短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇねぇ、これどうぉ〜?」
「白石かぁわぁい〜」
9月に入ったと言うのにまだまだ暑く、ジリジリと汗ばむ陽気の中、律、杉元、アシリパ、白石、尾形は、遊園地に来ている。
五人は入場してすぐのところにあるグッズ売り場を見ていた。白石と杉本は、遊園地限定のカチューシャや帽子等を、試着しては見せ合ってはしゃいでいる。その様子はさながら女子高生の様。
「これアシリパさん似合いそう!つけてつけてぇ。」
杉本はアシリパに白い狼の耳のカチューシャを着けさせている。「お子ちゃまだな。」と言いながら、満更でもなさそうに少し胸を張り、目をきらきらさせているアシリパを見て、律は微笑んでいる。
ふと律は狐耳のカチューシャを見つけると、すぐ傍にいた尾形の頭に着けた。
「可愛い〜」
「何してんだ。」
折角着けたカチューシャは、すぐに尾形によって取られてしまった。
「似合ってたのに・・・。」
尾形は、笑いながらも残念がる律の頭に、そのカチューシャを着け返した。
「お前がつけとけ。」
「えぇ、恥ずかしい・・・。」
すぐに狐耳を取ろうとする律を、尾形はカチューシャを押さえつけて阻止する。
「おい、人に勧めておいて恥ずかしいはねぇだろ。今日一日着けとけよ。」
「え、本気?」
「おい尾形!お前なに律を虐めてん、だ・・・。」
律と尾形が何やら騒いでいることに気づいた杉元は、尾形にくってかかろうとしたが、目を見開いてフリーズしている。
「律は狐か!似合うな!」
「わ、わ、律ちゃん可愛い〜!」
アシリパと白石に褒められた律は、困りながらも照れている。
「かわい・・・。」
その様子に頬を染めながら思わず呟く杉元と、その隣にはなぜか得意げに前髪を撫で付ける尾形。
「百之助はこれね。」
「私も着けるんだから。」と、尾形が律に無理やり押し付けられたのは茶色の猫耳だった。特徴的なデザインのそれは、どうやらヤマネコをイメージしているらしい。一度は拒んでみたものの、全員の猛攻撃に遭い折れた尾形は、結局カチューシャを着ける事になった。
「律、俺にも選んで!」
「え?私が選んでいいの?うーん、佐一は何がいいかなぁ。」
ヤマネコの耳を生やした尾形は、まるでカップルの様にカチューシャを選んでいる律と杉元を眺めていた。
結局杉元はクマ、アシリパは白狼、白石は垂れ耳の犬、律は狐、尾形はヤマネコの耳を生やし、漸く遊園地を回り始めた。
「浮かれてるな〜。」
「お前もな。」
「・・・お前もな。」
耳を着けはしゃいで先を歩く杉元、アシリパ、白石を見て笑う律に尾形は返すが、しっかり耳を着けている尾形を見た律も同じく返す。耳を着けているお互いを見合いながら、なんとも微妙な空気が流れた。
「元はと言えばお前のせいだろ。」
「いいじゃない折角だし。」
「はぁ。」
ため息を吐く尾形に、律は困ったように笑った。
「律!食べたいって言ってたクレープあったよ!おいで!」
太陽のように笑う杉元は、駆け寄ってくると律の手を取り、クレープが売っている場所へと駆けて行く。杉元に手を引かれながら、律は尾形の方を振り向く。
「百之助!クレープだって!」
「いい。」
しかし尾形は不機嫌そうに短く返した。律は尾形を気にかけるが、杉元は「放っておけばいいよ。」と律を引っ張って行く。
尾形は馳けて行く律と杉元を眺めながら、やはり不機嫌そうに、汗で額に張り付いた前髪を後ろに撫で付けると、のろのろとついていった。
「律の一口ちょうだい。」
「ん。」
