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「律って可愛いっすよね・・・。」
昼休み。菊田と杉元は、社員食堂で昼食をとっている。
杉元は少し離れた場所で、女性社員と共に食事をしている律を見て呟いた。菊田もそちらに目を向ける。
「なんだ、狙ってんのか。」
笑いを含んで言う菊田に、杉元は顔を赤くする。
「・・・でもなかなかガード固くて。」
「ふーん。顔のいいお前でもダメか。」
「真面目に言ってんですよ。」
むすっとした顔でいうと、杉元は食事を頬張った。菊田は「ごめんごめん。」と笑いながら、もう一度ちらりと律を見る。
「競争率高いだろ。」
「そうなんすよ・・・え、もしかして菊田さんも・・・。」
僅かに口角を上げ、射抜くような目で律を見る菊田に、杉元はぎくりとする。そんな杉元を見て小さく笑うだけの目の前の男に、杉元は頭を抱えた。
「勘弁してくださいよ・・・菊田さんが相手じゃ俺・・・。」
「遠慮すんなよ。」
「遠慮なんてしませんよ。」
食事を取り終え、煙草を吸いに行く菊田を見送る杉元は、ぼぉっとその背中を見つめる。
「あんたの色気に敵う気がしねぇ。」
小さく呟いた杉元の声は、誰にも届かずに消えていった。
「律、今日飲み行けるか?」
菊田が喫煙所からオフィスに戻ると、尾形がデスクに座る律に声を掛けているところだった。それを横目に、菊田はこの後の外回りの為に準備を始める。
「んー、どうだろ。この後外回りだからなぁ。」
「連絡しろよ。」
「佐倉、そろそろ行けるか?」
尾形と律の会話に割って入る様に、菊田が声を掛けた。
「あ、はい、行けます。」
「じゃあね。」と尾形に言うと、律は鞄を持って立ち上がる。じっとりとした尾形の視線に気づかないふりをして、菊田は歩き出す。後ろをついてくる律を振り返ると、菊田は足を止めた。尾形はすでに自分のデスクに戻り、珈琲を啜っている。
「今日はそのまま直帰するか。」
「いいんですか?」
「帰ってやる事もないだろうし、たまにはいいだろ。」
菊田はそう言うと、ホワイトボードの菊田と律の名前の隣に”直帰”と書き込んだ。
「あれ、社用車じゃないんですか?」
菊田と律は、車を取りに地下駐車場まで降りる。菊田が社用車を素通りした事に、律は首を傾げた。
「直帰しようと思って、今日は車で来たんだよ。」
「菊田さんの車ですか。」
黒く大きな車の前で、菊田は足を止める。
「あぁ。嫌じゃなけりゃな。」
「嫌じゃないです。」
菊田はキーを操作すると、助手席のドアを開けた。
「どうぞ。」
「お邪魔します・・・。」
いつになく色香の漂う菊田にエスコートされるまま、律は助手席に乗り込む。律が座席に落ち着いたのを確認すると、菊田は彼女に微笑みかけ、静かにドアを閉めた。その微笑みに速鳴る心臓を落ち着けようと、律は小さく深呼吸をした。
菊田と律が取引先のオフィスに入ると、顔馴染みの社員が出迎える。終盤に差し掛かっている共同プロジェクトの会議は、思ったよりもスムーズに進んだ。最後は世間話になり、そちらの方が本題より長い気もしながら、菊田と律は笑顔を振り撒く。
「悪い、ちょっと待っててくれ。」
「ごゆっくり。ロビーにいますね。」
漸く会議が終わると、菊田は取引先の重役に呼ばれた。喫煙所にでも行くのだろう。律はロビーのソファに腰を下ろすと、ノートパソコンを開いて仕事のメールをチェックし始める。
「佐倉さん。今日もありがとうございました。」
「あぁ、こちらこそ。ありがとうございました。」
会議に参加していた顔馴染みの男性社員に声を掛けられた律は、軽く会釈をする。しかし隣に座って世間話を始め、一向に立ち去ろうとしないその男に、律は仕方なくノートパソコンを閉じた。
「佐倉さん、良かったら今度飲みに行きませんか。懇親会という事で。」
絶妙に近い男性社員になんとか笑顔を保ちつつ、律は思考を巡らせる。
「懇親会ですか。でしたら菊田にも声を掛けておきますね。」
「あ、いえ、あの、よかったら二人で・・・。」
「・・・二人ですか?」
「あ、二人だとあれなら無理にとは言いません。とりあえず連絡先を交換しませんか?」
「連絡先なら、既にやり取りをさせて頂いているじゃないですか。」
