初穂に
名前変換
名前変換神社の用語や主人公の設定(仮)などを余談にまとめております。
もしよろしければそちらもお読み頂けたらと思います。
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はあ、はあと呼吸の限界までひた走った。
もう自分がどこにいるかもわからなかった。
それまで住んでいた故郷をずっと離れて、見慣れない服装の人々や建造物をそっと目に映していた。
心配そうに遠くから目を向ける人、薄汚れた自分を少し避けて扇で顔を隠す人。
名前はまるで天国に来たのだといった気分だった。目に入るすべてが新しいもので、帯のいらない着物やひらひらとした帽子は全て黄泉の国の神様こそが着られるものなのではないか、自分も両親の元へ行けたのではないか、まさに夢見心地であった。
「おい、何してんだよ!お前神社の女だろ!なんでそんなに汚いんだよ!」
「え、あっと、その...。」
「なんだこいつ、田舎もんかよ!きったねー!」
コチン、と突如体にぶつけられた石ころで目を覚ました。
恐らく今自分が立っている地に住んでいるのであろう。どこか和服とは違う装いだった。
汚い汚いと言われてぶつけられた石ころが人々の優しさをも連れて行ってしまったのか、先ほどまで目を向けていた人も皆いなくなってしまった。
傍から見れば完全に子供同士の喧嘩であった。
「やめろ!」
突然後ろからした大きな声に、今度こそ体まで反応するくらいに驚いた。
下を向きながら突然現れたかと思えば、ただそう一言叫んだ後に私の手を取って走り出した。
当然何が何だか分かるわけがなく、ただその手をきゅっと握って疲労を我慢して足を出すことしか出来なかった。
後ろからおい、待てやい!とかなんとかと声も聞こえていたものの、相手をする暇がなかった。
さっきもこんなことがあったばかりなのに、今日はどうしてこうも走ってばかりなのだろう。
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「はあ、ここまで来れば、大丈夫かな。」
私よりも少しだけ背の高くて、長い黒髪を一つに束ねた男の子...?
すごく綺麗。着物を着ていたら女の子といわれてもおかしくなさそう。
さっきまでちゃんとつないでいた手を離して、その子は私の顔を拭ってくれている。
「あなたは...?どうしてここに?なんで私を助けてくれたの...?」
「俺は冨岡義勇。走っていたら遠くで困っているのが見えたから、助けないといけないと思って。その...。」
そこまで話したらその子はうつむいてしまった。
名前は何となく悲しそうという事だけはわかった。
きっとお家を飛び出したのだろうと解釈して、頃合いを見て帰らせないと。両親がいるのだろうから。と心の遠くで思った。
「ねえ、俺今ここに居たくない。もう少し遠くに行きたいんだ。
一緒に行かない?」
「えっ、でもお家に帰った方が良いよ。だめだよ。」
大丈夫だから、と寂しそうな笑顔を見せた後にまた歩き出しちゃった。
私は良いけどこの子は、冨岡くん...?はどうして帰ろうとしないんだろう。
少し人通りがあるところに来たら、冨岡くんは袂辺りを掴ませてくれた。そこまで小さくもないのに手をつないで引いてもらうなんてちょっぴり恥ずかしかった。
歩いていたら小さな広場があって、そこの水道でお水を飲んで少し休んだ。
冨岡くんはあのね、って思い切った様子で袴を握りながら話しかけてくれた。
「ずっと怖い思いをさせていたらごめんね。俺、最近家族が亡くなったんだ。鬼に襲われて...。けど、親戚の人とかみんな信じてくれなくて、無理やり引き取られそうなところを逃げてきたんだ。」
「そうだったんだ...。あの、あのね、私も...。」
名前も自分の悲劇の顛末を話した。
お互いに終始驚いていた。
鬼という存在、そしてその鬼が人を襲うという事実を知っている人、知らない人、いずれにしても自分たちを理解してくれる人はいないだなんて。
冨岡くんはお姉さんが居たらしい。けど、そのお姉さんが...。
冨岡くんもおんなじだったのかな、私よりかはもうちょっと悲しくないと良いな。
今見てようやく気が付いた。もう少しで沈んじゃう太陽が冨岡くんの顔にも涙の痕とかを照らしてる。いっぱいいっぱい苦しかったんだろうな。
「おいおい、んなところで汚ぇガキ共がなにしてやがる。」
「ここはこの辺に住んでるやつらの場所なんだよ。お前らみたいた汚いガキは警察に突き出すぞ。」
「孤児かなんかか?あ?」
また体が少しずつ震えていく感じがする。そっと見てみると冨岡くんも同じだった。
何も言えない私たちにおじさんたちはすごく怒っていくようだった。
でも何も言えなくて、怖くて声も出ないし足もふわふわしていく感じがある。
どうしようどうしようと思っていたら、また冨岡くんが私の手を引いて走り出した。
今度は誰も追ってこなかったけど、冨岡くんが震えているのが伝わる気がする。
「わ、わたし!ずっとついていく!」
「私、ずっと冨岡くんと一緒にいるから!ちゃんと、私が冨岡くんを守る人になるから!」
気が付いたら走りながらそんなことを言っていた。
冨岡くんは一回振りむいてびっくり顔をした後、ありがとうって笑ってくれた。
それからは何かから逃げるために走るんじゃなくて、二人で風を切って走るのが楽しかったんだと思う。