そんな私にほっとしたのか、彼も笑い返して私の手を引こうとすると、途端に顔を曇らせていた。

一瞬そんな彼が不思議だったが、彼の視線の先に気づいて咄嗟に腕を隠す。

……そうだ、自分で刺していたのをすっかり忘れていた。





ラビ「……そのケガ……」



千代「だ、大丈夫！自分でちょっと刺しちゃって……」



ラビ「刺したって、ちょっとどころでもないだろ、それ……っ」





そう。ちょっとやらかしたっていうレベルを超え、今なおドクドクと流れ出ていく血を見て、彼は顔を顰（しか）めていたのだ。

これ以上心配をかけたくなかったが為に、「大丈夫」の一点張りをしていると彼からデコピンを食らわせられた。





千代「あいたっ！？」



ラビ「変に意地張ってんなってーの。ちょっと貸してみ」



千代「……う、ん」




顔が引きつっていたなんてことも、意地を張っていたのも気づいてた。

……いや、気づいてたんじゃない。私の顔に出ていただけだと思う。





千代(……ほんと、ラビは優しいな……)





そんな彼だから、キャラクターとしてとても好きだった。

ブックマンとして、感情も人間関係も必要ない。すべては世界の記録を遺（のこ）すために、ここにいるだけ。


それがどんなに残酷だとしても、何度も心を殺すことになっても、ラビ達ブックマンとしての使命であり、役目でもある。

そんな彼でも、れっきとした人間だ。
これから遠くない日に、心が押しつぶされそうになるほど、これでいいのかと心が揺さぶられていくのだろう。





千代(……結末、とまではいかないけど……)




彼がこれから歩んでいくその先を、私は知っている。

それが、私という特異点（・・・）によって未来にどう影響があるのかはまだわからないけど、それでも、すごく辛いものになることは変わらないと思う。

どうして、そんな彼に心が惹かれたのかはわからない。わからないけど、少しだけ……似ているところがあったからかもしれない。





千代「……ごめんね、ラビ」



ラビ「んー…？……よく頑張ったな」





ぽつりと小さく言葉をこぼすと、不思議そうに笑いながらまた優しく頭を撫でてくれた。

そんな彼の笑みに、ｽﾞｷﾘと心が痛む。でも、その言葉がなんか嬉しくて、はにかみながら私も笑い返す。