短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ずっと探し続けていた。
およそ120年の時を超えても、忘れられずに追い求めていた。
そもそも、今世でまた巡り会える可能性があるのかどうかも分かりやしないのに、諦めることなんてできなかった。
そして
「律、久しぶりだな。仕事が忙しいのか?」
「土方さん、お久しぶりです。漸くひと段落つきまして。」
律と再会したのは、土方歳三の経営する喫茶店『兼定』だった。
大学生だった頃に気まぐれに入った喫茶店だったが、店の名前からしてきな臭いとは思っていた。店に入ると、頭によぎった人物が珈琲を入れていおり、律にも会える可能性が出て来た事に、気持ちが高揚した。珈琲を淹れている土方と目が合うと、奴は少し驚いた顔をしたが、次の瞬間には目を細めて口角を上げていた。どうやら前世の記憶があるらしい土方は、「久しぶりだな」と声をかけてきて、美味い珈琲を淹れた。
土方は、既に何人か前世の記憶持ちと交流があると話していたが、その中に律の名前は挙がらなかった。
しかし俺としては前世からの繋がりになりそうな場所はここしか無かった為、学生時代から、会社に勤めるようになっても、この喫茶店に通い続けた。
ちらほらと前世で関わりのあった面子と顔を合わせる事が増えていったが、数年後、遂に、漸く、切望した再会は果たされた。
しかし律には前世の記憶がないようで、その場に居合わせた土方、杉元、白石、月島、鯉登、そして俺は、戸惑い、そして律を戸惑わせることとなったのだった。
今まで前世で関わった面子に再会して記憶が無い者はいなかったが、よりにもよって、律だけが。
それからは全員、記憶が記憶なため、律には前世の話に触れることはせず、一から関係を築いていく事が暗黙の了解となっていた。
「尾形さんも、お久しぶりです。」
「あぁ。」
律はカウンターの一番奥に座る俺の、二つ隣の席に腰を下ろした。いつも通り土方にカフェラテを頼むと、「今日はアイスで」と、汗ばんだ額を手の甲で拭って微笑んだ。
「今日も暑いですね。」
つい横目でその仕草に釘付けになっていると、俺の視線に気づいた律は、はにかんで話しかけてくる。
「そうだな。仕事、忙しかったのか。」
「そうですね、ぼちぼち。」
前世では己の出自や境遇により、精神的に未熟だった俺は、律を
メニューを見ている律は、どうやら昼食をとるらしい。店の古い時計は、午後の一時を指そうとしていた。
「食事か?」
「えぇ、尾形さんは食べました?」
「いや、俺も頼もう。向こうで一緒に食べないか?」
後ろの四人掛けテーブルを指すと、律はそちらを一瞥し、俺に向き直ってにこりと笑った。
「いいですね。」
それぞれ食事を注文すると、やり取りを聞いていた土方は笑って、席の移動を促した。
テーブル席に移動すると、律と向かい合って話をした。
会社の愚痴だとか、お互いの生活の事だとか、取り留めのない話ばかりだが、それが心地いい。この時間が永遠に続いたらと、柄にもなく思ってしまった。
運ばれて来たたまごサンドを頬張る律に、自身の目尻が下がっているのがわかった。
「可愛いな。」
「んぇ?」
頬張ったままくぐもった声を出す律は、一瞬動きを止め、次の瞬間には顔に朱が刺した。
その反応に昂った感情を抑えつつ、俺は手を伸ばして律の頬に触れ、親指でその口元を拭ってやった。
勢いよく身体をのけぞらせて、俺が触れたところを押さえる律は、顔を赤らめたまま目を丸くしてこちらを見ている。
「ははっ」
反応は上々だろう。俺を意識しろ。安心するな。俺は気が長い方だが、そろそろ待ちくたびれた。
「す、すみません、付いてましたか。」
「いや、役得だ。」
律の唇に触れた親指を舐めると、律は小さく肩を揺らした。
「お、尾形さん」
潤んだ瞳で困った顔をする律は、その表情が加虐心を煽っていることに気づいていないのだろうか。
もう少し、もう一押しだ。
「尾形さん、モテるでしょう。」
小さくため息をついた律は、じとっと俺を睨んだ。それは前世でよく俺に向けられた顔だった。その顔が見たくて、無意識のうちによく揶揄っていた。今世ではできるだけ優しく接していた為に、その顔を見るのは初めてだった。抑えようとしても、口角が上がる。
「どうだろうな。だが律にそう思われるのは悪くない。」
「揶揄ってますね・・・」
むっとした顔をする律に、また手を伸ばしたくなるのをぐっと堪えた。
「揶揄ってない。律、今度飲みに行かないか。」
「飲みにですか。」
関係性は充分築いて来た。そろそろ、行動に出てもいいだろう。
「嫌じゃなければだが。」
「嫌、じゃ、ないです。」
手応えは上々。飲みの約束に
そろそろ、お前に心置きなく触れたい。その権利が欲しい。
他の記憶持ちの面々も、関係性が構築されて来た今、そろそろ行動に移してくるだろう。先手を打たなければ、掻っ攫われてしまう。それだけは絶対に阻止しなければ。
随分と待たされた分、歯止めが効かなくなって来ている。手に入れたら最後、止まらなくなるだろう。はにかみながら食事をする律にすら、欲情するのだから。
「楽しみにしてる。」