律は苺と生クリームのクレープを頬張りながら、杉元にクレープを差し出す。杉元は受け取らずそのまま律の持ったクレープにかぶりついている。尾形がベンチに座ってそれを眺めていると、律は尾形の方へとやって来る。
「百之助も食べる?」
「いらねぇ。」
律はクレープを差し出すが、尾形にそっけなく返されてしまう。律は「そっかー。」と言って笑うと、後から来た杉元とまた話始め、杉元のクレープを一口貰っている。
「律〜!あっちに着ぐるみがいたぞ!一緒に写真撮ってもらおう!」
いつの間にか居なくなっていたアシリパと白石が、手に持ったチュロスを齧りながら戻ってきた。アシリパは律の手をぐいぐい引いて、着ぐるみがいたという方へ引っ張って行く。
「着ぐるみって・・・ここではマスコットキャラと言いなさい。」
アシリパに引っ張られて行く律は楽しそうに笑う。
「律ちゃんかーわい。なんやかんや言って律ちゃんもめちゃくちゃ楽しみにしてたもんなぁ。」
「そうだな。あんなにはしゃいでる律って滅多に見ないもんな。」
白石と杉元は、優しい目で笑い、アシリパと律の後を追う。
「尾形ちゃん早くー!」
「あぁ。」
白石に呼ばれ、尾形はベンチから立ち上がると、四人の後を追って歩いて行った。
五人は広い園内を歩き回り、そろそろ休憩しようとフードコートに入った。
「随分乗ったねー。」
「律、フリーホール涙目だったな。」
「な、涙目じゃないもん!アシリパちゃんだってジェットコースター、直前でやめようとか言ってたじゃない!」
律とアシリパはトレーを持ちながら、楽しそうに話している。そのフードコートはビュッフェ形式で、好きな食事をトレーに乗せてゆき、最後にその分の会計をするらしい。
杉元と尾形は席を取るために待機し、残りの三人は先に食事を選びにきていた。
「二人とも怖がりだなぁ。」
白石がにこにこと二人のやり取りに茶々を入れると、「お前がいうな」と二人から一蹴されている。実際、一番怖がって騒いでいたのは白石だった。
アシリパ、白石、律の順に並び、好きなものをトレーに乗せて行く。アシリパは律と白石を置いて、どんどん先に進んでいる。
「律ちゃん、取りたいのあったら取るから言って。」
「わ、白石くんありがとう。」
「ついでだから」と目を細めて笑う白石は、律の希望したものをトレーに乗せていく。
「優しい〜。」
「知らなかった?でも誰にでもじゃないんだぜ?」
器用にウィンクする白石に、律は面白そうに笑った。
「あれー、狙ってた反応と違うなぁ。」
白石は律にデザートをとってやりながら、困った様に笑って言った。
「白石くんがみんなに優しいの知ってるんだから。」
デザートをトレーで受け「ありがとう」と微笑む律に、白石は優しい目を返した。
その頃席に残っていた杉元と尾形は、遠くで寄り添う様に食事を選んでいる律と白石を眺めていた。
「あいつああいうところちゃっかりしてるよな。」
頬杖をついて不貞腐れた様に言う杉元を尾形はちらりと見るが、またすぐに視線を戻す。
「お前は必死すぎるだろ。」
「こう言う時に必死にならなくてどうすんだよ。お前は何もしなくても律に気にかけてもらってるのに、何不貞腐れてんだよ。」
杉元は不思議そうに尾形を見る。尾形は椅子の背もたれに身体を預けながら、ぼーっと律と白石を眺めたまま。
「あいつはそういう奴だろ。律は誰にでもああじゃねぇか。」
「ははーん、拗ねてんのか。いいぜ、そのまま拗ねとけよ。好都合だぜ。」
挑発的にニヤつく杉元に、尾形は何も言わなかった。