あくまで笑顔で対応する律だが、そろそろ限界だ。そう思った時、菊田がロビーに姿を現した。律と男性社員の距離の近さに、菊田は眉間に皺を寄せる。何より笑顔を貼り付けてこそいるものの、上体を反らして目一杯男性社員から距離を取る律の様子に、胃の辺りがムカムカしてくる。
「何のお話ですか。」
ソファに座る二人の方へ歩みを進めながら、菊田は笑顔で声を掛ける。
「あ、いえ、懇親会をしませんかと・・・。」
笑顔でいる筈の菊田から唯ならぬ圧を感じた男性社員は、ぱっと律から距離を取った。
「それは良いですね。今度日程を合わせましょう。」
「はい・・・またメールを送らせていただきます。」
笑顔の菊田に気圧された男性社員は言い終えると、足早にその場を去っていった。
「はぁ・・・。」
つい溜息を吐いた律は、はっとしてその口元を手で押さえた。
「すみません、気が抜けて・・・。」
菊田は笑うと、「行こうか。」と律に声を掛ける。律が立ち上がると、二人は並んで歩き出した。
「モテすぎるのも考えものだな。」
「そんな風に見えますか。」
「見えるな。」
二人は建物を出ると、歩いて車へ向かう。
「おかしいな・・・。」
駐車場に着いてもまだ「身に覚えがない」とぶつぶつ言う律を助手席に誘導すると、菊田は運転席へ乗り込む。
「煙草いいか?」
「どうぞ。」
菊田は律の承諾を得ると、窓を開け、煙草に火をつけた。ふぅっと窓の外へ煙を吐き出す菊田を、律はつい見つめる。
「ん?」
視線に気づいた菊田は微笑むが、律は視線を落とし、「いえ。」と呟いた。その頬が薄らと紅く染まっている事に気づいた菊田は、僅かに口角を上げる。
「菊田さん、さっきはありがとうございました。助かりました。」
頬を染めたままぎこちなく言う律に、菊田は目を細める。
「どういたしまして。大事な部下だからな。」
「・・・頼りになる上司ですね。」
菊田はどこか浮かない顔で言う律の顔を覗き込む。その挑発するような視線に、律の肩が小さく揺れた。
「それでいいのか?」
「それ、って・・・。」
顔が近い。律の顔は先程よりも紅潮している。小さく息を呑む律を、菊田は愉しそうに見つめる。
「その先は望まねぇのか。」
「菊田さ・・・」
「俺は望んでる。」
熱の籠った菊田の目に捕らえられ、律の目は大きく見開く。菊田は煙草を持っていない方の手で、律の頬に触れた。小さく身体を揺らした律だが、抵抗する様子はない。
「私で、いいんですか。」
絞り出した様な声で言う律の頬を親指で撫でると、菊田は目を細め、煙草を一口吸った。そのまま律の方へ顔を傾けると、その唇に口付ける。菊田は律の唇に舌を割り入れると、その口内へ薄く煙を吐き出した。律は苦い煙と熱い舌に驚き、一瞬唇を離そうとする。
「はっ・・・」
逃げようとする律の後頭部を押さえつけると、菊田は車の灰皿へと煙草を押し付ける。後頭部を押さえるのとは反対の手で律の背中を引き寄せると、さらに深くその口内を犯していく。深く口付けている間、背中を
「んぅ」
あまりの刺激に呼吸がままならなくなった律は、菊田の胸元を掴んだ。漸く菊田が唇を離すと、律は肩で呼吸をする。その目は潤み、熱を帯びている。初めて見る律の表情に、菊田はぞくぞくとしたものを感じる。
「可愛いな。」
上がる口角を隠す様に、菊田は律の後頭部に手をやると、自身の胸に引き寄せた。
「律。」
「・・・はい。」
初めて菊田に下の名前で呼ばれ、なんだかむず痒くなった律は、彼の胸元に頬を押し付ける。その様子に小さく笑うと、菊田は彼女の頭を優しく撫でた。
「好きだよ。」
頭を撫でながら優しく囁く菊田に、律は「私も好きです」と小さく呟いた。菊田は名残惜しそうに身体を離すと、律の額に口付ける。小さく身じろぐ律を見て愉しそうに笑うと、もう一本、煙草に火をつけた。
「さ、直帰するか。どこに帰る?」
ハンドルに身を預けて律を見る菊田の目は、意地悪そうに細められている。
「・・・意地悪ですね。」
「はは、悪い。」
そう言って笑い律の頭にぽんと手を置くと、菊田は車のエンジンをかけた。
「んじゃ、連れて帰るけどいいか?」
目を逸らし小さく頷いた律に口角を上げると、菊田は車を発進させた。
道中、信号待ちで不意打ちにキスをされた律は、この後心臓が持つのか不安になったとか。
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