トンテンカン、トンテンカンと金槌を打つ音が城内に響き渡る。





千代「……………リナリー。私、手伝いに行ってくるね。アレンをお願い」





あのあと、気絶してしまったアレンを看病すべく、犬神に頼んでソファまで彼を運んでもらった。





リナリー「わかったわ。……………千代はもう耳大丈夫なの？
(あとで兄さんにはお灸を据えなくちゃ………)」





「まだ、聞こえるんでしょう？」と心配そうに聞いてくる彼女に、私は「ありがとう」と苦笑を返す。





千代「制御ピアスがまだ出来上がってないから、確かに聞こえるけど、今はそこまでじゃないから大丈夫よ」



リナリー「…………。(本当に？)」





「それじゃ、行ってくる」とリナリーに告げて未だ修理しているみんなのところへと向かう。
まだ少し心配そうに顔を覗くリナリーから逃れる。




リーバー「･････お、千代じゃないか。
(良かった。顔色は良さそうだな)」





はちまきをしながら材料を持っているリーバー班長に「どうも。お手伝いしますよ」と会釈する。





千代「みんな。彼らの手伝いをして」





ボボン、と呼び出した獣たちに、重いものを持つよう指示をする。





リーバー「ありがとな。助かる。
(まだ耳が良すぎるのに、悪いことしちまったな)」



千代「……….。いえいえ、これくらい大丈夫です。
コムイさんに制御ピアス作ってもらうまで、いくらでもお手伝いしますよ」



リーバー「そ………そうか」





にこっと笑う私に、リーバー班長は心の中で(こえー………)と怯んだらしい。

……………一通り、作業が終わりを告げた頃、アレンが気がついたらしく、リナリーとイノセンスのことを話していた。





アレン(かわいいな)



千代(･･･････まあ、リナリーは可愛いわよね)





純情な彼だから、今頃リナリーの笑顔に顔真っ赤にしている頃だろう。
心の声が筒抜け状態だし、色んな声が聞こえてきて、正直疲れるんだけどね。





ジェリー「もー！何で料理長のアタシが大工しなきゃなんないのよ！
(ほんと、やんなっちゃうわね！！)」



リーバー「人手が足んないんスよ。
(室長のせいで)」



ジェリー「あんた達、朝ごはん抜きだからね！！(後悔なさいな！！)」



千代「お、落ち着いて。ジェリーさん」





みんなでざわついた中、科学班研究室へと戻ると、アレンの周りに集まる。





リーバー「おー、アレン。目が覚めたか。
(良かった、良かった。)」



ジェリー「一体、夜に何があったのアレンちゃん。
もー、城内ボロボロよ。
(この私が駆り出されるなんて、最悪だわ)」



ジョニー「アレン、お前の部屋壊れてた。(すまん。)」



アレン「ええ………。(がーん)」





「ボロンチョ」とジョニーがさっきまで働いていたからか、汗流しながらアレンに耳打ちする。





全員「おかえり、アレン」



アレン「･･････っ(ただいま)」





そんな彼らを、私は遠くの方で微笑ましく見つめていた。

今日はアレンとコムイさんがヘブラスカの元へイノセンスを預けに行っている中、私は森の方へと歩いていた。





千代「･･････」





今日こそ、彼女に会わないといけない（・・・・・・・・・・・・）気がする。
それが何故なのかはわからないけど。




〔…………ねえ、千代〕





しばらく歩いていると、キキが話しかけてきた。





千代「んー？」



〔突然、森に行こうなんて言い出して…………何かあったの？〕





〔能力のコントロールでもするの？〕と心配そうに聞いてくるキキに、「ううん、今日は違うよ」とにっこり笑う。





千代「今日は、ある人のお墓参りをしに行くの」



〔……………お墓参り？〕



千代「そう、お墓参り……………。
なかなか行けれなかったから、今日は行けるかもって思ってさ」





彼女に会って、今の力の使い方を知らないと…………今後、何が起こるかわからないからね。





千代(…………千年公が動き出す前に、こっちも準備しておかないと)











＊　＊　＊　＊　＊　＊





テーブルの上に置かれたタマゴに不気味な笑みが書かれていた。


一さじ掬い、正装した男は何か気に入らなかったのか、「………甘くねぇじゃん」と言って、吐き出してしまった。





？？？「このポンコツがぁ！！！」





近くに待機していたメイドのアクマを殴りつけていた。





？？？「このクソッ、ボケアクマ！！
甘くしろっつったろーが！！」






たかが、料理が甘くない（・・・・）という、それだけの理由で。





？？？「おいおい、食事中にグロイもん見せんなよ。
剥け（・・）てんぞ」





アクマを殴り続けていたせいか、その男の腕がまるで化け物のように異様に変形していた。





男１「帰る！お前達とは味覚が合わない」


男２「ンだよ、タマゴくらい食えっての。この甘党！！」


少女「落ち着きなよぉ。せっかく家族でメシ食ってんだろぉ。
なあ、千年公？」





男を止めていたもう一人の男が気にくわないとでも言うように、舌打ちをすると、隣に座っていた少女が不気味そうに笑っていた。





少女「気分直しにさぁ、そろそろ僕たちをメシに誘った理由を教えてよぉ」





タマゴを食べ、いつもと変わらぬ表情でもぐもぐとさせている千年公に、少女は甘えるように言った。





少女「…………もしかしてさぁ、そろそろ始動ってやつぅ？」