晴れて自由の身となったミランダは、必死に壁際へと逃げ込むも、時計の前で動かず座り込むアレンを見つける。





ミランダ「アレンくん………？
しな……死なないで………。アレンくん、死なないで………」





震えが止まらないミランダは、涙を流しながら彼の名を呼ぶと「だ、大丈夫………」と相当な怪我を負っているのにも関わらず、にっこりと彼女を安心させるように笑った。





千代「……………」



アクマ「！？……なんだ………？」





動けなくなったアレンにとどめを刺そうと、アクマ三体が揃ってイノセンスの近くへ向かうと、眩い光線がアクマ達を追い払う。





ミランダ「……っ、え………？」





カタカタと震えながらもその場を動こうとせず、ぎゅっと頑なに瞑っていた目を開けるとアクマ達に立ちはだかるように、目の前に現れた千代は「……ミラ、ンダ………」と小さく呟く。




ミランダ「！………千代ちゃん」



　千代「ごめ、んね………すぐに、助けられなくて………せめて……ミラ、ンダ……だけでも………」





その声を聞き逃さなかったミランダは、じっとアクマ達を見つめる千代の顔が、ひどく青ざめていたのに思わず泣きそうになる。





ミランダ「────っ！」



アクマ「同じエクソシストが死にそうってのに、何にもしなかった奴がいきなり現れたところでなんになるってんだ………？」



「死死死死死……ッ、ぶっ壊れろ！！！」





襲いかかるアクマ達から、咄嗟に翼を巨大化させ、イノセンスごとミランダ達の上に覆い被されば、三体の攻撃が一斉に降りかかる。





ミランダ「！！千代ちゃん……！！」




シュウゥ……と煙が晴れれば、真っ白だった体も銀色の翼も穴が開くほどにボロボロだった。
それでも彼女達を守ろうと、意識が無くなるまで攻撃に耐え続けた結果、ふらふらとミランダ達の近くで墜落する。





ミランダ「千代…ちゃん……っ、千代ちゃん！！！」





何度も何度もミランダが呼びかけても反応がない彼女をぐいっと引き寄せ、同じように動かなくなったアレンと一緒に庇うように彼らの体を抱きかかえるその様子にアクマは「なんだ、メス？」と問いかける。





カチ……、コチ………





アクマ「何やってんだ～？」



ミランダ「は…はは……、ホント、何やってんの、私………。でも……でも………」





カチ……、コチ………





アクマ「人間に何ができんだよ～～～～～～」



ミランダ「でも………！」





途端、今まで何も起きなかったミランダの時計が突如光り出した。

それに呼応するかのように、周りに白い光が広がっていく。

突然下から湧き上がる力に、何かの存在を感じたのか、ふとミランダが振り向けば、隣で浮遊している時計が、淡くも強い光を放つ。

それはまるで………ミランダに自分の名を呼ぶよう、促しているようだった。





カチ……、コチ………





ミランダ「イノセンス………？」





カッ





ぽつりと呟いたその言葉に呼応したのか、イノセンスとして発動した時計が、眩い光を波紋させるようにカチコチと音を立てながら、一種の亜空間を作り出していく。

街で起こった現象とはまた別に、傷を負った時間を巻き戻していくと、意識を取り戻したのか「ミランダさん………」とか細いながらも声を出せれるようになったアレンは、隣で同じように気を失っている千代に目を向ける。





カチ……、コチ………





アレン「！」





彼女から出て行く時計の模様に気づいたアレンは、自身からも出て行くのを静かに見ているうちに、徐々に傷が治っていく。





カチ…、コチ………





むくりと起き上がって自分の体を見つめるアレンに、驚いたミランダが「ア、アレンくん、動けるの………？」と彼の顔をのぞき見る。





アレン「ミランダさん………そっか…」





「やっぱり適合者だったんですね」とフッと笑うアレン達の隣で呻き声をあげながら、「………一体、何が……？」とむくりと起き上がる。





ミランダ「！！、千代ちゃん！！」



アレン「よかった、気がついたんですね」



千代「………ミランダ、それにアレン……」





あまり状況が分かっていない私に、どうしてこうなったのか話してくれたけれど、未だにちんぷんかんぷんだ。





千代「なるほどね。

ミランダのイノセンスのおかげで、動けるようになったのは分かったけど………何で私、この姿のままなの？」





そう。一番の謎は彼女の能力によって、傷は癒えている体のハズが、銀色の翼と髪………そして瞳の色が元に戻らないことだった。

しかも、アレン達の話を聞いていくうちに、私は人形にされているリナリーとは別で、まるで何かのタマゴのようなものに閉じ込められていたらしい。