刹那/菊田
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「ねぇ律、今日のオススメは何?」
菊田とカルルスの旅館へ行ってからニ週間。律はそれ以来菊田とは会っていない。同じく有古も顔を見せていない。
菊田との別れ際に交わした口付けは、熱く痺れ、塩辛かった。つい流れてしまった律の涙に、菊田は切な気に笑っていた。
涙の渇かぬうちに、宇佐美という男が定食屋に現れた。軍服を着ており菊田の知り合いかとも思ったが、律は菊田の言葉を思い出す。「誰かに尋ねられても、俺や有古の事は定食屋の常連だと言え。」と。
案の定宇佐美は、菊田のことを知っているかと尋ねたが、律は言われた通りに答えたのだった。「ふぅん。」と読めない表情で答えた宇佐美だったが、何を考えてかそれ以来、定食屋に通う様になってる。
そして宇佐美は今日も三〜四度目の来店をし、軽い口調で律にお勧めを聞いている。
「んー、オムライスですかね。」
「へぇ、じゃあそれで。律が作ってよ。」
「え、私ですか?でも・・・。」
「いいじゃんお願い。ね、女将。」
こうやって周りを振り回す宇佐美は、持ち前の人当たりの良さでそれを許されてしまう。
律は仕方なくオムライスを作ると、宇佐美の元へと運んだ。
「あはは、下手くそ。」
「貴方が無理に作れと言ったんです。」
なるべく綺麗にと卵を焼いたが、店主の様に上手くはいかない。律は少し崩れた卵を寄せて誤魔化したが、あっさり宇佐美にはばれてしまった。
「あ、美味しい。やるじゃん。」
「はぁ。ありがとうございます。」
「あ、ちょっと待ってよ。」
礼を言って立ち去ろうとすると、律は宇佐美に引き留められる。
「僕らそろそろここを発つんだけどさ、付いて来てくれない?男所帯だから、何かと女の手が欲しくてね。」
「・・・はい?」
僕らというのは、軍のことだろう。唐突すぎるその誘いに、律は首を縦に振る気は無かった。
そもそもこの宇佐美という男は、初めは菊田のことを尋ねてきた。菊田の立場が危うくなる様な事はしたくない。
「まぁ気が変わったら教えてよ。」
首を縦に振らなかった律に、宇佐美は軽い口調で言うと去って行った。
律はその軽く人当たりの良い男に身震いがした。時折見せる鋭い視線は、そこらの人とは違う気がした。