アレン「……………。なんか、コムイさん元気なかったですよね」



リナリー「……………。なんか兄さん………、色々心配してて働き詰めみたい」





アレンもそう感じたのか、言葉をこぼしていた。





アレン「心配？リナリーの？」





ポコ！と丸めた新聞紙ではたかれてしまった。





アレン「！」



リナリー「伯爵の！」



アレン「あ」



千代「クスクスｯ、まあ、アレンの予想も合ってるんじゃない？
多かれ少なかれ、彼以上にリナリーを心配する人なんていないもの」





なんてったってドがつくほどのリナリー大好き人間だと知っているからか、安易に想像がついてしまった。
声を殺しながら笑っていると、呆れたように溜め息づきながら、心配そうに話す。





リナリー「もう、千代も勝手なこと言わないで。
……………最近、伯爵の動向がまったく掴めなくなったらしいの。

『なんだか嵐の前の静けさみたいで気持ち悪い』ってピリピリしてるのよ」



アレン「伯爵が………………

！！？」



？？？「じぃ――――………」






ガチャーンｯ






千代「？？
どうしたの、アレン」



リナリー「？
アレンくん、フォーク落ちたよ」





アレンが私たちのほうを見てひどく驚いた表情をしたまま、持っていたフォークを落としてしまった。





アレン「あああ！！！」



？？？「――ギクッ)はっ！」



千代「うるさいよ、アレン。お店の人に迷惑でしょ？」



アレン「いや、だって！！この人です、リナリー、千代！！！」





いきなり背後にいた女性を指差しながらそう叫ぶアレンに、私たちは振り向くや否、なぜかの女性と追いかけっこをすることになってしまった。





？？「エクソ………シスト……………？」



アレン「はい………。
てか、何で逃げるんですか」





ゼー………ゼー………と息を切らしながらそう聞き返す彼女に、アレンが「しかも窓から……………」と答えるも、彼もすでに息が切れていた。
なんか、デジャブだな。その台詞を聞くの。




？？？「ごめんなさい。何かの条件反射で……………」



千代「(うーん、彼女らしいなあ……………)
ま、まあ……………話は中でしましょう？」





私自身、彼女のことはよく知っていたけれど、初対面な上にこうも……………条件反射がすごい人に直接言うと何が起こるかわからないから、とにかく中で話を聞くことにした。






────ジリリリリ…ｯ




店主「もしもし、ベルリーニの酒屋だが、明日10日までにロゼワイン10樽頼むよ」



ミランダ「わ、私はミランダ･ロットー。

うれしいわ、この街の異常に気づいた人に会えて………」





そう酒屋の店主がロゼワインを発注している中、私たちは、ミランダ･ロットーと名乗る女性と話をしていた。





ミランダ「誰に話してもバカにされるだけで、ホントもう自殺したいくらい辛かったの。
あ、でもウンコはよけられるようになったんだけどね」



アレン「ウンコ？」



千代「そ、そうだったんだー………｣





ウフフフフ、と嬉しそうに笑うミランダは本当にどこから見ても不気味すぎた。
こっちもこっちで、貼り付けた笑みが取れそうにないくらい、顔が引きつる。





アレン・リナリー・千代(((この人、だいぶキテるっぽい)))





漫画の中じゃなくても怖かったけど、リアルはもっと怖い。
まさか、そんな体験して、ここまで精神的に参ってる人に出会うとは思いもしなかった。





リナリー「………え、ええと、ミス･ミランダ。
あなたには街が異常になりはじめてからの記憶があるの？」



ミランダ「ええ。
街のみんなは昨日の10月9日は忘れてしまうみたいだけど、

私だけなの………。


ねえ、助けて。助けてよぉ。私、このままじゃノイローゼになっちゃうぅ～～～～

あなた、昨日私を変なのから助けてくれたでしょ。助けたならもっと助けてよ───っ！！！」



アレン「うわわっ、怖いっ！！！」





げっそりとした表情を浮かべたと思ったら、いきなりぐわっとアレンにしがみついた。





アレン「二人とも、助けて！！」





しがみつかれたアレンも、あまりの狂乱した彼女が恐ろしくなってしまい、私たちに助けを求めてしまう。





リナリー「お、落ち着いて、ミス･ミランダ！！
助けるから、みんなで原因を探しましょう」



千代「そうそう。今焦ったところで────」



ミランダ「原因ったって、気がついたらずっと10月9日になってたんだものぉ～～～～」





ﾋﾟｸｯ



不意に、死臭がふんわりと漂う臭いがした私は、じぃっとカウンターの方を睨みつける。





リナリー「本当の10月9日に何かあったはずよ、心当たりはない？」



アレン「……………」




彼女達は何も感じないのか、まだ話を続けている。それはそれで相手の気をそらすに十分だけど………とっさの判断ができない。
なるべく自然体になるよう、こっちが気を張らなければいけないのかもしれない。
アレンも私と同じように何かに気づいたのか、左目をピィイｯと周囲を視ていた。





千代「……………ｽﾝ、ｽﾝｽﾝ………。
アレン、気づいた？」



アレン「ええ。
リナリー、ミランダさんを連れて一瞬で店を出て」



リナリー「！」



アレン「君の黒い靴（ダークブーツ）なら、アクマを撒いて、彼女の家までいけますよね？」





ガタと立ち上がるアレンに、何かあったのかすぐに察したリナリーはミランダの元へテーブルを飛び越える。