こんなにも私は弱かったのだと、思い知らされた。

こんなにも、平和な世界で過ごしてきたのだと……。

あの時の憎しみも何もかも、この世界にとっては比でもないくらい、生易しかったものなのだと、深く……心を抉られた気がした。

今までの力なんていらない。こんな力なんていらない。そう思っていても、現在（いま）を生きていくしかない。

神様は残酷だ。誰も望んでいないものを、人を盤石の駒として動かしているのだから。


ぎゅっとラビの服を握る。優しく撫でる彼に顔を見られたくなくて、しがみつくように埋（うず）めていると「……お前が無事でよかったさ」と小さく囁かれた。





千代「……よく、ない。こんなの……よくないよ」



ラビ「そう、だな。……けどオレ達はこんなところで立ち止まってらんねえ。

･･････こいつらの分まで、オレ達は任務を最後まで全うするしかねぇんだよ。

だから……泣くのは、全部終わってからにしようぜ」



千代「･･････ッ」




ラビの言葉が深く突き刺さる。それと同時に、少し頭を冷やせた気がした。

この世界で生きていくには、何度も同じような体験を嫌という程する。何度も、“人”という化け物を殺していく。

彼の言うとおり、こんなこと（・・・・・）でいちいち嘆いている時間はない。

強くなりたいなら、泣いてばかりはいられない。守りたいものを守れるように、この力を利用していけばいい。

力に囚（とら）われないように、私自身が制御できるようになればいいのだ。


最初（はな）からこの力と向き合わないでいたから、こんなにも臆病になっていた。





千代(……まあ、元から臆病者だったけど)





何かが吹っ切れた私は、彼からゆっくりと離れる。





ラビ「……大丈夫か？」



千代「……うん。ありがと、ラビ」





顔がぐしゃぐしゃだったけれど、精一杯笑う。

私だけこんなにつらいんじゃない、この世界をずっと生きてきたラビ達の方が一番つらい思いをしてきている。

私なんかが体験したことは、さっきも言ったけれど、まだまだ易しい方なのだ。