朝の次は昼で


まだ少しだけ薄暗い。
空は薄紫と朝の白い光を混ぜたような色合いだ。
今その空を見る人物の眼と同じ色をしている。
窓際をそっと見やると、爽やかな風と鳥のさえずりが、朝を知らせる。

(いつもより、早く目覚めてしまった……。朝方だしもう起きるか)


時刻は五時三十分過ぎ────

普段、ネジはこんなに早くには起床しない。

だが、今日は目が覚めてしまい、低めのベッドから体を起こす。
少しだけ肌寒いのが心地良い。


(今日はゆっくり起きて、演習場に修行しにいくつもりだったんだが、散歩でもしようか。……風が気持ちいいな)


ゆっくりとベッドから出て、顔を洗いに洗面所へと向う。
冷たい水で覚醒した頭。
小さく握ったおにぎりを、一つだけ頬張りお茶で流した。
普段着に着替えて、
髪をとき、いつもの位置で結う。
額当てを巻く。
いつものサンダルに足を通し、家の中を見回し戸を開けた。


全身に広がる朝の爽やかな風。


そうして、戸を閉めて鍵をかけた。


(流石に、ほとんど人は歩いてないな)

たまにランニングをする人や、朝早くからの任務に行くのであろう忍が行き来する薄暗い通り。

しばらく歩いて、木ノ葉の中心部に来た。
この辺りまで来ると人の行き来は先ほどの通りよりは多い。

すると、
前方にネジのよく知る人物の姿が見えた。

朝日にキラキラと金髪の頭が照らされている。
ネジは少しの間それに目を奪われていると、元気な声が己を呼んだ。


「おーい!ネジィ!」

ナルトが駆け足でネジの元へやってきた。
元気でよく通る少年声が、ネジの名前を大きなボリュームで呼ぶ。

ナルトは元気の塊みたいなもんだ、とネジは思った。

「ナルト、おはよう。朝から元気だな。お前は」

ネジは苦笑してみせたが、実はそんなナルトをネジは気に入っているのだ。

元気の良い声と、キラキラとした金髪と、澄んだ青い目と、目立つ、いささか忍とは思えない全身オレンジの服装。

どれもこれも元気の象徴だ。
まるで太陽の様に輝くのだ、ナルトは。
髪と服が太陽なら、目は青い空だ。

(ナルトの眼が青空なら、オレの眼は朝方の白がかかった空かな……)

まるで詩のようなことを考えているネジに、ナルトはかまわず話しかける。

「オレってば、いつでも元気だぜ!つーかよォ、お前ってばいつもこんな朝早くから街うろついてんのか?」

「いや、偶々今日は早起きしてしまってな。……朝の散歩というのも良いもんだな」

「ふーん。実はオレも今日は早起きしちまったんだってばよ。もう少し寝ようと思ったけど寝れなくて外ぶらついてたんだ!」

「そうか。なあナルト、どうだ、この後予定がなければオレと手合わせをしてもらえないか?」

「ああ、いいぜ!オレもお前とは随分やり合ってないからな。どんぐらい強くなったのか興味あるってばよ!」

「あの頃のオレではないからな。簡単に負けはしない。 だが、お前もきっと…あの頃より強くなってるんだろう…?」

「あったり前だってばよ!オレだってスッゲェ修行重ねてんだからな!」

「ふふっ……それもそうか。オレももっと修行をしなければナルトとの差は埋まらないかもしれんな……」

他愛もない話をしながらの演習場への道のりは短く、すぐ目の前には人気ひとけの無い幾つかの木が並ぶだけの演習場に着いた。

既に、日は昇り空は明るくなっていた。



◇◇◇

「……はぁ、やっべ……、お前ってば前より強くなってら……」

「……ははっ……、お前もな。だが、体術はまだまだだな。お前は動きが直線的過ぎる。これでは相手に動きを読まれて当然だ」

「んー、それよく言われるってばよ…。でも、オレってばそういう戦闘スタイルだからな。影分身で裏の裏をかくとかそういう戦いの方がやり易いってばよ」

「まあ、人には向き不向きがあるからな。リーも直線的だが、体術に関しては下忍の中では右に出る者はあまりいないと思う。……オレ以外はな」


太陽が丁度真上にあって、じりじりと地面を照らす。

時は既に正午になろうとしていた。
長い時間、手合わせをしていた二人は休憩をとることにした。

「……ナルト、昔話でもしないか」

ネジが唐突にそう言うと、ナルトはワケわからなそうに眉を片方上げた。

「昔話ィ?」

「ああ、中忍試験のことだ」

「それって、そんなに昔話でもないってばよ」

「……まあ、そうなんだが、オレにとっては遠い過去の事に思えるな…」

ネジは何処か遠くを見ながら、独り言の様に呟く。
実際はナルトが話し相手なのだから独り言ではないのだが。


「中忍試験に出て良かったと思う。お前と戦えて、そしてお前に負かされて良かったと思う。オレにとって、お前に負けた事は人生を変えるキッカケになったんだ」

「変えたのはオレじゃねーってばよ。お前は昔から、ずっと昔から、本当は運命は変えられるって心のどっかで自分で分かってたんだからな」

ネジは一拍おいて、再び口を開いた。


「……そうだとしても、オレはそれを所詮そんなの幻想だと、心の奥に押し込めてきた。だが、お前はそれを幻想なんかじゃないと証明してくれた。そして、こんな凡小なオレに、落ちこぼれなんかじゃないと言ってくれた。……凄く、感謝しているんだ……」

「……オレはオレの忍道に従って戦っただけだってばよ。でもお前がそれで救われたんならオレとしては、嬉しいってばよ。……なんか、オレが火影になって日向変える前に、今のお前なら変えちまいそうだな!」

ナルトはニカっと笑いネジの方へと向き直る。
ネジはそんなナルトの顔を少しの間見つめて、ふっと笑った。


「……そうだな。そうする事ができたらいいな。だが、オレにとってあの言葉は今にして思うと凄く嬉しかった。オレはずっと、誰かに救い出して欲しかったのかもしれない。分家の立場で呪印をつけられていたオレにとって、宗家に対して発言力などあるはずもなく……、他の誰かに変えてやると言われたのは、心強くなったような気がした」

「……ん、まあ、お前が日向変えちまっても、一応オレも変えるの手伝ってやるつもりだってばよ。約束は約束だしな!」

そう言うとナルトはニシシッと笑いながらネジに小指を差し出した。
ネジはその手を僅かな時間見つめたあと、ゆっくりとナルトの小指に己の小指を絡めた。

「……ああ、約束だ」




THE END


文章編集 220401


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