微熱/菊田
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律は家へ帰ると風呂に入り、適当に食事を済ませ、明日の出張の準備を進めた。その間時々スマートフォンを手に取り、夕焼けのアイコンを眺めては画面を閉じるのを繰り返している。
菊田と連絡先を交換したばかりなのだから、一言送った方がいいのだろうか。杉元の見舞いを代わって貰ったこともあるし、一言くらいとは思うものの、どう送って良いか分からずにいる。
そわそわと落ち着きの無い心を宥めながら一泊分のパッキングを進めていると、床に置いていたスマートフォンの画面が明るくなった。間髪入れず手に取り画面を見ると、そこには"菊田"の文字。心臓がどきりと跳ねる。ゆっくりと息を吐いてから通知を開くと、彼との初めてのトーク画面が表示された。
"出張頑張れよ"
短いその文章に、つい頬が緩む。文面もそうだが、何より個人的なやり取りをしているという事実に心が浮き立つ。プライベートな時間に自分を思い、文字を打ち込むという一手間をかけてくれていることがなんだかむず痒い。
浮かれる心を抑えながら、軽やかに文字を打ち込み送信する。
"ありがとうございます。杉元くんはどうでしたか?"
一言礼を返して終わっても良かったが、つい欲が出た。いや、勿論杉元の様子は気になる。しかしもう少しだけ、このやり取りを続けたいと言うのが本音。
つい彼からの短いメッセージを眺めていると、返信はすぐに来た。
"熱はあるが、俺に飯を作らせるくらいには元気だったよ"
簡単に食べられるものは買って行った筈だが、思っていた以上に食欲があったのだろう。しかし家に上がり込んだなんて、風邪が感染ってしまわないかと心配になる。それと同時に、彼が何を作ったのかも気になった。
返信しようとするが、その前に向こうから追撃が来る。
"早く寝ろよ。始めた俺が言うのもなんだが、明日早いんだろ?"
彼の気遣いが嬉しくもあり、残念な気持ちも正直ある。しかしここでやり取りを引き延ばすのは得策ではないと解っている。この場合、なるべくあっさりと終わらせるのが吉だろう。
"そろそろ寝ます。菊田さんも、風邪引かないように気をつけてくださいね"
"そうだな、気を付けなきゃな。何かあれば連絡しろよ"
"ありがとうございます。おやすみなさい"
"おやすみ"
テンポ良く終わってしまったやり取りに、ふぅと息を吐いた。最後のおやすみの文字が彼の声で再生され、つい口元が綻ぶ。
明日の準備を済ませてベッドへ潜り込むと、彼の顔を浮かべながら電気を消した。