私が無意識のうちに、右目から一筋の涙をこぼすと、聞こえてきた“何か”は《何を泣いてやがル。お前の大切なモノの仇（かたき）を討ちたくねぇのか？》と笑いながら私の心を揺さぶる。





千代「かた･･･き･･････？」



《ああ、そうだ･･････仇だ。俺様が力を与えヨウ。だがその前に、小娘･･･貴様の血をいただくぞ》





その瞬間、彼の声を聞いていたはずの私は、目の前が真っ暗になった。





千代「ハァ･･･、ハァッ････うぁ･･･っ」





気持ち悪い･･････吐き気がする。





千代(･･･････い、や･･･････ッいや･･･ッ)





もう二度と嗅ぐことがないと思っていた生臭い鉄の匂い。

ぴちゃ、ぴちゃと滴り落ちながら地面を真っ赤に染め上げる血の海に忘れたかった記憶が呼び起こされる。


呆然とその場で固まっている間に、黒い星のペンタクルに犯された最期の1人だった人の身体がバシュッと砂屑と化した。

漫画で見たことがあるその光景･･････それ以上に心が押しつぶされそうで、過呼吸になりかけた私は、近くにあったナイフで自分の左腕を思いっきり刺した。





千代(･･････く･･･っ大、丈夫･･････これは、あの時とは違う･･････)





･････････そう、あの時とは現状も何もかも違う。ただ･･････目の前で殺されたこと以外は。

強く捻るように差し込めば、痛みによって少しだけ冷静になれた気がする。

荒治療ではあるけど、こうでもしなきゃ･･････身体がまるで金縛りにでも遭ったかのように強張ってて、咄嗟の条件反射が出来なくなりそうだった。



深く･･････そしてゆっくりと深呼吸を繰りかえしていると突然、人のような声が聞こえてきた。





？「おやおやおや･･････まだ生き残っていたのか。･･･さっさと死ねば、楽だったのになぁ」



千代「･･････っ、アク、マ･･････」







ドクン･･････ッ








千代(こいつが･･････ルクさん達を･･･殺した･････････)





守ろうとして集まった人達をまとめて撃ち殺したこいつらが憎い。

こいつらアクマなんかに殺される原因を作った私が憎い･･････ラビ達の優しさに甘えて、ここのこと少しも分かってなかった。


きゅっと唇を噛みしめる。


目の前にはおぞましいほどの邪な笑みを私に向けるレベル２のアクマ。

そして、同じように笑うレベル１のアクマ(雑魚)は、私に狙いを定め、銃の形をした腕を向けていた。


連射してくる彼らの攻撃を、必死に精霊達が結界を張り続けながら守り抜いていく。


長時間も結界で守り続けるのは、いくら四大精霊の力が強くても、限度がある。

張っては壊れ、張り直してはの繰り返しをしていけば、並行して疲労も重なり、張り直すスピードが徐々に落ちていく。





火精〔くそッ、これじゃキリがねぇぞ…！〕



風精〔……あ、また……っ、壊れ……っ〕



土精〔狼狽（うろた）えるでない、この若造が。ここが踏ん張り時じゃぜ！〕



水精〔────っ！？なんじゃ、この禍々しい気配は……〕