増していく。
だがしかし、これは恋ではないと思う。
もっと別の感情であってほしいし、実際そうだろうとネジは思っていた。
それこそ憧れだとか、目標だとか。
きっとそういうものだろうと。
ネジは当初 “恋” というものがまるで分からなかった。
ネジと同じ年頃の人間なら大多数の人間が恋をしているだろう。
皆は初恋をしたときに、何を持ってそれを恋と断定するのだろうか。
そもそもだ、ネジは同性に対してその感情があるのでは疑っている時点で可笑しいのかもしれないと思っていた。
(暫くの間は、この胸が騒めくのを落ち着けられそうにない。今日はもう寝てしまいたい……)
翌日、ネジはテンテンにこの事を相談してみた。
“それは、騒めきじゃなくてときめきよ” と言われた。
そして、初恋なのに恋だと断定できる人はなぜ、そうする事ができるのかとも聞いてみた。
“理屈じゃないのよ、そういうのは。恋だと思ったのなら恋でもいいじゃない。
恋じゃなくても好きだいう気持ちは幅広いものだしその一つなだけだと思うな。恋って”
なんともよく分からない曖昧な答えだが、ネジは何となく分かったような気がした。
そしてまた翌日。
ネジはいてもたってもいられず思い切った事をした。
ネジにとってこの狭い木ノ葉の里で目的の人物を探すのは容易いこと。
ナルトを探して直接会ってきたのだ。
ネジに会ったナルトは驚いた顔をした。
当然の反応だった。散々ぶつかり合った相手だ。それに試合をしたきり会っていなかったのだから。
「……ネジ……だったよな? オレに何の用だってばよ」
ナルトは訝しげな顔をしながら尋ねる。
「……用というほどでもないんだ」
ナルトは頭に疑問符を浮かべる。
ネジの意図が読めなくて困った顔をした。
「お前が驚くのも分かるが、そんな顔しないでくれ。 もうあの時のオレではない」
「……おう。ん、まあ同じ木ノ葉の下忍同士だしな……」
「そうだ。だから、距離を置こうとしなくていい。班が違うから滅多に顔を合わすことはないだろうが、オレは個人的にお前と会いたいと思っている。これからも」
「……ああ。分かったってばよ」
それからというもの、この日を境に二人は頻繁に会うようになっていった。
ナルトの持ち前の明るさと、ネジが変わったことにより二人は急速に仲を縮めた。
そして、ネジの心にも変化が起きていた。
to be continued…
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