杉元、尾形、律の三人は小中学校が同じ幼馴染で、近所に住む歳の離れたアシリパの面倒を見つつ、昔からよくつるんでいた。大人になった今でもそれは続いている。白石は杉元と大学が同じで、そこからその輪に加わるようになった。
尾形の言うように、律は分け隔てない性格で、周りをよく見ている。マイペースで他のメンバーに比べて感情表現の少ない尾形を、律は昔からよく気にかけているようだった。平等にとでも思っているのか、他のメンバーと絡んだ後は、律は必ずと言っていいほど尾形に話を振る。それは全員の中で、当たり前の光景だった。
会計が終わった三人が、アシリパを先頭に杉元と尾形の方に向かって歩いて来る。ふと立ち止まった白石は器用に片手でトレーを持ち、律のカチューシャを直してやっている。微笑み合う二人を、杉元と尾形は眺める。
「沢山あって選ぶのが大変だった!」
「もぉ〜アシリパさんそんなに食べ切れるの〜?」
ほくほく顔のアシリパに、ニコニコと突っ込む杉元。律たちと交代に杉元と尾形が昼食を買って来ると、午前中の写真を見返したり、マップを見ながら午後の予定を考えたりと、穏やかなランチを過ごした。
「お化け屋敷に行こう!」
ランチを終えて暫く回った後、アシリパがみんなを振り返って言った。
「お、お化け屋敷かぁ・・・。」
幽霊的な類のものが大の苦手な律は、ついて行きつつも心中穏やかではなかった。
「大丈夫だって!律ちゃんは俺が守るから!」
どんと胸を叩いた白石は律を自分の腕に掴まらせるが、入場早々に白旗を上げ、律と絶叫しながらしゃがみ込み、抱きしめあって一歩も動けなくなった。
「おいおい、怖がり二人でしがみつきあっても進まねぇだろ。」
杉元は律を白石から引き剥がし立たせると、その腰を抱いて歩き出す。アシリパによって尻を蹴り上げられ飛び上がった白石は、尾形に抱きつきながらなんとか進み出した。
「おい、離れろ。野郎に抱きつかれて悦ぶ趣味はねぇ。」
「尾形ちゃん酷い!お願い守って!」
「ははぁ、作り物だとわかっていて怖いかねぇ。」
尾形は白石を引き剥がしながら、愉快そうに仕掛けを見ている。「仕方ないな。」と差し伸べられたアシリパの手を取らず、白石はその腕にしがみついた。それを横目に、尾形は前を行く律と杉元に視線をやった。
「律は昔から怖がりだね。」
「高校の頃行った肝試しなんて、もう本当怖かったんだから・・・。」
涙目で必死にしがみ付いてくる律にふっと笑うと、杉元はその腰に回した腕を、どさくさに紛れてぐっと引き寄せた。
「あぁ、高校の頃に尾形とアシリパさんと行ったやつか。あの時も律、ずっと俺にしがみついてたもんね。」
「だって私以外みんな平気で進んでいっちゃうんだもん!」
「あはは、ごめんって。懐かしいな。」
胸元にしがみ付く律の手を、杉元は腰を抱くのとは反対の手で被せるように握った。
なんとかお化け屋敷を出た一行は、主に律と白石のために休憩を挟むことにした。
ベンチに座り込む律と白石に、杉元が冷たい飲み物を買って来る。
「さっき律とさ、高校の頃に行った肝試しの話をしてたんだ。懐かしいよな。」
「何それ楽しそう!青春してるじゃん!」
先ほどの話をする杉元と白石に、いくらか落ち着いた律は笑う。
「アシリパちゃんと百之助と四人でね。」
「あの時も律だけ怖がって、杉元にしがみついてたな。」
「だからそれはみんなが置いて行くから!百之助なんて全然平気な顔して行っちゃうし。全く怖く無いの?」
いつものように話を振って来る律に、尾形は「あぁ。」とだけ返すと、そのまま飲み物を買いに行ってしまった。
いつもとは違う尾形の様子に、律は顔を曇らせた。
→後編へ続きます。(『空から近い場所 02』)
1/13ページ